時間稼ぎ
《オイルコック》が放った鉄球は立ち塞がる木々をへし折り、地面の土や草を巻き込んで大きくなっていく。人間大の大きさの玉がガリガリとまるで削るような不快感を募る音を発し、容赦なく私の耳に響いてきた。
確か前に喰らったことのあるスキルだが、こうやって見るとその迫力やスキルの全容を把握することができる気がする。加えてこんなものをぶつけられてたのか……と青ざめもする。
(当たったらひとたまりもないよな……普通。)
あんなものに生身の人間が巻き込まれればただでは済まない筈なのだが、まあ私は不死者だということで一人勝手に納得することにした。とはいえ喰らいたくはないし、正直痛いのは嫌だ。ランクは勝ってるし魔法でガンガン攻めれば多分勝てる……筈だうん。
もとよりケイトのことなどあまり考えてないし、なんならここで倒してしまっても構わんのだろう?
『ギチチチチチチチッ!』
こちらの敵意を感じ取った《オイルコック》が牙を鳴らして威嚇する。あちらも殺る気満々だし今更逃げる選択もないよな、暫くぶりの肩慣らしに付き合ってもらうとしよう。
(……《ダークスピア》っ!)
後ろに跳躍して距離を取りつつ、《オイルコック》の甲殻に向けてエネルギーの槍を放つ。槍先が銀色の殻に命中すると同時に小さな爆発を起こし、衝撃によって《オイルコック》の身体が僅かに揺れる。効果は薄いが効き目がないわけじゃないな。
『ギィィィィィィ!!!』
《ショルダータックル》
〈全速力で相手に向かって突撃し、最も硬い″肩″もしくは肩に該当する部位で高い物理ダメージを与える。〉
スキル通知と共にこちらに向かって突進してくる《オイルコック》。その姿を前に肩何処だよというツッコミは野暮というものだ。当然あんな身体に激突するほどの度胸はないしマゾでもない。
防御力はまあそれなりにあるけど……あれに当たる気はないよな、うん。明らか自動車とかトラックの類いだもん。
勢いよく突っ込んでくる《オイルコック》の真上に跳んで回避し、無防備な背中に《ハイダーク》を撃ち込む。その際に起きた爆発の衝撃で甲殻の一部が剥がれ落ち、真っ白で脆弱な本体が見えた。
『ギチチチチチチチッ!』
身体の違和感を感じ取ったのか《オイルコック》の動きがせわしなく小刻みになり、かなり慎重になっているのがわかった。あの鉄板みたいな鎧はガワで、本体はあの白い部分ってわけか。脱ぎ捨てたら滅茶苦茶足が早そうだよなあれ。
《自己再生》
〈自身の魔力(MP)を使用し、欠損部位を元通り修復するスキル。〉
《自己再生》……文字通り回復系のスキルだろうが、ここで使う辺りあの剥がれた殻も治せるのだろうか?となればあの殻はガワではなく、《オイルコック》の身体の一部として機能してるわけなのだが……。
と考えながら《オイルコック》の様子を眺めていたところ、欠損した部分を修復するためか甲殻の一部が高温で溶けだしているのが確認できた。
……どうやら剥がれた鎧は欠損部位周辺を溶かしてくっ付けた後、そのまま固めることで再利用できるらしい。
『キシャッ!』
《自己再生》を終えた《オイルコック》がこちらに向き直り、「まだやるのか?」とでも言いたげに頭を再び半回転させている。
奴からすれば私のメインウェポンを凌いで《自己再生》まで見せつけたところで完全に舞い上がっているつもりなのだろうが、正直な感想全くもって負ける気がしない。
この感想はランクの差だけではなく、奴が発動したスキル全部と行動パターンを見ての考えのつもりだ。
『ギチチチチチチチッ!』
まず《オイルコック》が先手を取って飛ばしてきた《ヘヴィオイル》の油玉を回避し、側面に回る。奴の攻撃の殆どは射線が正面な為、脚を小刻みに動かして正面の範囲に入れようとしていた。
『ギチャアァァァァァァァァ!!』
私はその範囲から逃れるために大きく跳躍し、奴の真上や真後ろまで縦横無尽に跳び回る。勿論奴がこちらを捉えるまでに《ダークスピア》や《ハイダーク》で装甲を剥がし意識を向けさせたりはしていた。
『ギャチィ…………』
《チャッカファイア》
そして問題のスキル通知が来たら正面に回って止める。コイツの行動はそれなりのステータスがあればパターンに嵌まりやすい。《オイルコック》はD+ランクとは思えない程のサイズを誇っており、硬い、速い、デカイという三竦みを持っている。
少なくとも同格の《ゲノムシーカー》や《イグアマリン》、《ゼプラコーン》と比べれば確実に強い部類のD+ランクだ。
『ギィィィィィィ!!!』
だがそんな《オイルコック》がCランクに乗らない理由……それはパターンの組みやすさにある。動きが本当にMMORPGのボスのように単調なヤツで、攻撃範囲が自身の横幅二.三メートル程度しかない。
コイツの正面に立ちさえしなければ、まず攻撃は当たらないのだ。おまけに真上はガラ空きで、正面も強行突破できる程硬くない。
全方位に硬いように見えて、実は正面を除く全方位が弱点という同格以下の相手としか優位に戦えないモンスターである。少なくとも私がまだ進化する前に出会ってたら、多分こいつには勝てなかったと思う。
C-ランクに置くとしても、全方位爆弾のパンジャンドラムや地下をテリトリーにする土竜、透明な蜥蜴と比べると明らか個性や実力が劣る。こいつはD+ランクの上位が妥当な位置付けか。
(さてと……このまま決めても問題なさそうだけど、そろそろか。)
ふと《気配感知》が反応し、聞き覚えのある声が遠くから聞こえてきた。ちょっと頼りない、気弱な男の子の声。私はその声を聞いて確信し、今回の手柄を彼に譲ることにした。
「──準備が出来ましたよ!」
私は《オイルコック》から大きく距離を取り、声の主であるケイトの方へと着地する。彼はここまで全力疾走したのか息が上がっていたが、さっきまで抱いていた疑いの感情が完全に晴れた瞬間でもあった。
「ったく……遅いよ!!」
すぐに走ってやってきた彼に軽口を叩きつつも「後は任せる」と左手を上げ、ハイタッチを交わした。




