ランクの差
風に流され吹っ飛んでいく鉄板を腕で弾き飛ばしつつ、私は無防備なケイトを守る盾になっていた。本来の立ち位置は逆だと思うんだけど、万が一彼に直撃しても色々不味いのでしかたないと割りきっている。
エニーの時といい、何かとこういう役回りを強いられるのは不遇というか……なんなんだろうか。
「すみませんっ!そのままお願いします!」
「わ、わかっ……え、ん!?」
今一ケイトの言葉を読み取れずにいたが、そのままって言ってたし恐らく盾になってくれということだろうか。あの時と比べて全然楽だから構わないけど、こちらとしてはなるべく早く終わらせてほしいな。
『ズゴオオオオオオオ!』
『チ“イ“イ“イ“イ“イ“イ“イ“ッ!!』
悲鳴に近い轟音によって私の意識は再び大怪獣バトルの方へ向く。そこには《メタルパージ》によって剥き出しになった透明の身体に殴打が叩き込まれ、絶叫をあげる《オイルコック》の姿があった。
《自己再生》で殻の隙間を埋めるのも間に合わず、すぐさま高温で繋ぎ合わせた部分をまるで鞄の取手みたく《フォレストロード》に持ち上げられて振り回されるなど、最早お手玉状態だった。
『ガチ“ィ“ィ“ィ“ィ“!!!』
《フォレストロード》が自身と変わらぬ大きさの鉄の塊を意図も容易く投げ飛ばした。空中で抵抗できる筈もなく、《オイルコック》の身体は放物線を描いて木に激突する。巨体とその重量に耐えかねた木の幹はへし折れ、《オイルコック》もその場から動けずぐったりとしていた。
体格差が殆どない相手をこうも蹂躙して見せるとは……。Bランクというこれまでふわりとしか感じられていなかった実力差というものを感じることができた気がする。
「お疲れ様です《フォレストロード》。」
『ズグ……。』
《フォレストロード》はケイトの命令を受け、その姿が淡く輝く翠色の粒子となって消えた。まるでそこには元々いなかったかのように、文字通り風と共に去っていったのである。
「……ふうっ!!」
消え行く《フォレストロード》の粒子を見届けたケイトがため息を吐いた。してやったりと笑みを浮かべていたものの、頬からは汗が滴り落ちている。
器量以上の魔物のコントロールをしていたということもあって、見た目以上に疲労がたまっているのだろう。体力的にというよりも、精神的な疲れが陰りを見せているのがわかった。
気力が起きないとかそんな感じのだ。
「……お疲れ様、やるじゃん。」
「ははっ……ありがとうございます。」
彼の準備が肩透かしにならなかったことに安堵し、労りの言葉を掛けてやることにした。ケイトは乾いた笑みでそう返し、あまり結果に満足していないような様子が窺えた。
─実際まだ満足していないのだろう。そうでなければ先程のような狂人染みた振る舞いはきっとしなかった筈なのだから。ふと彼の表情を覗き込むように眺めていると、下唇を噛んで悔しそうな素振りを見せながら、過去を振り返っているようだった。
「準備を終えるまで相当時間を掛けてしまいました。これじゃ……駄目なんです。」
「……。」
私の視線に気づいたらしく、ケイトが恥ずかしそうにもじもじさせながらそう呟いた。私は彼の言葉に何も言えず、耳を傾けていることしか出来なかった。自分の粗を深く掘って話すあたり、私にそれ否定してほしいというわけでもなさそうだ。
確かに今回の魔法はDランク台のゴーレムを召喚する時と比べてかなり時間が掛かっていた。ランクが違うから時間が掛かるだろうと言われれば納得できるが、ちょっと掛かりすぎている気がしなくもない。
それこそガルゼンのような近接戦闘の仲間からすれば、ケイトの御膳立てをするよりも自分で仕留めた方が早いという結論に至るのもよくわかる。ケイトのコンプレックスというか……欠点は恐らくそこなのだろう。
流石にこれだけということでは無さそうだが、少なくとも準備の遅さがひとつネックになっていることは想像に難くない。
決してケイトの能力自体は低くない。だが周りがあまりにも強すぎるのだ。仲間がてきぱきとモンスターを狩るスピードに着いていけず、そこに劣等感を抱いていると考えるのはごくごく自然な話の筈だ。
とは言えこれはあくまで仮説に過ぎず、彼の欠点を解決できる筋になり得るかはわからない。
だが実際に彼の″本気の魔法″を前にすれば、私の仮説の是非自体ははっきりする。そうとわかれば動かない手はなかった。
「そうだ、ここで私と一度相手してもらえない?」
私は自分の考えの是非を確かめるため、彼にそう持ちかけた。




