《災厄の根元》
《災厄の根元》
〈人類に災害をもたらす諸悪の種。世界の調律から逸脱し、存在するだけで災いを引き起こす者に与えられる称号。
称号《鬲皮視》を習得する前段階ともされ、人の道を踏み外した事を意味するなによりの証。進化先にも大きく影響する。〉
ああ、取り敢えずなんちゃら皮は文字化けしてるだけだろうからスルーするとして、世界の調律から云々っていきなり話が大きくなりすぎだろ。
それは一旦置いておくとしても、まだ心は人の心保てていると思うんで、いるだけで害悪認定されるのはちょっと扱いが酷いというか、えっと、この称号がなんらかの弾みでバレたりした暁には交渉の余地なく追放されそうなんですよね。
あの街にもようやく馴染めてきたところなのに、ここにきてこの称号はあまりにも不名誉すぎる。身に覚えがない濡れ衣を着せられた挙げ句、称号を引っ提げたまま歩こうものなら最悪処刑沙汰に発展してもおかしくないのだ。最早擦り付けを通り越した理不尽である。
「はあ……?」
率直に理不尽だろと悪態をつきたくなるのを一旦抑え、これからあの街でどう過ごすかを一度考え直すことにした。まだこの称号を獲得した理由がハッキリしてないし、もし可能であるというのなら私のステータスから一刻も早く消してほしい気持ちはある。
でもごちゃごちゃ引き伸ばしていざと言う時準備が整わなかったではあまりにも情けないし、どんな形であれ進化したらおさらばするだろうと考えていた以上はこの称号にそこまで引っ張られることもあるまい。
─結局やることは変わらないのだから。
「…………レンさん!」
「っひい!?」
すぐ耳元で声を掛けられたことに驚き、思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。声の主であるケイトを殴りたくなる衝動に駆られつつ、突然のことでびくびくと小刻みに震えている心臓を落ち着かせる。
「あ……あのさ、びっくりするから突然大声出さないで。」
「ちゃんと呼びましたから僕は悪くありませんよ。」
「呼んで良いときと駄目な時くらい解るでしょうが……」
彼の相変わらず憎たらしい言動が無事であることの証拠だと一先ず安堵する。とりあえずケイトに怪我はない。《オイルコック》との戦いで疲弊した状態で大百足から逃げたからか、思うように休めずまだ息はあがっているようだ。
……この状態で残りの二匹を相手するのは不可能だな。《アイリスブルーム》も《閻魔コオロギ》も今回はっ倒した灼熱大百足と同格かそれ以上のランクのモンスターである。全力を尽くせない今戦っていい相手じゃない。
「一旦戻る?流石に疲れたから帰りたいんだけど。」
「……。」
一度帰って明日辺りにでも依頼をこなそうかと提案するが、彼からの返事はない。依頼を一日でこなさないと行けないなんて厳しい制度はモン○ン以外にそうそう無いだろうし、達成するか諦めるかの一種のチャレンジみたいなもんだ。
元よりケイト一人で挑むにはかなり厳しい内容だしな。私の実力を測る目的でやってるとしか思えない……ったくあの鬼め、あの笑顔の裏側ではこんな禍々しく緻密な計算を突っ込んでいやがったんだな、この策士が……!
「別にあの量を無理して一日でこなすこともないと思うよ。百足の素材さえ見せればちゃんとやってることも分かってくれると思うからさ。」
「……。」
再びケイトに帰還を促すが、またも彼からの返事はない。ただの屍のようだ。いや、生きてはいるけど何かに絶望して完全に向こうへ渡り始めているみたいだ。多分ガルゼンなら大丈夫大丈夫。確証はないけどああいうの、結構情に厚いと思うからさ。
私アイツのこと何も知らんけど。
「……とりあえず帰ろ?そろそろ日も暮れるしさ。」
「……。」
本格的に空は夕焼けの色に染まり、徐々に夜に向かって落ちていこうとしてる。そろそろ帰還しないと街に着く頃には真っ暗だろう。
「……ケイト?」
「………………。」
ケイトは黙りを決め込んでいるのか、表情を一切崩さずメンチを切ってやがる。何の冗談か知らないけどお前がいないと帰れないんだよケイト。私ここらの地理知らんし、なんならこの世界ではまだ赤ちゃんだぞ、ばぶー(白目)。
そんな赤ちゃんな私でもケイトの様子からただならぬ事態であることを察し、やがて嫌な予感が頭をよぎった。完全に自分の中で思考を巡らせた結果だ。
それはまさしく頼りの綱がぶちっと切れたような感覚で、まあどんな感覚かって言われれば……絶望に身体ががっちりと固まる感じかな。
「あのさ、もしかして……」
「……。」
恐る恐る私は口を開き、あってほしくない結末を口にする。これだけは嘘だと言って欲しい、だけどそれしか考えられないんだ。何故お前はこんなところで固まってるんだ糞雑魚回線か!?
「こんなことを聞くのは気が引けるんだけどさ……」
「……。」
私の言葉に変わらず無言を貫くケイト。だが彼の頬や眉間からは汗が滴り落ちているのが窺え、恐らくだがきっと後ろめたいことなんだろうな、と私は彼の口から放たれるであろう返答を受け止められるよう構えることにした。
「ひょっとして私達、迷子になった?」
「……はい。」
ケイトはその場でガクッと膝を地面につき、重力に従って勢いよく項垂れていた。ああやっぱりそうか。考えたくなかったけどそうなんだな。うん。
9/13.第1部「転生というか転死な気がする」
9/13.第86部「襲撃」
以上の加筆、改訂を行いました。これを機にまた1話から読み直してくれたら嬉しいです。
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