メンバー衝突
「……え?」
突如割り込んできた男の子の勢いにエニーがたじろぐ。彼の見た目は別に厳ついわけでもなく、寧ろ気弱そうな顔つきをしている子だった。身長も私より低く、女の子のように華奢で小柄な体つきをした、マリーナさんと同じ魔法使いの類いに属するであろう男の子である。
まるでおもちゃを見つけた子供のような穢れない瞳で見つめてこられると断りづらいのだが、この卵を使ってなにかを仕出かすつもりなのは聞かずともなんとなく分かる。
彼の身なりはフード付きのジャケットのようなものを限界までファンタジー化させたような装飾があちこちに施されている。
そして手入れがされておらずボサボサに跳ねた茶色の髪、視力が良くないのか眼鏡を掛けていて、気弱そうな顔つき。ここまでなら普通の男の子と考えられないことはない……のだがエニーの持つ本と似た魔術書を手に持ち、怪しげな壺だの杖だのを持ち運んでるあたり、不審者と見間違いそうになるのも無理はないだろう。
「あっ……!名乗らないのも失礼でしたね!僕はCランク錬金術師のケイト。ケイト・リヒルツと言います!」
彼、ケイトは礼儀正しくペコリと頭を下げて挨拶し、自らの名を名乗る。名前からして恐らくこの子がガルゼンのパーティメンバーなのだろうが、気弱そうだし案外大したことないのかな、という楽観の目を彼に向けた。
「それで……お願いします!それを譲ってください!お願いします、お願いします!」
「それは無理。」
「そう言わずにお願いします!」
無理だといっても聞かないケイトにイラッとしつつも、ただひたすら「無理」だと彼を突っぱねる。彼の職業柄、この卵が何に使われるのかを理解してしまった自分がいるのだ。例え関係がこじれても私には守らなくちゃならない命がある。
「あの……でしたらそこの方!どうかそれを譲ってくださいませんか?」
私にこれ以上頼んでも無駄だと判断したらしく、ケイトは頼み込むターゲットを私からエニーへと移した。ずこずこと圧を掛けていくケイトから、まるでセールスのように飛んでくるクレクレ発言にエニーは未だたじろいでいる。
「おい……そのくらいn」
「もう貴女には聞いてないですから!僕はこれからこの国を発展させるための、大事な大事な取引をしているので邪魔をしないでもらえますかねぇ!!」
「──ふあっ!?」
気弱そうだと高を括っていたところ、思わぬカウンターパンチが飛んできたことで逆に私の口が閉められることになった。
こいつは自分の求める回答が得られないとすぐに会話を切って終わらせるタイプの人間か……。とは言えここまで露骨に態度をガラッと変えてくるのは流石にビビったわ。
「それでもし可能でしたら是非……そちらn」
「はあ、イヤですけど。」
ケイトの商談を突っぱねたエニーの目は、怒りや呆れを通り越して死んでいた。彼女がこんな冷たい表情をすることが出来たなんて……と私はやや遠巻きに表情を伺い、内心震え上がっていた。
「なんでそこまでしつこいんですか?控えめに言ってウザいんですけど。」
「そ……それは貴女の持つそちらが今の僕の実験に必要だからde」
「ああそうですか。ですが私は貴女のような方に渡せるものを持ってないので、もうお引き取り願えませんか?」
エニーの氷のように冷たい言葉がケイトに容赦なく浴びせられる。ケイトも彼女の豹変ぶりを感じ取っているらしく、既に先程のような勢いは消え失せていた。
「渡せるものなら……あるじゃないですか。ほら、そr」
「は?だから渡せないっていってるじゃないですか。」
吃りながら話を続けようとするケイトの言葉をピシャリと一蹴し、そのまま強引にシャットアウトするエニー。ああこれ完全に怒ってらっしゃるわ。
「……貴女の言動は控えめに言って最低です。今すぐ私とレンさんの前から消え失せてください。」
「ちょっ……エニー!?流石にそれは言い過ぎだっては!」
仮にも彼はガルゼン達とチームを組んでいるため、これから顔を会わせる機会も多くなるだろうしこれ以上の対立は立場的に不味い。
最悪喧嘩にまで発展したら目も当てられないし、世間的にも色々な意味で問題になる。ここは一旦退いた方がいいかもしれない。
「言い過ぎなんかじゃないです!私の恩人同然のレンさんを一方的に邪魔者扱いするなんて……私は絶対許しませんからね。」
エニーの目が確実に敵意を剥き出しにしていた。卵を抱き締める力が少し強くなったのと同時に、ケイトを睨み付ける目は嫌悪と憎悪に近いものを抱いているように見える。
「それでも……それでも僕にも退けない理由があるんです!その子には僕のプライドとキャリアの為の尊い犠牲になってもらうだけですから。」
しかし全うな思考の人ならそもそもこんな状況に陥る前に退いてくれるもので、ここまで話を拗らせてきたケイトが異常だということは言うまでもなかった。彼の足元に紫色の紋章らしきものが現れたかと思えば、そこからゴツゴツした岩肌のモンスターが顔を出したのである。
『グゴオオオオオ……』
召喚陣の中から姿を現したソイツは、苔のついた岩石をいくつもくっつけたようなモンスターだった。体長は人間二人分くらいで顔のパーツがしゃくれ顎のように突きだしており、手の大きさや頭に対してかなり貧弱そうな身体をしている。
頭の自重に耐えられないのか、身体が若干前のめりになっているようにも見えるが……。
《アンカーゴーレム》ランクD+
〈外法の力で大地のマナを吸い上げ誕生した岩の魔神。召喚者の意のままに操られる操り人形同然であり、本能も意思も彼には存在しない。
故に自然界にてこの魔物を見かけることは殆どなく、仮に見かけたとしても物言わぬ置物となっているだろう。〉
かなりぞんざいな説明文だが……とりあえず出てきた奴がいきなりBランクとか行ってなくて安心したわ。D+ランクのモンスターは進化前の時から既に経験済みだし、気を抜かなければ特段脅威でもなく、負けるような相手ではなさそうだ。
「錬金術師ケイト!貴女と決闘を申し込みます!」
《アンカーゴーレム》に飛び乗ったケイトがこちらの意思を無視して決闘を申し込んできた。あれだけ一蹴されても諦めないあたり貪欲というか周りが見えていないというか……。
「そんな無茶苦茶言わないでください!力ずくで奪おうとするなんて強盗と変わらないじゃないですか!レンさんだって……」
「いいよ、エニー。」
必死に抗議しようとするエニーを庇うように右手を伸ばし、《アンカーゴーレム》の背中に乗るケイトを睨み付ける。なに、大丈夫さ。ここで勝てば相手だって立場を失うんだから一番手っ取り早い。それにどういう意味であっても相手の意思を無下にするのは良くないだろう?
「……私はレン・セルレイ!その決闘受けてあげるよ!」
そう言った自分の身体に熱がこもる感覚をひしひしと感じなから、これまでにない高揚感にニヤリと笑みを溢していた。




