友達の眠る墓
「レンさんっ……ひっ!?」
声のした方へ振り向くと、後ろから私を心配そうに見つめるエニーの姿があった。ローブは煤だらけであるが、目立った怪我も無くて本当によかった。
「ま……また無茶苦茶したんですか!!なんで……なんで一人で抱え込むんですか!!」
エニーは私の(主に頬の)傷を見てカンカンに怒っていた。正直ここまで大事になるとは思ってなかったが、正直ここ周辺の魔物が《アンドロマ》を倒せるかと言われたら間違いなくNOだ。それに元々私が巻き込まれない選択が取れない状態だったし、私が骨を折って(物理的に)やっただけのこと。
「それに女の子なのに顔に傷なんて……」
更に長ったるしく説教を連ねるエニー。大事そうに抱えられていたマフラーを彼女から受け取り、尚続く叱責を聞き流している。隠そうと思えば丁度鼻まではなんとかなりそうだし、そこまで問題ないかな。
【その傷はあの外れ者から受けた呪いか。】
《サンクチュアリザード》が私の方を見てそう《念話》のようなものを送ってきた。相手が蜥蜴故に表情は伺えないものの、その眼差しや言葉には同情する気持ちが籠っているようだった。少なくともさっきのような仕打ちを再びしようなどという考えではない。
【我らとて万全を期したあの外れ者を倒せる力はない。ある種貴様には感謝しているのだよ。森への被害を最小限に抑えてくれたことをな。】
蜥蜴からの感謝を話半分に、私は《アンドロマ》のボロボロになった死骸の方を見ていた。既に死後数週間といったその劣化の早さは、いくら分解者が食い荒らしているといっても異常であり、前に戦った《エイルドラゴン》の状態と合致する。
呪い……とひと括りにするには色々と複雑な事情になるが、単純に言えば《アンドロマ》もまた《エイルドラゴン》と同じような力に呑まれたのかもしれない。
そう考えれば《アンドロマ》は進化した瞬間、《エイルドラゴン》は子を奪われた瞬間から豹変したようにも思える。
(……一体何が見えていたんだろうな。)
自分の器に見合わない呪いに手を出した彼らは死に際になにを見てどう苦しんだのか。それは私には分からないしきっと私の右頬の傷以上の、想像を絶するような痛みと苦しみを味わったのかもしれない。
私は考えるのをやめ、やれやれと両腕を開く姿勢をとった。
【まるでこの出来事を他人事のように思っているのではないか《アインベル》。】
《サンクチュアリザード》がこちらの思考を読み取って話しかけてくる。正直あの二体の状況には私もなりかねなかったし、他人事のつもりではなかったのだが……うん。
【我らはこれより呪いに穢れた地を修復する。よって呪いを操る《アインベル》には即刻立ち去ってほしい。】
長蜥蜴が木の幹を這ってそうせがんできた。身体は細長いだけの蜥蜴そのものなのだが、言葉と立ち振舞いからは圧を感じる。
言い分はわかるけどさ、休ませもせずにその扱いはちょっと酷いんじゃないか?あまり高々というつもりはないけど、恩人に対する態度じゃないよね。
【我らに時間が無いゆえ、あまり繰り返させるなよ。立ち去れ。】
時間がないってどういうことなんだ……?わかったような態度をとってくる理由とか、聞きたいことが多すぎて……
【立ち去れ。】
いや……あの……せめて休む時間くらいはくれませんかね?
【立ち去れ。】
なんでそんな帰らせようとするんだよ!!1日で良いから休ませろや!!
【拒否する……。今日中に立ち去るのだ。さもなくば、】
その念話と共に《アンドロマ》の肉を貪っていた《シデトカゲ》達が一斉にこちらを向いた。
なるほどね……立ち去らなければ次はお前がこうなる番だと言いたいのか。どうやらあいつら、私と会話するつもりは毛頭ないらしい。何を急いでるかは知らんがあまりにも酷な仕打ちだろ。
「あの……その前にひとつだけ済ませておきたいことがあるんですが……」
エニーがこちらの会話を聞いてたかのように、突然割り込んできた。その内容は私からは伺えないものの、《サンクチュアリザード》はこくこくと首を頷かせている。
【……わかった。それを済ませたら速やかに立ち去るように。】
長蜥蜴が納得したような素振りを見せて念話を送ってきた。どうやらこの内容もエニーにしっかり聞こえているようだ。
・・・・
それから暫くエニーに連れられるがまま歩いたところ、どうやら目的の場所にたどり着いたらしい。
そこには木の枝で出来た粗末な十字架と、不自然にもっこりと隆起した土だけがあるという簡素な造りだった。私はそれが何なのかをすぐに察した。これは誰かの墓のようだ。だが人間にしてはかなり小さめなものに見える。私をここまで連れてきたあたり、このお墓は多分スバルのものだ。
「レンさん。片膝を突いて両手を合わせてください。片脚が痛むなら両膝を突いても構いません。」
私は言われるがままに片膝を突き両手を合わせる。なるほど。恐らくこれが追悼の儀式というものだろう。
「─では一礼をお願いします。」
エニーに従って一礼し、そのまま目を瞑る。頭が熱くなる感覚と共に涙が出た。本当に申し訳ないという気持ちと、今となってはありがとうという感謝で一杯だ。とても短い間ではあったが、この世界で初めて心を通わせられた“友達“なのだから。
(ありがとう……スバル。)
私は時間の許す限り、精一杯の感謝と追悼の意を込めて十字架に向かって一礼した。
25000アクセスと3500ユニークアクセス突破ありがとうございます!
もし良かったら感想やブックマークの方お待ちしております!(。・ω・。)




