エニー・コミュニケーション2
「……」
「……」
卵の無事を確認したところエニーが安堵してなにも言わなくなってしまい、辺りは静寂に包まれる。ザッザッと硬い地面を踏みしめる音だけが響く。私達は二人して黙りこみ、ひたすら目的の場所へと向かっていた。
あの失態から今に至るまで互いに言葉をかわすことはない。エニーは自分の失言が恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして卵を抱きながら俯いている。かく言う私もこの沈黙を打ち破れるトーク力があるわけでもないし、何を言っても無駄に終わるだろうと思って何も言えず、彼女が調子を取り戻すのをただ待つことしか出来なかった。
「あ……あのs」
「はあぁ……。」
「……。」
何処に向かっているのか、と聞こうとした私の言葉はエニーの溜め息に遮られて口ごとピシャリと閉じられる。
……駄目だ。やはり私にはこの空気を変えるだけの力がない。軽率に話しかけようものなら「は?」と疑わしい目と荊のように棘まみれの言葉が怒濤の精神攻撃を浴びせてくるだろう。そう思うと迂闊に話しかけられない。今のように空気が淀んでいるときは尚更だ。
「ううぅ……私いっつも距離感が掴めないって言われ続けてて……やっぱ駄目だなぁ……やっぱり……」
エニーが顔をうずめたまま独り言のようにそう呟き始めた。一人で話しているように見えるが実はこれ、私に話しかけているのだ。
これは複数人いるときには非常にわかりづらいが、反応欲しさに遠回しに話しかけるつもりで独り言っぽく呟き反応をくれた人との会話に持っていくという手法だ。
誰も反応しないと非常に残念な結果にはなるが、話題の共通性が見られる人をキャッチしやすいという特徴がある。現在この場には私しかいないので、きっと私に反応してほしいのだろう。無視は無視で空気が悪化するのでできれば反応を返すべきである。
……しかし何て反応すればいいものか。仲のいい友達っぽく返すなら「そんなことないよ」とでも返せばいいのか?
いや、でも私は彼女の生い立ちを知っているわけではないし、仲間として行動したのもトレーニングを兼ねたほんの僅かな時間だけ。そんな私が一体彼女のなにを知っているのか、と逆ギレしてくる可能性だってゼロじゃない。
まあされたらされたでこっちもキレると思うけど、精神的に参っているときになにを仕出かすかわからないのが人間である。実際前世でも会話のすれ違いにちょっとしたことでブチ切れキレられ、いつの間にか会話の銃撃戦になったことだってある。意図して傷つけるつもりがなくても、罵倒の一つ一つが銃弾のごとくメンタルを貫いていくのは辛いものがある。
「レンさん……ごめんなさい。」
「ああ、気にしないで。」
この反応をみるにエニーは一人で色々と抱え込んでズルズルと引きずり込むタイプなのかもしれないな。妙な歯切れの悪さや、謝罪を謝罪で塗りつぶしては根本的な解決に至らない……というか至れないのだ。
何もかも自分のせいにして他人を一切省みない、つまるところ彼女は自責の念が強すぎるのだ。それは恐らく付け焼き刃のように突発的に生まれたものではなく、彼女の人生の中で染み付き、酷く湾曲した人格と呼ぶに相応しい。
ある意味他人にぶつけないだけ、私と違ってよく出来た人間であると思う。《勇者》として生きてきた中でどうにもならない理不尽はあっただろうし、仲間との実力差を感じることも少なくなかったとは思う。
ああ……こんなことを考えてもどうにもならないというのに、つくづく無駄なことをするなぁ。私は。
左手で髪を軽く掻いて頭を切り替える。この世界に来て日が浅く、まだまだ知らないことが多すぎるし、《勇者》とか[デッドレコード]とかがこの世界でどういった存在に位置するのかもよくわかっていない。これまで戦闘民族のような暮らしをしてきた矢先、人と関わる時のことを考えていなかったのだ。
何となくわかっているのは一般人は大体Eランク程度のステータスしかなく、Dランクの魔物にすら成す術もなく蹂躙されることくらいか。だからCランクのステータスを持つ私からすればイージーゲームではあるんだが……
……まだ上には上がいるんだよなぁ。
私の見立てでは少なくともA+ランクのモンスターまではこの世界に存在し得る。更に格上と言われても想像は出来ないが、存在している可能性自体は否定できない。それこそ《ペイン=プリンセス》の進化先だってあるかもしれないのだ。
[デッドレコード]を送りつけてきたヤツがあの時から何も口出ししてこないあたり、なにをさせようとしているかが見えてこない。進化さえしてランクを上げてくれればそれでいいということなのだろうか。
また作者スランプになってるよ……4000ユニークアクセス突破ありがとうございます~




