圧巻の強者
私達の間に割って入った、黒の鎧を身に纏う剣士の男は頭に被っていた悪魔の角らしきものが付いたヘルムを脱いで顔を晒した。
顔はかなり濃く、黒髪と黒の髭がくっついた粗野な印象を与え、お世辞にも整ってるとは言い難い身なりをしている。
それでも禍々しい造形の鎧を持っているものだからヤバイ奴なのでは……とも一瞬考えたが、ヘリオの様子からして彼はどうやら普通の人間のようだった。
「が……ガルゼンさん!!ローセ最強の剣士、ガルゼン・デトラー殿!お戻りになられたのですね!」
「ああ帰ってきたぞ!じきにあの二人も戻ってくるだろうから、それまでは時間を掛けられる……」
黒鎧の剣士、ガルゼンがそこまで言ったところで目線がヘリオから私へと移る。弾き飛ばされたことで、壁に叩きつけられて尻餅をついているとちう情けない状況であった。恥ずかしいから見ないでくれよ、すぐに立ち上がるからさ。
「成る程な。どうやら……お嬢さんには迷惑を掛けちまったようだ。立てるか?」
「別に立てますけど……。」
私はガルゼンから差し伸べられた手を左手で掴んで立ち上がった。彼も思うところがあるのか、私を起こしたあとは少し考えるような仕草をして見せる。
「……まあよくわからんが、街で騒ぎを起こすのはマナー違反だぞ!騒ぎを起こすくらいならこの私に決闘を挑んでくるがいい!ガハハ!」
ガルゼンは大袈裟に笑うのが癖になっているのだろうか、励ますかのような大声で恥ずかしげもなく笑っている。それに決闘を勧めてくる辺り、自分の強さに一切の疑いを持っていないようである。
その魂胆はまだわからないけど……とりあえずあの刺が大量に刺さったような黒鎧について解説してもらうことにするか。
《ヘルグアーマー》希少度E+
〈[DEF補正+250][BMPD補正+110]キリシアナ大陸東端の地に住まうドラゴン、《ニーズヘッグ》の鱗を用いて作られた刺々しい鎧。
衝撃耐久はさることながら多くの状態異常を弾いて通さず、鋭利なフォルムでありながら高い防護性能を誇る。
だが常人には過ぎた代物であることには間違いなく、棘に刺さって死亡した持ち主も過去には存在する。〉
説明文を読んで私は恐怖で固まった。ま、まあ《ニーズヘッグ》の鱗で出来た鎧が弱いわけはない。そんなことはわかっているのだが、ガルゼンがやけに自信家なのもこの鎧を見れば理解できる。
だが一番の問題は、彼がどういう形であれ過去に《ニーズヘッグ》を討伐しているという事実があったということだ。
《ニーズヘッグ》ランクB+
〈キリシアナ大陸の東端の洞窟に住まうと言われている、鋭い棘を大量に生やした邪竜であり、同大陸に栄える世界樹の根、即ち生けるものの《王国》を齧りとろうとしていると書物に伝えられている。
ひとたび人里に降り立てばあらゆるものを破壊し、そのまま喰らい尽くすと恐れられている。〉
因みに《ニーズヘッグ》の説明文がこれだ。ランクB+を倒せる実力、もしくは渡り合えるだけの力があるのは間違いなく、絶対に敵に回してはいけない存在であることを痛感することになった。
「──で、君が新しく入ってくる私達のメンバーだね?メンリルさんから話は聞いていたよ。」
「あ……まあ、その、一応そういうことらしいです。」
急に話を振られたものだからなにも分からずじまいに「YES」と返答してしまった。メンリルさん云々言ってたし多分間違いはないと思う。多分大丈夫。
「こ……こんな奴と一緒に組むなんて正気ですかガルゼンさん!」
「正気もなにも元からメンリルさんからそういう話になってたんだぞ。本当ならマリーナが迎えにいく筈だったのだがな。」
え……もしかして私、《ニーズヘッグ》を倒せるような人外魔境に放り込まれるんですか?え、やだ。絶対足引っ張るじゃんそんなの。無能と言われた挙げ句サンドバッグ宜しくされる気しかしない。
「元より前に殉職した子の引き継ぎを考えてた所でね。なんなら魔物の子を入れてみようっていう話をしてたんだよ。」
「魔物を入れるなんてとんでもない!!なんでしたらこの俺が!俺をメンバーに入れてください!」
魔物を入れるくらいなら自分が入ると意気込むヘリオだったが、ガルゼンは彼の態度を見て首を横に振った。
「君の戦闘センスは確かに目を見張るものがある。だけれど断らせて頂くよ。」
「そんな……何故ですかガルゼンさん!!」
何故だと狼狽えるヘリオに「内面が終わってるからだろ」とツッコミたくなるのを抑えながら、私は二人のやり取りをじっと見ていた。
「チームを組むということは、ある種の連帯責任を負わされるということだ。誰かの失態や汚名をメンバー全員で背負わなくちゃならない。組んでから起きた不祥事ならばともかく、組む前から既に悪い種を咲かせているお前を誰が受け入れると思うか?」
「ぐっ……!!」
ガルゼンの言葉にヘリオはなにも言い返せず、悔しそうに唇を噛み締めていた。ヘリオのあの態度は度々問題視されていたようだし、それが面接で響いたって感じなのだろう。
まあ何にせよ自業自得だ。
「残念だが、この私も世間体はあまり無視できないものでな。特にメンリルさんとアルフス大公爵には頭が上がらないのも事実なのだ。諦めてくれたまえ。」
「なっ……そんなあ!!」
ガルゼンに完膚無きまでに論破されたヘリオの様子を嘲笑うかのようなひそひそ声が周囲に立ち込める。彼の評判は著しく悪いものであったらしく、この状況をいい気味だと蔑む声であることはすぐに理解した。
「と……まあ話が済んだところでこの話は終わりだ!解散したまえ!」
空気の悪さを感じ取ったガルゼンの一声で空気がガラッと変わり、ヘリオを笑う声もすぐさま聞こえなくなった。彼の影響力って凄いんだなあと関心すると共に、本気で彼と組むのかと少し不安になったことは言うまでもない。
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