無事の安堵を
《フィーブルイーター》ランクE+
〈優れた嗅覚と熱感知によって生ける獲物を探し当て、暗闇の中から奇襲することが得意なアンデッドモンスター。
鍛練を積んだものにとっては素早いだけで殆ど脅威はないが、非力な幼体や無力な卵を好んで食らうことからこの名が付いたとも言われている。弱いもの虐めという通り名を持つ。〉
暗闇に紛れてはいるが、不自然な暗さがかえってヤツの存在を際立たせていたようだ。
見た目は一メートルと数十センチくらいの小柄な人型だが、光を一切通さない漆黒の皮膚と不自然に開きっぱなしな大口が異形の者であるという象徴に他ならない。
多分親竜の《エイルドラゴン》がいなくなったことで沸いて来たんだろうということは容易に想像できるが……こいつ、もしかして親のいない隙を見て卵を食い荒らすつもりなのか!?
『ジェエエエエエエエエエッ!!』
《フィーブルイーター》が敵意を剥き出しにして叫ぶ。仮にも人間の姿をとっているとは思えない轟音はまさしく獣か悪魔のそれであり、弱いもの虐めという蔑称を感じさせないほどの迫力がある。
……逆に弱いヤツほどよく吠えるという意味合いなのだろうか。
《シーフアタック》
〈音もなく相手の隙をついて攻撃する。不意の攻撃によって対象を麻痺させる。〉
ヤツは文字通り音もなく天井から落下してきたが、通知さえあれば攻撃を予測するのは簡単だ。飛びかかってきた《フィーブルイーター》を思い切り蹴り飛ばし、めり込ませるが如く勢いで壁に叩きつけた。
『ガ……』
「うわあ……」
壁に埋まった状態で痙攣し、動けなくなっている《フィーブルイーター》を見て顔を真っ青にしているエニー。ここまで本気になったところを見せたことがないからだろうか、私はその驚きようはあんまりじゃないかと苦笑いするしかなかった。
……その後私達は全速力でこの洞窟を御暇することになったのだが。
とやかく言いながらもなんだかんだ暫くは腰を下ろせていたが、あの洞窟はさっきの《フィーブルイーター》によって大分荒らされていたらしく卵の殻や食べ残しと思われるドラゴンの子供の死骸が転がってるのを見つけてしまい、そのグロテスクさに恐怖で居ても立ってもいられなくなったのが理由だ。
「はあっ……怖かったよお……!!」
エニーも相当参ってしまったらしく、息を整えながら両腕に黒卵を抱えて縮こまっていた。てかそれ持ってきちゃったのか……。特にヒビも見られないし割れてはなさそうだが、なんというか……うーん。
「と……とりあえず割れてはないよね?」
「だ、大丈夫な筈です!特に底も割れてないですし……それにしても結構重いですね。」
「あわわわわっ!?あんまり傾けないで怖いから!」
「えっあっ………ごごごごめんなさいっ!」
あまり傾けて落とすなよと声をかけた結果かえって卵を落としそうになり、二人して慌てふためいていた。
まあ中身が空洞だったら軽いだろうし、やっぱりその内孵化でもするんだろうか。どのくらい放置されてたかもわかんないから実は死んじゃってる……なんて可能性もあるけど、折角持ってきてしまったというなら産まれる瞬間を見届けてあげたいというのは本能的な母性かなにかなのだろう。
「……温かいです。ちゃんと動いてる証拠ですよね、これ。」
卵の温かみを感じ、大事そうに抱える彼女の姿はまさしく聖母というに相応しかっただろう。下衆を極めた私には到底出来っこない表情を垣間見て、同性でありながら思わずどきりとした。
「ふふっ……私とレンさんの……子供ですか。」
まあこういうこと言わなきゃ百点なんだけどね!!いうと思ったよ本当にさぁ!!前世から思ってたけどなんでつまらない冗談が言えるのか本当に訳わかんないんですけどぉ!?
「あっもしかしなくても照れてますねレンさん!私の方が(多分)年上ですしお姉さんだと思って頼ってくれていいんですよ?ほらほらっ!」
「え、あ、おま、ちょ──ぎゃああぁっ!」
卵を持っていることも忘れてエニーがグッとすり寄って来た。彼女は姉というより見た感じペットなんだよな……こういう距離感を測れない所とか、気を許した相手にはとことん甘えられるタイプだろう。
「卵っ!!卵が割れるからっ!!とりあえず離して!!」
「ひっ、あっ……?あぁよかった……。」
勢いに任せて言った言葉が届いてくれたようで、今は心配そうに卵をじっくりと手で回して割れていないか確認している。こういった距離間の開け狭めがどう見てもペットのそれにしか見えないな。
70ブックマーク達成ありがとうございます!
これからも引き続きよろしくお願いします!




