パーティメンバー
私はガルゼンに引き連れられるままこの場を後にすることにした。喧嘩の元凶……というか当事者が揃って長居しているのもあまり良くないという判断なのだろう。
【あぁクソが……魔物の分際で……】
私は延々呪詛垂れているヘリオと目を合わせないように、冷や汗をかきつつも必死に目線を逸らしながらガルゼンについていく。あいつの状態はハッキリいって関わってはならない類いのものにまで発展してしまっている。なんならちょっとヒステリック的な何かが含まれているようにも見える。
これから出会わないことを祈るしかないなぁ……。
───
ギルドの役割をした建物の二階、その廊下に点在するいくつかの部屋の一つに私達は入っていった。ガルゼン達はこの部屋をギルドから借り受けて、私用の会議などに使っているのだという。扉にはしっかりと彼等の所持する印の役割をした看板のようなものが立て掛けられている。
「この子が本日、メンリルさんの推薦で加入することになったメンバーの魔物娘だ!」
そしてガルゼンからメンバーに向けて自己紹介がされ……あぁ、そう言えば自己紹介がまだでしたっけ?メンリルさんからてっきり名前が伝えられるかと思ったけど、単純に忘れられてるのかなんなのか……。
それにしても魔物娘という呼び方はちょっと酷くないかと思う。外見的特徴での呼び名は最悪差別に繋がるから止めた方がいい気もするが。
「…………いい加減名前を覚えなさいよ。ケイトの時だって死霊傀儡師みたいな奴とか適当なこといってたじゃないの。それで、貴女が新メンバーの子ね。」
「あっ……ども。」
ソファに座っていたメンバーらしき赤髪赤目の女性がやれやれと呆れた様子でくつろいでいる。彼女の服装は胸や肩を露出させた、黒一色のヒラヒラとした布であしらわれた魔女のものである。スカートは地に触れずも膝を晒さない絶妙な長さであり、魔女の象徴であるトンガリ帽子もきちんと被っている。
そして私に負けず劣らずの鋭い目付きや長い赤髪に巨乳、その全てに色気があって大人っぽさを感じた。言い方を変えれば彼女に負けた気がした。
「そこまで遠巻きに接しようとしなくても大丈夫よ。私は魔術師のマリーナ・フルウェム。不本意ながらこの馬鹿とパーティを組んでいるわ。」
「……レンといいます。あの……えっと……」
どうやらこの黒魔術師の女性こそが本来私を引き抜く役立ったマリーナさんであるらしい。妙に達観していてあまりガルゼンの事をよく思っていない節が見当たるが、それを本人がいる前で言うのも気が引けるので黙っておくことにした。
「ああ、そういやケイトの奴は買い出しだったかな!」
「なんでそのタイミングで呼んできたのよ……結局二度手間じゃない。」
そう悪態をつくマリーナさんに同意しながら、頭の中を整理する。このパーティは私を含めて四人。ガルゼンさんの強さを見るに恐らく彼女もケイトも実力は備わっているはずで、三人揃えば《エイルドラゴン》あたりは楽々討伐出来ると考えておいた方がいいか。
目標にある《協力者》を探すに当たって、絶対に彼らを敵に回すような選択はとれない。これからどう動くかを考えておかないといけないかもな。
──ふとコンコンと扉がノックされる。音からしてかなり優しく叩いているようだ。
「あん?来客か……?」
「ノックしてくるなんて珍しい人がいるのね。どうぞ。」
マリーナの返事に反応して扉がゆっくりと開かれる。扉の先にいたのは白のローブを身に纏う水色髪の少女、エニーだった。その手には大事そうに黒竜の卵が抱えられている。
「あっ……レンさん!」
「エニー……か。」
実際エニーになにも言わずここまで来てしまったので、少々申し訳ない気持ちに苛まれながらも彼女を出迎えた。マリーナさんから「お知り合い?」と聞かれたのを二人して頷いた後、少し外でお話ししたいとガルゼンから許可を貰って外に出ることにしたのだった。
「やっぱりレンさんもお金貰ってたんですね!私と同じとすれば二十ロト…シングルルームで十泊できますね!」
エニーの言葉に変わりはなさそうだし、二人合わせて四十ロトか。ロトっていうのはこの世界のお金の通貨なのだろうが、どちらかというとどこぞのゲームの勇者を連想する。
「やっぱりレンさんはこれから冒険者として働くのですか?」
意識外からふとエニーがそんなことを聞いてきた。まあ《協力者》探しに一段落着くまではそのつもりでいたし、ひとまず一度頷いておくことにする。
「《勇者》として街を後にした私は冒険者としてお金を稼ぐことは禁止されているんですよね。まあ困っている人を無償で助け、魔物との戦闘ではいつも駆り出されるというわけで……」
魔王がいない世界の《勇者》はボランティアみたいなものなのか……冒険者よりも肩身が狭く、常に命を落とす最前線にいるというわけか。誰もやりたがらんわな……そんな仕事。
「それで、この子が生まれたときに私じゃなにもしてあげられないと思うので……レンさんが持っていては貰えないでしょうか?」
エニーは懐に抱えていた黒卵を持つ手を伸ばして受け渡す体勢に入っていた。正直な話、私もこの卵が孵化した後の面倒をみられる保証はない。
ここ数日一切腐っている様子もなく、時折動いているのを見ると確実に中身は育ってきているわけで、そろそろ本格的にどうするかを考えておかなくてはいけないのはわかる。
エニーが持っていても育てられる保証がないのは確かにそうだと頷けるが、言ってしまえば私も条件としては同じはずである。拾った本人がしっかり責任をもって孵化させてあげて欲しいと思う。
しかしそれでもエニーは食い下がらない。自分は《勇者》だからと私に押し付けようとしてくる。育てられるかどうかなんてこれからのことでわからないと言い聞かしても頑なに認めてくれない。
この様子を端から見れば、卵をどうするかで喧嘩しているようにも見えたのかもしれない。
「あのっ……!もしよければそちらの卵を譲ってもらえないでしょうか?」
だからなのだろうか、突然横から割り込んできた一人の男の子が目を輝かせてこちらをじっと見つめていたのである。




