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喧嘩勃発

こんな険悪なムードの中で会話など弾むわけもなく、互いに終始無言を貫いていた。



【ああもうどいつもこいつも狂っていやがる……。なにが人と魔物の共存だよ……】



その間にも彼は呪詛のような独り言を呟いているので、いい加減にイライラして手が飛び出そうになるのを必死に抑えながら、ギルドに向かうがてら観光を楽しんでいた。


ローセの街は明るい色のレンガで作られた建物が並んだ石造りの城下町であり、遠くに見える豪華で大きな白銀の城の後ろには、世界樹の如くそびえ立つ巨大な木が見える。


本当ならエニーにでもこの街のことを聞いておくつもりだったのだが、ここ数日の仕事とこれからのことを考えるのに集中して聞きそびれてしまっていたのだ。



【人間様に狩られるのが魔物じゃねえのかよ……人の言葉を解すな気持ち悪ぃ。】


「……。」



まあこんなヤツに聞く気にはなれんがな。全く私の方を向かないあたりあの声は周囲にも聞こえていないのだろうし、本人もまさか心の声が漏れているとも気付いてはなさそうなので、あまりこちらが気を使う必要もない。下手に触れればかえって逆効果な地雷みたいなものだしね。



しかし魔物の何が嫌なのだろうか甚だ疑問ではある。この街は少なからず数十年前から魔物と人間が手を取り合っている街だとはエニーから聞いている。双方が殺し合った時代も少なからずあるのだろうが、その根底と彼の魔物忌避の理由は実際謎のままなのだ。


いい気はしないが黙っておくことにしよう。斬りかかってこられないだけマシだと割り切って使い捨て程度に考えればいい。



「……着いたぞ。早く入れ。」


「お……おおう。」



暫く歩いた所でそう言われ、建物の外観を見上げるように眺めると、人二人分はありそうな巨大な扉があった。その大きさやインパクトは凄まじく、ただのドアの筈なのに弱者を寄せ付けない威圧感がする。



【人間臭い面してねえではよ入れやクソアマが……】


「ちっ……煩いなっrrr!?」


「「……。」」



……おっといけない。イライラが募って心の声ってやつにうっかり反応してしまったようだ。二人してかなりギクシャクした空気が流れる中、さっきまでの敵意が嘘のように彼がどぎまぎしながら扉を開けてくれた。



「……明日は槍でも降るのかな。」


「喧しいわ。早く入れってんだろ?」



私は苦笑いを浮かべながらも、彼に言われるがまま建物に足を踏み入れた。内装はかなり大きな酒場といった感じで、真っ昼間でありながら既に十幾つもあるテーブルと椅子は酔っぱらいに埋め尽くされていた。これが……ギルドなのか。



「よし、そのまま着いてこい。」



男が先導し、私がその後ろを着いていく。終始無言ではあったが、先程のやり取りを経て当初のような嫌悪感をそこまで抱かなくなっていた。実際彼の鬱陶しかった心の声も一切聞こえていない。



そのまま暫く歩いて、受付のカウンターの所で彼の足は止まった。そこには受付を担当する茶髪の女性が一人、いつでもどうぞと言いたげな接客姿勢で直立待機しているのが見える。



「そんじゃ後は頼みます。もうこんな役は御免だぜ。」


「ただの自爆じゃんか……。」


「あ″?」


「……やんのか?」



彼の言葉にムカつき、受付の彼女を前にしてバチバチと火花を散らすが如く男を睨みつけた。彼も「後は頼みます」という言葉をそっちのけ、しっかりと目を合わせてきている。



「ま……まあ落ち着いてヘリオ。そういう態度でいつもメンリルさんに叱られてるじゃないの。」


「……俺のせいかよ」


「……逆に私に非があるんですかね?」



私からすれば、勝手に連れてこられて勝手に自爆された挙げ句何故かキレられているというどっから見ても理不尽でしかない光景なのだが……そう言った瞬間、空気がカチンと凍りつくような嫌な空気に変わったのを感じ取った。



「魔物の分際で口を慎め……いやこれ以上何も喋るな!黙れ!口を閉じろ!!なんならそのまま惨めに古水を啜って死ね!」


「……はーお前、ちょっとシバくぞ…おいぃ?」



──ヘリオの言葉でさっきまでのイライラが完全に爆発した。ムカチャッカファイアーとかおこだよ?とかそんな次元でもなく、もう頭がぐわんと揺らぎ、感情が怒りに持ってかれているようだった。


確かに余計なことを口走ったのは私の悪い癖であり、咎められる難点であるということは認める。それは素直に悪いと認めよう。


だけど魔物であるという理由だけでここまで貶された挙げ句死ねとまで言われてキレない程の聖人さは私にはない。誉められれば喜び、貶されれば怒る。私だって元はそんな普通の人間だったのだ。



「許さないけど謝れ、詫びろ……なんなら無様に赦しを乞えよ。」


「するわけないだろそんなこと……この手に代えてでも魔物は俺が殺す!」



私は右腕を、彼は両手剣を構えダッシュする。互いに憎悪に近い視線を向け、渾身の一撃を込めるつもりで大きく武器を振りかぶった。



「謝れっ!!《カースクロウ》ッ……!!」


「死ね!《ウォーバルスラッシュ》!!」



全力を懸けたスキルを放とうと振りかぶった互いの武器がぶつかり合う瞬間、何者かが割り込んだと思えば私の身体は大きく吹き飛ばされた。



「ああ、喧嘩した時点でどちらも悪いよな!ガハハ!」



壁に叩きつけられて痛む身体を起こすと、さっきまでの私達がいたところに一人の剣士らしき男が余裕綽々と立っていたのである。

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