肩書きの瓦壊
フィルが何を食べるのかを一通り押さえられた為、エニーに報告を兼ねて一度宿に戻ることにした。
「きゅっ!きゅっ!!」
抱き締められたフィルは気持ち良さそうな鳴き声を上げていた。既に身体は乾ききってふわふわな羽毛に覆われている状態だった。うっかり右腕で引っ掻けないように支えながらゆっくりと歩く。
「あっ……!お帰りなさいレンさん!」
「ただいまエニー……っ!?」
宿に戻るとすぐさまエニーが出迎えてくれたのだが、その後ろには件の錬金術師、ケイトがいた。単純に《デスペル》で黙らせただけなので特に外傷もなく、落ち込んでいるのかエニーの後ろで俯いていた。
「あ……ああ……」
「……なに?」
ケイトは私を見て、まるで熊かなにかを見たように震えあがっていた。先程のしつこさから一転して、何故か脅えられている。別に痛めつけるようなことはしてないんだけど、解せぬ。
「ごごご……ごめんなさいっ!!急に襲うような真似をして申し訳ないです!」
「えっ……襲っ……は?」
明らか身に覚えのない罪悪感を感じているようだが、パニックで色々混同しちゃってるのかな、と謝られているはずのこっちが困惑する事態になった。
確かに一方的なクレクレをされた挙げ句、断られると決闘というかたちをとってきてはいた。まあ決闘とはいっても最早強引に押し付けられたものだが。確かに私も高々と仮名まで着けて名乗って決闘を受けたが……これってあながち襲われたといっても過言じゃないのかな?
「ううぅ……【いつも謝ってばかりだ……誰も僕を肯定してくれない。】」
「……。」
……まただ。さっきの喧嘩した奴と同じような声が頭に響く。ちょうど私が《アインベル》に進化した頃からこの謎の現象はおこっていて、非常に気味が悪い。おまけにその声もマイナスな感情で塗りつぶされていて、聞いていていい気分などしない。
「申し訳ありません……【怖いよお……もしかしなくても殺されるかも……】。」
「あのっ……殺さないよ?」
「「え?」」
「……え?」
あ、やべ……また反応しちゃった。内容も物騒なものだから.エニーもケイトも目を見開いて同時に聞き返してくる。エニーは話がわからないといった感じで、ケイトは恐らく自分の考えが読まれていることに対する恐怖に怯えている。
「ま、まあ気にしなくていいk」
「ひいいいいいいっ!!!」
最初の勢いは何処に行ったのやら。ケイトは小動物のように怯えて縮こまっているだけで、まともに会話ができる状態ではなかった。気弱そうだとは確かに思ったけど、まさかここまで社交性が皆無……これ社交性云々は関係ないな。
「とっ……取って食べたりなんてしないよ?」
「それっていつもは食べてるってことじゃないですかぁぁぁっ!!」
宥める為の言葉を誤解された挙げ句、そのまま宿の中で思いっきり叫ばれてしまった。おまけにケイトは目に涙を流し、全身が目覚まし時計のように振動している。
「もう無理だあぁぁぁぁぁっ!死にたくないよおおおおお!」
「きゅ……きゅう。」
肩に乗っているフィルでさえケイトの叫び声を煩わしそうに聞いている。駄々をこねるように叫ぶケイトの姿は産まれたばかりのこの子より子供っぽく見える。
(こ……これがこの街の一級冒険者なのか……。)
仮にも彼はガルゼン率いるパーティの一員であって、それなりの修羅場は潜っているはずの熟練の冒険者である筈なのだが、正直ここまで震え上がられるとは思ってなかったよ。
「……僕はガルゼンさんに認められる《錬金術師》になってみせるって約束したんだあぁぁぁぁぁっ!」
「……は?」
突如ケイトが発した言葉に思考が停止する。ケイトは普段からガルゼン、マリーナさんと行動を共にするメンバーであり、彼らもケイトを仲間としてちゃんと認めているはずである。
仲間なだけであって《錬金術師》としてはまだ認められていない?
一瞬そう考えたが、すぐにそれを否定した。彼はD+ランクのモンスターを即座に召喚し、完璧に使役する力がある。確かにそれでもガルゼン本体のパワーには劣るだろうし、魔法本職のマリーナさんと比べると魔法の質は低いかもしれない。
だが、そんな《錬金術師》としての彼を認めていないというのはあり得ないと思うし、もしそうだとすればこの街で働く冒険者の敷居は著しく高いことを意味する。
まだガルゼンとマリーナさんの実力をはっきりとは見ていないものの、冒険者の喧嘩に割り込んで鎮圧する力のあるガルゼンが弱いわけもなく、その仲間であるマリーナさんもまた相当な実力者であることは想像に難くない。
ステータスが見えない以上なんとも言えないが、少なくとも前に出会ったエニーの仲間より格上だ。
「困りましたね……またちょっと黙らせますか。」
「黙らせるってどうい……うっ!?」
私の返答を待つことなく、泣きじゃくるケイトの首根っこを掴んで詰め寄るエニー。その構図はまさしくカツアゲするヤンキーと学生のそれである。
「……ここにいる皆さんに迷惑掛けている自覚はあるんですか?被害者はレンさんなのですよ?」
「ひえっ……!?」
ケイトはエニーに迫られて完全に縮こまっていた。即座に泣き止んで今度は恐怖に苛まれて動けなくなっている。震えもピタッと止まり、先程まで怖がっていたはずの私に視線で助けを訴えてきた。
「エニー、私はいいから取り敢えず離してあげよ?」
取り敢えずこのまま放置するのも何かと不憫なもので、一先ずエニーを説得し彼女からケイトを離した。もしかしたら目覚めてから彼女に延々説教され続けたのかもしれないな、と同情の目線を投げ掛けて苦笑いするしかなかった。
数日ぶりの投稿になりました……(。・ω・。)
待っていたというかたがいらっしゃるとしたら申し訳ありません。




