厄災の権化
ヤツの顔面目掛けて右腕を大きく振りかぶる。私の右腕と《アンドロマ》の牙が触れ、甲高い金属音と共に火花が散った。ガァン!という激しい音を伴うぶつかり合いをしては互いに追撃を許さぬように距離をとる。
『グオオオオオオオオオオオオ!!』
《アンドロマ》の身体は蛇のように長く、かつ丸太のように太くてしなやかであり、しっかりと全身を捉えなければ飛んでくる尻尾に打ちのめされかねない。あんな十メートルに達しそうな巨体の頭から尻尾までを捉えるのは厳しいか。
(それでいて硬いのかよ……!!)
私の《カースクロウ》は全力で振ったつもりのはずだが、ヤツの鱗に弾かれ肉に通らない。防御はまだまだ出来るが攻め手に欠けるのも格上を相手にしていてよくあることだ。今に始まったことじゃないしもう慣れている。
《間欠泉》
《カースファング》
《スピニングテール》
[デッドレコード]の通知が視界と耳に届く。《間欠泉》は牽制で残りの二つが近接攻撃か。恐らく本命は噛みつきと尻尾による波状攻撃といったところだろう。
地面が割れるような音と同時にフシャアァァァァ....と噴水のように勢いよく水が吹き出し、私を取り囲んでいく。既に《イグアマリン》で見慣れたスキルだ。当てる気がないなら最初から気に留める必要もない。
私が狙うは大きく飛翔し、急降下する《アンドロマ》本体。魔力を込めて作った臓物の塊を左手に持ち、上に向かってぽーんと高く放り投げる。
そして心臓を貫くかのように、右腕を大きく前に突きだして《デモニア》を割った。水風船が破裂するかのごとく血のようにどす黒い液体が飛び散る。
『グァァァァァァァッ!!』
そのまま臓物だったものを《呪縛の風》と共にヤツの顔面にお見舞いする。目眩まし程度の牽制にしかならないけど、私としては今あるスキルを組み合わせての小手先勝負で削っていきたいところだな。
そもそも地力では私が劣るし、Cランクになったとはいえスキルのレパートリーも多彩と言えるほど増えた訳じゃない。寧ろ《ゲノムシーカー》の時に持っていたスキルが若干強化されたような感じになっている。
マイナスランクで多彩なスキルを習得してプラスランクの力量でゴリ押すのがここでは一般的なのかもしれない。現に《アンドロマ》はB-ランクでいて、《イグアマリン》と《イピリア》時代には考えられないような禍々しいスキルを大量に会得している。
《マッドファイア》
〈狂気を糧に燃え上がる炎を吐く。〉
そう……例えばこんなスキルだ。視界を戻すと地面に激突した《アンドロマ》が起き上がり、口から赤紫色をした毒々しい炎が悲鳴に近い咆哮と共に放っていた。軌道が滅茶苦茶なそれをすぐ側にいた私はかわしきることができず、僅かに触れた右頬に焼き打たれたような痛みが走る。
押さえた左手を見ると、手にべったりと血のようなものが切り傷の形で付着していた。それを見るに私の頬にガリっと抉られたような不自然なほどに大きな切り傷が出来てしまったようだ。いくら私が不細工とはいえ女の子の顔に傷をつけないでほしいな……痛たっ。
『ア“ァァァァァァァァァッ!』
地上でのたうち回るように暴れる《アンドロマ》。見境なく炎を吐き、周囲を凪ぎ払っていくその姿はまさしく災厄といって過言ではない。おまけにその炎は触れたものを凶器のように傷つける力があるときた。
……これを野放しにはちょっと出来ないよね。
炎のヴェールを掻い潜り、ジタバタと暴れ回るヤツの身体に飛び乗った。鱗に爪を刺して止めようとするも案の定硬さの悪戦苦闘する羽目になってしまったのだが、それでもと何度も刺そうと爪を立てる。あまりの硬さにこちらの爪が砕けてしまいそうだった。
「だったらハイダー……わとっと!!」
かといって魔法を放つにも足場が安定しないせいでスキルを上手く発動出来ずにいた。ここで《ハイダーク》に進化したことが仇になるなんて思ってなかった……なんたる失態。
『グガァァァァァァッ!!』
「……っ!!」
ヤツが首を大きく振るったことで、まるで一瞬の隙を突かれたかのようにガクンという衝撃と浮遊感を乗せ、暴れる《アンドロマ》から身体が離れてそのまま吹っ飛ばされた。大きく宙を舞った状態で抵抗出来るわけもなく、背中から地面に叩きつけられるように着地する。
いや……着地というより激突といった方がしっくりくるかな。背中痛っ!!マジで痛っ!お願いだから防御力仕事してぇ……!!
ステータスの数値に悪態をつきながら背中を擦って身体を起こす。幸い《アンドロマ》はまだ目が血に潰れてのたうち回っていて、離れてさえいれば追撃を貰うこともないだろう。
「《ハイダーク》!!」
紫電を纏う大きな黒い玉を振りかぶって投げつける。放物線を描いて《アンドロマ》の背中に到達すると、衝撃が加わった爆弾のようにその場で炸裂する。
『グガァァァァァァッ!!』
ヤツは大きく咆哮し、苦しそうに悶えていた。最初から無理に近づこうとせずに遠距離から狙った方が楽だったかもしれないな……。とこんなところで意気消沈してるわけにもいかないし、《アンドロマ》が視界を取り戻すまでにある程度は削っておかないと結局不利になるのは私なのだ。
「……すう。よしっ!!」
周囲を舞う火の粉も大分落ち着いてきたところで一度呼吸を整え、この好機を逃すまいと右腕に力を込めた。
6/24.1話 《転生というか転死な気がする》
6/24.2話 《デッドレコード》
6/24.3話 《人間っていいな》
6/24.5話 《進化先の進化先》
以上の文章改訂を行いました
ブックマーク60突破ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




