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黒竜の名前

─それから暫くは掃除に集中していたものの、結局は乾かさないと使い物にならないと後々様子を見に来てくれたメンリルさんに言われることになった。


予期せぬことだったとはいえ備品を汚したことには変わりなく、二人並んで彼女に謝った。


メンリルさんは怒るどころか笑顔で許してくれ、寧ろ《リトルワイバーン》が無事に産まれたことを喜んでくれたのだ。赤ん坊を温かい目で見守る優しいおばあちゃんのような姿に、器の広さや人間としてよく出来ているなと思った。


……少なくともこの子を材料としか考えていないあの錬金術士とは雲泥の差である。


現在、《リトルワイバーン》はというと私の肩に乗って行動を共にしている。「小さい子は雑菌に弱いからあまり目とか触っちゃ駄目だよ」とメンリルさんから教わり、落ちないように気は配るものの、この子がゆらゆらと揺れたりすることについてはあまり気にかけないでいる。


「きゅー。」


それでも上へ上へと登ろうとする姿はうっかり落ちるんじゃないかとかなり心配になるが。


───


「へい嬢ちゃん!なにか探し物かい?」


「あっ……えと……この子の食べ物を探してて。」



それからひたすら《リトルワイバーン》の餌になるものが売ってないか露店をあたってみたものの、皆が首をかしげたり苦い表情をしていたりとあまり好印象は得られなかった。


そもそもこの街にドラゴンが入ってくることもないだろうし、そのうえドラゴンの赤ちゃんの餌を探してますと言われて対応できる方がおかしな話であった。


まさしく八百屋や肉屋で聞きなれない希少動物の食料ってなんですかと聞いてる構図だ。自分で振り返ってみても中々可笑しなことをしているなという自覚はある。


当然ながら理想的な答えなど返ってくる筈もなく、現に露店のおじさんも頭を悩ませている状態だった。かなり真剣に考えてくれている手前、無下にも出来ず返答を急かすこともできない。


「ドラゴンといえばやっぱり肉なんじゃないかなぁ。」


「……わかりました。そのヒュース肉ください。」



私は結局肉屋のおじさんから《ヒュースシープ》の肉を買った。彼らも商売人である以上、このように自分の商品を勧めてくるのは言うまでもない行動だ。端からみて私は悪くいえばチョロい客として見られているかもしれない。


見掛けは優しいけど増長されるとちょっと困るな……。そう思った私はおじさんのお店を最後に買い物を一旦中断するのとにした。



「えっと……《ヒュースシープ》の肉、《カンメンイワシ》、《バクダイコン》……。」



とりあえず買ったものの確認を一通り行い、地面にそれぞれおいて《リトルワイバーン》に与えてみる。視力はなくとも匂いでなんとかわかってもらえないかと淡い期待を込めた。



「きゅる……きゅきゅ!」


《リトルワイバーン》を肩から地面に下ろし、どれに食らいついてくれるかを観察する。暫く鼻を動かした後、最初に《ヒュースシープ》の肉にかぶりついた。


まあやっぱりドラゴンというだけあって肉が一番か。小さい身体で細々とした口に肉を詰め込んでいるが、その勢いは止まることを知らない。暫くすると《ヒュースシープ》の全身にあたる肉の切り身をペロリと平らげてしまった。



「きゅきゅっ……!!」


次に青光りする鯵か鰯くらいの大きさをした小魚である《カンメンイワシ》一匹をほぼ丸のみで平らげ、(かぶ)のように丸くて巨大な《バクダイコン》をぼりぼりとむさぼり始めていた。



(食欲やべぇな……この子。)



《リトルワイバーン》の圧倒的な食べっぷりに私は少し気圧されることになった。私自身は特に食べなくても大丈夫な分食費は幾らか浮くと思っていたが、どうやら想像以上に食い意地を張るドラゴンのせいで大方食費に消えていってしまいそうだな。



「きゅ~♪」


元気で何よりだと《リトルワイバーン》の頭を撫でると、食べるのを止めて顔を手に擦り付けてくる。この子の食費の為なら、私これから頑張れそうな気がするよ。



(……でもこれから一緒に行く以上、名前を付けないとな。)



守りたいものがまた出来てしまったと苦笑いするが、もう既に見切りはつけているし後悔もしていない。この場にスバルがいないことだけが唯一悔やまれるな。


これだけは後悔しても仕切れないし、したところで仕方ない。私に巡ってきたチャンスとして、しっかり責任をもって育ててやりたい。



(そうだな……可愛らしいし、意味もある言葉……《フィル》なんてどうかな。)



失った相棒の代わり……とは言えないが、これからいっぱい過ごして心の穴を埋めてくれる存在になるという意味を込めて、私は《リトルワイバーン》にfill(フィル)と名付けることにした。


「……フィル。」


「きゅ!」


ちょうど《バクダイコン》を食べ終えたフィルに語りかけるように名前を呼びながら頭を撫でると、先程と同じく自分から頭を擦り付けてきた。更に名前を呼ぶ度に、名前を理解しているかのように鳴き声を返す。


(……宜しくね。)


目は開かないが、まるでそこに私がいることを理解しているかのように見上げるフィル。その細く小さな身体を壊さぬように優しく抱き抱えた。

総合ポイント300pt突破ありがとうございます!

(。・ω・。)新作の方もよろしかったら是非読んで貰えると幸いです!

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