到着一発目
と、まああれこれ考えていても仕方がないと切り替えることにした。なにかしらのタイミングで多分口を出してくるだろうが、現状復讐だとかそんな不穏なことは考えてない。
『──!!───!!!』
ふと耳に騒がしい人の声が響く。どうやらいつの間にかだだっ広い森から抜けたらしく、辺りを見渡せば石造りの建物が立ち並ぶ大きな街にたどり着いたようだった。
空は既に日が堕ちて暗くなろうとしているというのに、ランタンが立て掛けられた街頭に照らされた街の活気は衰えることを知らない。明るい茶、白、赤と様々な色の煉瓦で彩られた“洋風“の街並みがそこにはあった。少し見辛いが少し遠くには城のようなものも見える。
「着きましたよ!目的の街、《ローセ》に!!」
エニーが高々と陽気な笑顔を見せてそう言った。さっきまでどん底だった彼女だが、目的地にたどり着けて調子を取り戻せたようだ。いやあ良かった良かった。
「ここならレンさんも住める筈です!なんと言ってもこの街はモンスターの渡航が認められているギルド街なのですから!」
エニーがオタク特有の早口で有無を言わさず街の説明をしていた。アンデッドの私にも住める街があるというのはありがたい話であるが、「え、自慢げに言ってるけどそれって結構ヤバイことなのでは……」と内心思った。
本来人間と魔物は決して相容れない存在であるはずだ。一部のゲームではモンスターと信頼を深めて仲間として共に戦うテイマーという職業が存在する。
だがエニーの言葉はモンスター単体での渡航が認められているという言い方だった。勿論多少の語弊はあるだろうが、何でもかんでも受け入れているような街が長く持つ訳がないし、治安がもしかしたら悪いのかもしれないと構えるのは反応としては間違ってないだろう。
「──でさぁ、酷いんだようちのリーダー!」
『キシシッ!!』
……なんてったって、私達のすぐ横を通った女の子もまた魔物と称される姿をしていたのだから。頭には如何にも悪魔の象徴とされる月形の角が生えている、藍色の肌をした少女。たわいもない話をしているものの、感覚的に何処か嫌なオーラを放っている。
私はすぐに[デッドレコード]を当てて詳細を探った。
《ワルト=ガ》ランクC+
〈人間社会に紛れ込んで内から破壊することを目論む魔族であり、小さいがれっきとした悪魔として、勢力をもつ王国では危険視されている。〉
うっ……格上か。万が一敵対する羽目になったら面倒なことこの上ない相手だな。なんせランクだけならあの《エイルドラゴン》と同格なのだから、まともに殺り合って勝てる相手じゃない。
続いて彼女の肩の上に乗っかっている小さな獣にも[デッドレコード]を当てる。それは光を通すグレーに近い黒毛の生き物で、恐らくネズミの類いなのだろうが、正確になんの動物かを割り出せないでいた。
《デマイズビースト》ランクC
〈魔獣と呼ばれ自然界に沸くことが滅多にないため、データが非常に少なく生態の多くが謎に包まれている。
“終焉“を意味する名を持ち、敵対したモノを完膚無きまで叩き潰すとされる。〉
私は説明文を読んで驚愕した。手乗りサイズのちょこんとしたこの獣がなんと私と同格なのだという。にわかに信じられないが、[デッドレコード]が嘘をつく意味もないだろう……つまりそういうことだ。
「なに?チラチラ見て。」
「……えっ!?」
こちらの視線を感じた《ワルト=ガ》がジト目で睨み付けてきた。どうやら彼女の気分を損ねてしまっていたらしい。
見た目は皮膚の色を除けば十代前半の可愛らしい女の子といった感じなのだが、その冷めたような目の鋭さ……いや、恐怖か?あの目に囚われたような気がして、逃れようにもどうにも逃れられない。
「え……あ、あの、えっと……」
「あなた……ここらじゃ見ない顔ね。しかもその腕、人間のモノじゃない。」
少女は一人、考える仕草をして見せると肩に乗っている《デマイズビースト》になにかを伝えていた。あの生き物と意志疎通が出来るのかと驚くと同時に、明らか関わってはいけない存在であることを第六感が告げる。
「ふーん……まあなんかの縁だったということにしておくけど、言うべきことがあるんじゃないの?」
「あっ……あの、ごめん……なさい。」
動機はどうあれチラチラ見ていたのは間違いないし、見られることを良く思ってない人がいるということも前世でわかっているつもりだ。
少なからず非は私にあるし、なるべく敵に回したくないというのもあってたどたどしくありながら謝罪する。
「……まああまりいい気分はしないわね。」
『グウウウ……』
彼女は吐き捨てるようにそう言って離れるように踵を返していった。とりあえず難を逃れたことに安堵はするが、早速C+のモンスターと鉢合わせることになるなんて、とかえって不安になる。
エニーは私が住める場所として勧めてくれたのだろうが、この場所は最早悪魔の巣窟かなんかである。こんな場所住めないし出来るなら住みたくない。




