足枷を背負いながら
「なにを……何を考えてっ!!」
「一人で戦わせて自分だけ逃げるなんて……やっぱり私には出来ません!!」
エニーは身体を縮こませて震えつつも、その手はしっかりと杖を握っていた。自分が力不足なことを自覚していながら私を手助けする気でいたらしい。
気持ちは確かに嬉しい。だけどその優しさがお互いの首を閉める方向に走ってしまっているのだ。蜥蜴達の標的は私であって、エニーが出る幕は正直に言って無い。
それに私だって彼女を庇いながら戦える実力もないし、相手は同格のCランクだ。エニーの《ハイドラ》がまともに効くとも思えない。
……まあ言ってしまえば邪魔なのだが。
「はあ……っ!!」
(……。)
本気の目で《イピリア》に対峙しようと覚悟を決めたエニーを前にして、「邪魔」とは言えなかった。彼女だって自分が力不足なことはわかってる筈で、この戦いで最悪命を落とす可能性だって十分あるのだ。その状況で命を掛けて前に出てきてくれた彼女を突き放すなんて……私には出来ない。
[エニー・ルミリアのステータスが閲覧出来るようになりました。]
彼女が私を仲間と見なしたことでステータスを確認出来るようになったようだ。何処まで食らいつけるかは見ておきたいし、早速表示してもらうことにするか。
───────
名称.《エニー・ルミリア》
種族.《オーディナリーヒューマン》
状態.《緊張》
HP38/40
MP25/38
Hexagram.《2》
ATK.15(+5)
DEF.13
BMP.29
SPD.15
───────
《装備》
《宝杖ウィンドミル》R
《凍水のローブ》N
《対腐の革靴》N+
──《スキル》───
《物理スキル》
《殴打》
《魔法スキル》
《ハイドラ》
《フリーズコア》
《ティリア》
《ティーリン》
──────────
《称号》
《勇者一行》
《救護婦》
《Lv1魔法使い》
──────────
……うわあ(呆然)。本当に一般人に毛が生えたくらいのステータスじゃないかこれ。私が《ゾンビ》に進化した瞬間とほぼ同じかもっと酷いくらいで、魔法が使えるだけの一般人といって差し支えないんじゃと思えるほどだった。
まあ魔法が使える一般的な女の子と言われれば納得できるが、これを庇いながらCランクの《イピリア》と戦うのはあまりにも無理がある。ステータスがEランク相応かそれ以下で、E+ランクと高く見積もっても五つは格下である。力不足で済まないほどの差を埋めるのは厳しいを通り越して無理である。
ヤツが寄生状態な訳でもないしエニーが不死を持ってる筈もない。言ってしまえば例えエニーが挑んだところで百回コンテニューしても勝てない相手なのだ。
『グアァァァノッ!!』
《イピリア》の半透明な身体が景色をぐにゃりとブレさせる。意識しないと見た目と範囲すら掴めないような相手にエニーを守りつつ勝つなんてことが出来るのだろうか。
《向かい辻》
考え事をしているこちらに、風を纏って突進してくる《イピリア》を右腕を盾にして受け止める。
ガンッ!という激しい音と衝撃が全身の内側にまで響き渡ってくる。こんなスキルでも防がないといけないのは辛いな……。いくら私が不死者だといっても、勝負がつくまで延々これを受け続けろというのは最早拷問の域だ。労基に訴えれば労災出るよ、多分。
「……《ハイドラ》!!」
私と《イピリア》の間に割り込むように勢いよく水流が放たれる。すぐに《イピリア》の顔を弾くように殴ってバックステップをとり、一息ついて体勢を整える。
『アァノ……』
《ハイドラ》を受けたであろうヤツの身体から水滴が滴り落ちる。姿そのものを認識するのは困難だが、水滴のお陰で位置を割り出せそうだ。
「効くかはわかりませんが……《ティリア》で回復しますね。」
「……ありがと。」
エニーの杖から放たれた緑色の鱗粉が身体に纏わり付き、私の身体に付着すると同時に染み込んで痛みを和らげてくれる。どうやらこの世界のアンデッドは回復魔法で回復するらしい。
『グアァァァァァァアノッ!!』
《イピリア》が私の様子をみて激昂したのか、大きく咆哮を上げる。エニーの方は見もせず一心にこちらを睨み付けている。身体は透き通っているがその目は鋭く燦々と輝いていた。
《氷輪》
〈氷を纏ったリングを出現させ、四方八方に放つ。〉
スキル通知と同時にヤツの周囲に氷柱を生やしたリングが幾つも現れ、文字通り四方八方に飛ばしてきた。
その威力は相当なもので、太い木の幹すら意図も容易くへし折っては突き抜けていくのが見えた。こんなもん直撃したら私はともかくエニーは間違いなく即死だ。避けるんじゃなくて《氷輪》の軌道を読んで防ぐしかない。
「……伏せろっ!!」
「はひいっ!?きゃあっ!!」
ひとまずエニーを真後ろに座らせて私が壁になるようにして安全を確保する。自分も顎を引いて姿勢を低くし、急所となる首を守れるようにして構えた。
そこからすぐに《氷輪》の弾幕に晒されることになったのは言うまでもない。高速で飛んでくる氷柱付きリングを右手で防いでそのまま弾き飛ばすを繰り返して対処する。
防ぐ度にさっきの正面衝突ばりの衝撃が絶え間なく襲ってきて感覚が無くなって来ているが、一々反応している暇はない。とにかくこの氷柱が止むまで耐えきらないと……。
「ううっ……ごめんなさい、死にたくないよぉ……!」
私のすぐ後ろで縮こまって震えるエニー。本当に何しに来たんだこの子は……とツッコミを入れたくなるが私だってこんなところで死にたくはないしエニーの気持ちはわかる。どうもこれも私を受け入れてくれた彼女に逃げる選択肢を与えられなかった自分の責任だ。
それに……友達を失いたくないのは自分だって同じだ。ここに来てからというものの、失ってるものがあまりにも多すぎる。女の子としての威厳、人間としての尊厳、友達の命。なんならここに至るまでに人殺しだってやってるくらいだ。そんな私がこんなことを言って滑稽だと言われても文句は言えないけど……
「絶対に……守るから。」
《氷輪》を受け続けて血が染み出た右腕を構え直し、ポツリとそう呟き自分の中で覚悟を決めた。
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