黒竜誕生
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あの後私達は《昏睡》によって気絶しているケイトを宿まで担ぎ、またメンリルさんの優しさに甘えて休むことになった。彼女も冒険者達を良く思っているらしく、時々重症を負った人の搬送先として受け入れることがあるらしい。
それはさておいて、さっきの戦闘がそれなりに激しかった為エニーの安否を確認したみたが、彼女は全くもって無傷なようで安心した。卵のほうも傷ひとつなさそうだ……ん?
「エニー……それ。」
カタカタと卵が僅かだが確かに揺れている。これまであまり動く様子を見せなかった卵が遂に孵化しようとしている証拠だった。
「わあっ……!!」
パキリと割れるような音と共に、卵に一筋のヒビが入った。感嘆していたエニーもすぐに卵を柔らかいベッドの上に置いてその様子をじっと眺めているようだ。
一筋のヒビが徐々に広がっていき、剥がれ落ちた部分から黒い羽毛が覗く。ドラゴンの卵であることを伏せられていたら、多分鳥の雛と勘違いするほどに似た誕生の仕方だ。
『きゅ……きゅう!!』
卵がまっぷたつに大きく割れ、そこから黒い羽毛に覆われた竜の雛が殻から這い出してきた。全身を露にするとほぼ同時に可愛らしい産声を上げる。大きさにして約一メートルと赤ちゃんにしてはかなり大きい部類だ。
耳のような鶏冠が生えたような蜥蜴の頭に対して身体はかなり細身であり、産まれたばかりということもあって非常に貧弱に見える。
《リトルワイバーン》ランクE+
〈産まれた時の環境によって、纏う気質を大きく変化させる《ワイバーン》の雛。体色は素質を体現しているとされ、住む場所からなにまで異なっているという非常に珍しい生態をしたドラゴン。
リトルとはいえ空を飛び、火球を放つことができる。〉
《リトルワイバーン》はおぼつかない四足歩行でよちよちと柔らかい地面を歩いている。目も空いていないのでまだ飛べないものの、体長とほぼ同じくらいの翼がピンと伸びていた。《エイルドラゴン》の雛だとずっと思っていたのだが、翼が生えているあたりの全くの別物か進化先だったのだろう。
なんかこんなドラゴンどっかの作品でみたことあるが……まあ気のせいかもしれないな。
「レンさんっ!!足元足元!」
「わっ……わっわっ!?」
あぐらの体勢をしていた私の足に《リトルワイバーン》が登ってくる。私のタイツ越しにフワッとした羽毛の感触が伝わってくる。因みに滅茶苦茶もふもふ。最早これは兵器レベルだろというくらいに《リトルワイバーン》の仕草と可愛さに悩殺されていた。
『きゅ~……』
「何食べるんだろ……まだミルクかな。」
「そうですね、やっぱりドラゴンもミルクは母親から貰うんでしょうかね?」
「……まだ出ないからね?」
エニーがわざとらしくニヤケ顔で迫ってくるのを突っぱねてこの子の餌をどうするか考えてみる。
確か前にやっていた狩猟ゲーのモンスターの生態辺りだと……確か普通に雛にお肉を与えたりしてたよな。だけどあれって単なるCGムービーだし、産まれたばかりの雛に肉とか魚とかいきなり与えるのは流石にスパルタを通り越して最早虐待じゃないか……?
流石にドラゴンの子を持つ経験なんて産まれて初めてだし、どうしていいのか物凄い悩む。それにこの宿もペットOKかもわからんし、少なからずメンリルさんに相談は必要だな。
ガルゼンやマリーナさんがドラゴンの生態を詳しく知っているとは思えないが、餌あたりの簡単なことなら教えてくれるかもしれない。
『きゅぴ~。』
私のお腹辺りに前足を乗せて立ち上がろうとしているこの子の姿に、なんともいとおしさを感じさせられる。母性本能が擽られるとでもいうのだろうか。早いところ餌を調達して安心したい。ともかくそれが出来ない以上不安は拭えない。
連れてきて孵化してしまった以上私にも責任はあるし、取り敢えずこれからどうするかをまた練り直さないと……
「取り敢えずここ出る前に片付け!布団濡れちゃってるから!」
「あわわわわわわわわわわわわわっ!!」
──の前に片付けだ!布団が《リトルワイバーン》の羊水でびっしょりと濡れていたのに気付き、二人して顔を真っ青にさせたのは言うまでもない。




