静寂の風
「突然どうされたんですか?ちょっと疲れてるので出来れば休ませて欲しいんですが……。」
「あ、うん、そうだよね……」
ケイトが目を丸くして、「え、なにお前」と困惑した様子で私の方を見ながらそう言った。そういや今戦闘終えたばっかで疲れてるよね。ちょっと考えればすぐわかることを、なにやってんだ私は。
「……ごめん。」
「いえ、その……せっかくの申し出だったのにこちらこそ申し訳ないです。」
「いやいや、別に急いでやることでもないから大丈夫だよ。」
「本当にすみません……」
「全然大丈夫!!寧ろこっちも気づけなくてごめん。」
「ああ、僕は大丈夫ですから……」
「私も大丈夫だよ……」
「「…………。」」
悪いのは話を持ちかけた私なのに、ケイトがこちらの心情を察したのか謝ってきた。それに私が謝罪してはケイトも謝罪して……と互いに気まずくなり、やがて二人して口を閉じてしまった。
ただでさえ静かな森の中、重々しい空気を纏った静寂に包まれていた。……完全にやらかしたな、元より彼の疲労を感じとれず急かすような言動をしてしまった私が10:0で悪い。
思い立ったらすぐ行動という考えが今回は裏目に出てしまったばかりか、本来休ませなきゃならないケイトにかえって負荷を掛けてしまったようだ。
ここで強引に「大丈夫だ」、「休め」と労りかけたところで焦らせてしまうだろうし、言葉選びは慎重にしなくちゃいけないが……
なんて言えばいいんだろうか。ここは素直に試したかった事でも言うべきか?これならきっと話の繋ぎにはなるだろう……けどこんな話して一体何になるんだろうか?言ったところで何かが変わるのか?「余計なお世話」だと一蹴されてしまうのではないか?
例え肯定的に話を受け入れてくれたとしても「じゃあすぐにやりましょう」なんてことになったら本末転倒だし、否定的になったらなったでかえって気まずくなるだろう。最悪、価値観の違いによって口論が飛び交う地獄のような時間になるかもしれない。
じゃあさっきの戦闘の振り返り……?ケイトのスキルが凄かったよとでも誉めるべきか……?この気まずい空気で誉められてもお世辞にしか聞こえないし素直に喜べんわな。
それにこの状況で誉められてるのに突然「特訓しよう」とか最早意味わからんし、空気が読めないにも程がある……って実際空気読めてないんですけどねえ私!!なんなら全部私のせい!その場その場であれこれ口にする悪い癖だよもう!
(はああぁ~……)
結局打開策も何も思い付かぬまま、大きいため息をついて空気を更に悪化させていく。そんな自分の不甲斐なさに嫌悪感を抱き、負のスパイラルに陥っているのだと実感した。
この場で一番困ってるのはケイトということもわかっていながら、私はさも被害者面してその場に情けなく座り込んでいる。頼れる代弁機もフィルも街に置いてきた手前自分でどうにかしなくてはならないのだが……そんな器量など私が持ち合わせている訳がないのだ。
「……大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫。心配しないで大丈夫よ。」
そんな私の状態が流石に異常に見えていたのか、ケイトが心配そうに声を掛けてくれた。心配するのも声を掛ける役目も私の筈なのに、逆に彼に心配かけてしまったようだ。本当にダメダメだな、自分。
「……ごめん。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
ふっと漏らした一言にもケイトは丁寧に返してくれる。これでは気が休まらないというのに、こちらにわざわざ気を使ってくれている。
「なんか私も疲れた……やっぱ少し休もっか。」
「……やっぱりさっきの戦闘ではまだ平気だったんですか?」
「...ッ″!!」
強引に休む流れを作ろうとしたところ、正体を勘ぐられた気がしてむせかえった。
《ローセ》で活動するに当たって私は一応《魔物》で通しているが、流石に《アンデッド》と聞いていい気分はしないはずだと気づくのに時間は掛からなかった。
前に戦った勇者一味然り、一般町村人然り《アンデッド》に対して良い印象を持っているとは言い難く、寧ろその逆で見つけ次第 即・滅・殺というとんでもない扱いを受けたことも忘れるはずもない。
そんな状態で不死者であることを仄めかす言動は控えるべきだったのだ。
「言うほど動いてないからさ……うん。ケイトも来るの早かったし。」
「そうですか……。」
私はこの場を上手いこと纏める為に必死に取り繕っていたが、その結果私は自分の成そうとした事と矛盾する発言をしでかしたことに気づいた。正直にアンデッドであることを告白するべきか、上手いこといいくるめて矛盾をやりすごすかどうするかを考えることにしたのだった。
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