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鉄人蜚蠊

『クキイイイイイッ!!』


《オイルコック》は口から油玉を飛ばしながら一直線に突っ込んでくる。どういう経緯かこちらを完全に敵視しており、突進を終えればくるりと回転して再び襲いかかってくるのだ。軌道がふらふらとして危なっかしい油玉に注意しつつ、私達は横に大きく跳んで回避する。



ゴキブリは何でも食べるとは言うが、これだけサイズが違えば普通に人間も補食対象だったりするのかな。だとしたら絶賛ピンチだよねこの状況。



「アレに物理的な攻撃は効きません!距離を保って魔法で倒しましょう!」



なんとか突撃を回避しつづけていたケイトが杖を構えながら

あまりにも手遅れすぎるアドバイスをくれる。鉄板みたいな《オイルコック》を前に物理攻撃を仕掛けようという発想にはならないと思うんだが……彼なりの助言として受け取っておこう。


《オイルコック》の頭が首をかしげるように傾いた。体当たりを繰り返しても攻撃が当たらないと判断したのか、数回こきこきと頭を物理的に半回転させてこちらを睨み付けた。



《チャッカファイア》

〈高温の油を放出し、周囲の敵を迎撃する。空気に触れた油は酸化し、発火する。〉



──炎系のスキルか!《ヘヴィオイル》の油玉はまだ発火する様子はないが、このスキルは明らかとんでもないというのは想像する間もないほどよくわかる。


更に周囲の油玉がこのスキルに触発されて燃える可能性が高い。前に見た偽善蜥蜴の時のような大惨事にもなりかねないし、このスキルは絶対に発動させちゃいけない。



「《ダークスピア》!!」


『キイイイイイイッ!!』



奴の口目掛け、紫色の光で出来た槍を一直線に放った。丁度スキルを放つところだったのか、《ダークスピア》が命中した《オイルコック》の口元から煙が昇る。《チャッカファイア》が口の中で発動したか、不発に終わったと見ていいだろう。



『クキイイイイイッ!!』



威嚇のつもりか《オイルコック》が私に向けて忌々しそうな金切り声を出す。すんでのところでスキルをキャンセルさせられたのはかなり大きいが、口内で爆発したのも関わらず何事もなかったピンピンしてる辺り本当に頑丈らしい。



「ドギャアァァァァァァァァ!!!」



《オイルコック》は後退りしながら私を睨み付けて咆哮する。そこから発せられる圧は凄まじいもので、牽制が全く意味なかったかもしれないとこちらが攻撃する手も止まる。


それでもこの一撃で与えたダメージは小さくないはずだし、すぐに切り返して来ない辺り大技をいなされて警戒しているといった感じだろう、と考えれば必要最低限の警戒で済みそうだ。一対一ならいざ知らず、今回はそれなりに腕が立ちそうな助っ人もいるわけだしな。



「《オードボール!》」


その助っ人たるケイトの詠唱とともに、長いこと隙を晒していた《オイルコック》の硬い甲羅のような身体に黄色く輝く人魂のようなものが当たった。硬い殻に弾けたそれは、相手を中身ごと巻き込むかの如く勢いよく爆ぜた。



《オードボール》

〈気質をもたず、本人の素質にのみ左右される基本的な無属性魔法。〉



すぐに[デッドレコード]を当ててスキルの確認をとったが、内容からして貫通する効果はなさそうだ。魔法でも場所によっては弾かれる可能性があるとみてもいいだろう。


実際魔法っていっても人体貫通して内蔵を直接破壊するもんじゃないし、どちらかというと遠距離から当てる属性を持った矢か銃弾みたいな認識でいいかもしれないな。



『ガガガガガガァァァァァァァァ!!』



《オイルコック》が天高く咆哮を上げる。ケイトの魔法もあの鉄板みたいな甲殻に弾かれ、殆どダメージにはなってなさそうだ。かといって攻撃の手を緩めれば再び《チャッカファイア》やらスキルの応酬に遭いかねないし、多少消耗してもMPにものを言わせて力ずくで捩じ伏せなければならない。



幸いケイトもMPはあるだろうし強引に攻めればどうにかなるランクだと思un



「少し時間を稼いでください!」


「え、なに勝手に───」



ケイトがそそくさと戦線離脱したことに私の意識が持っていかれた刹那、すぐ目の前を《ヘヴィオイル》の油玉が頬を掠めて通りすぎていく。



「ちょっ……危ないな!!」



油の塊が顔面に直撃するところだった……あぶねえ。てかケイトの奴、急に走って……逃げたのか?流石にそれはないと思いたいが、なにをするとも言わず全力疾走して行ったのには驚いたわ。二人ならどうにかなるだろうと思った矢先のことで頭が一瞬真っ白になってその場で留まったわ。



『ギィィィィィィ……』



……しかも《オイルコック》の標的は完全に私っぽいんだよなぁ。ケイトの方を振り向きもせず、威嚇しながら私との距離を詰めたり後退ったりしている。



(とりあえず……信じてやってみるしかないか?)



ケイトの発言と帰還を信じて戦うか否か考えていた。一応あれでもガルゼン達のパーティメンバーであり、私もここに配属された以上彼とは仲間ということになる。早速裏切られてしまえば最早信頼も糞もないし、これからローセで冒険者として活動するに当たっても色々問題が出てくる。


といっても出会ったばかりの彼を信用する気はないが、第一印象は悪い奴には見えなかった。本当に人を裏切ることをしなさそうな奴だったが、豹変した姿を見せてからは殆ど関わってないからなんとも言えない。



《ヘビーボム》



なんとも言えないけどこちらが取れる選択がそう多くないことは理解しているし、そんな事をうだうだ考えている暇は全部コイツとの戦闘に費やすとしよう。



とりあえず《ヘビーボム》は前に受けたことのあるスキルだから説明は割愛し、通知と共に大きくバウンドしながら飛んできた鉄球を横に跳んで回避した。

5万PV突破ありがとうございます!

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