アンドロマの最期
「《ダークスピア》!!」
紫色の矢を右手に複数個生成し、《アンドロマ》に向かって放つ。それはヤツの鱗を突き抜けて地面に落ちると同時に消えた。物理的な防御力は高いようだが、魔法を防ぐステータスがこいつは低いのかもしれない。
『グガァァァァァァッ!!』
《アンドロマ》が滅茶苦茶に身体をばたつかせて暴れ回り続ける。鱗を貫通した筈だがピンピンしているのを見ると、魔法攻撃は物理的にそこまで作用しないのかもしれない。
『グァァァァァァァッ!!』
ヤツは変わらず《マッドファイア》で周囲を凪ぎ払い、生きた魚のように身体をうねらせて《スピニングテール》をそこら中に放っている。
周囲の木々は既に燃え付きていたり根本から倒されているが、特に酷いものは幹が真っ二つになって横倒しになっていたりと見るも無残な状況であった。
まったく……どっちが破壊者なんだか。この有り様をみて動かないとは森の守護者が聞いて呆れるね。私はやれやれとため息をつきながら、《アンドロマ》の動向を眺めていた。
(どうしよう……決め手がない。)
私は元気に跳ね回る《アンドロマ》の姿を見てため息をつきながら、どうも攻撃の効きが悪いと力不足を実感させられる。
よくよく考えれば、Cランク中堅レベルの私がBランクに片足突っ込んでいるヤツに有効打を持ってる方がおかしな話だ。それに進化してからそれほど時間と経験が浅いせいでスキルのレパートリーがまだまだ少ない。
これまで常に格上と戦い、それを毎回無理矢理ごり押してきた私がそもそも地力に差のあるバケモンと小手先勝負で闘えと言われても無理な話である。これも引き受けたんじゃない、本当に巻き込まれただけなんだよ私は。
『ピギィッ!!』
ふと小さな鳴き声がしたと思えば、《キノボリトカゲ》が吹っ飛ばされているのが見えた。もしかして逃げ遅れたのか?と思ったが、《アンドロマ》の背中を見るに一匹や二匹ではない。軽く百を越えそうなほどびっしりと張り付いていた蜥蜴が、のたうち回るように動く《アンドロマ》にゴミのように吹き飛ばされている。
明らか爪を立てた時には見られなかった《キノボリトカゲ》の姿にぎょっと目を見開いて戦慄した。もしかしてと思って身体を手で払ったが特に蜥蜴が張り付いてましたみたいなことになってなくて安心する。
【愚かなものよ……自然を守ることから生命を屠る破壊者へと変わってしまうとはな。】
すぐ近くのまだ無事な木の幹から黄緑の鱗を持つ蜥蜴、《サンクチュアリザード》が心底軽蔑した様子で《アンドロマ》を凝視していた。
こいつは私に蜥蜴を押し付けてきたある種元凶であり、なんというか……見据えられている気がしてどうも苦手だ。
【まあ見ておるがいい……森を荒らせばこうなるのだと見せる良い機会だ。】
『バジェ!!』
突如、《アンドロマ》のいる方角から変わった鳴き声がした。目線を移すと《キノボリトカゲ》の皮膚から鋭い棘が次々と生えてくるのが見えた。それも一匹だけでなく、見る限り《アンドロマ》の背中に張り付いている奴等全てが進化するつもりのようだ。
《シデトカゲ》ランクE+
〈自然界に堕ちた生物の死骸を喰らう分解者としての役割を持つ蜥蜴。戦闘能力は皆無で無力に等しいものの、獲物の分解を早める酸と鋭い牙を用いて自然をあるがままの姿へ還す。〉
進化……はしているがランクは《キノボリトカゲ》の進化先の中で最低のE+だ。魔法が使えるのもD-ランクからだしな……と説明文を読んでいくうちに、少し引っ掛かったことがある。
このトカゲはそもそも戦闘というよりも分解に重きを置いている。相手はB-ランクと格上の格上の格上、まともにやって勝てるような進化ではないことは言うまでもない。
それなのにあの蜥蜴野郎はなにも言わず《アンドロマ》と《シデトカゲ》の様子を見守っている。《シデトカゲ》の武器は分解を早める酸……あっ。
『グァァァァァァァッ!!グァァァァァァァッ!?』
私が《シデトカゲ》の目的に気づいたのと同時に《アンドロマ》が叫び声を上げた。《アンドロマ》の身体にびっしりと張り付いた蜥蜴達が巨体のあちこちを噛みついているのが見える。どうやら説明文にあった酸を流し込んでいるようだった。
柔らかい部位であった《アンドロマ》の目玉が酸によってドロドロに溶け、その残骸が地面に落ちる。そこからは《シデトカゲ》による数の暴力に捩じ伏せられたか、ヤツの動きがビタッと止まった。
その間にも眼窟やら口の中にもしっかりと蜥蜴が這い回って酸を流し込んでいるように見えた。
『グァァァァァァァッ!??』
あり得ない、とでも言いたげに口を大きく開いて咆哮する《アンドロマ》。だがそれはかえって分解者たちに柔らかい部位を晒す結果になり、ありったけの酸をお見舞いされて苦しそうに身体を震わせているようだ。
『……イイイイイイイイッ!!』
それでも流石はBランクといったところか、全く無事ではないものの身体を起こして必死に《シデトカゲ》を撥ね飛ばしていく。もう目は見えていない筈だというのに凄まじい執念である。
【イヤダアァァァァァァァァァッ!シニタクナイ!!シニタクナイ!!】
───身体を捩りながら、《アンドロマ》が喋った。その懇願は当然無視されていて、分解者たちはせっせと《アンドロマ》の身体を溶かしていく。あの守護者蜥蜴はどう思っているのかと目線を移すが、特に気にも留めていないようだ。
【ゼッタイニ……ゼッタイニユルサナイゾ《アインベル》!!オレノ正義ヲ踏ミニジッタテメエヲ……】
明らかに喋ってるよねあいつ。しかも種族名名指しで許さないとか言われたんですけど泣いていいですかね。不自然な切り方をした《アンドロマ》が天高く首を伸ばし、まるで今から高々と宣言をするかのようだ。
【【【一生呪ッテヤルカラナ!!!】】】
《アンドロマ》がそう叫んだ瞬間、右頬に酷く焼かれたような痛みが襲いかかってきた。多分呪詛かその類いだと思うが……っ!右頬を押さえるとかえって蝕まれるような嫌な感覚がする。手を離すと自分の左手には先程と同じく血がべったりと付いていた。
なんだこれは……いつ付けられた?いや付けられたタイミングは《マッドファイア》に焼き打たれた時か。あれはまだ炎に痛め付けられたと説明しようがあるが、これに至ってはどう説明してもわからない。
自分でも「?」マークを浮かべる突然の激痛に怯み、震え、戸惑うことしか出来なかった。
「え“……」
自分の目の前には力尽きて肉を貪られている《アンドロマ》の姿だけが残っている。あまりに突然の出来事に頭の整理が出来ず、その場で肉を解体する《シデトカゲ》をただ眺めていた。
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