半透明の蛇蜥蜴
《イグアマリン》の鱗が剥がれ落ち、唐突に何かが這い出すかのようにヤツの身体の中で蠢いているのが見えた。もしかしたらこの場で脱皮する気なのかもしれない。さっきだって《キノボリトカゲ》が脱皮するかたちで進化を遂げているしあり得ない状況じゃない。
……ん?
自分で言って「あれ?」と首をかしげるという滑稽な事態になった。あ、もしかしてまた進化するん?いやちょっとまってそれは聞いてない!待て早まるなBボタンキャンセルを所望する!ここで進化するんじゃない!お願いいい子だから落ち着いて……!!
『ギアァァァァァァアノッ!!』
私の願いを「No」と突っぱねたそれは、水のように透明な鱗をもつしなやかな蛇のような姿に変わっていた。胴体は私の右腕より太いがその長さが異様で、普通に人間三人分くらいある。蛇とは言ったがしっかり前足後ろ足があったため普通に蜥蜴の延長線上みたいなものなのだろう。
《イピリア》ランクC
〈自然豊かな聖域に住まい、土地を護るために常に周囲を監視しているとされる。半透明な身体は景色に紛れ、ごく限られた地域に恵みをもたらすことから神聖視されることもある。
自然を操る力に長けており、相反する六芒星の壱、弐、参、肆を自在に扱うことができる。〉
なっ……なんてチートなモンスターなんだこいつ!様々属性を司るってだけで格上な気しかしないし、その大きさや風格も本当にCランクなのかとツッコミたくなる。
説明文みただけで明らかにあの《エイルドラゴン》よりエグいんだよ?流石に盛ってるか耐久が低いか、そもそも好戦的じゃない可能性だってあるし、うまくいけば見逃してくれる可能性だって……
『グアァァァァァァアッ!!!』
《ハイドラ》
全然そんなことなかったわ。開口一番周囲に《ハイドラ》撃ってくるとか殺す気満々じゃないですかあの蜥蜴。まさか枝一本折っただけでここまで怒るんかとちょっとキレたくなるわ。
水流を纏いながらこちらの様子を伺う《イピリア》。攻め時ではあるのだが、ほぼ透明な硝子のような鱗のせいで上手く全体像を捉えることができず、どう動けばいいか悩んでいるところだ。
……周囲の景色に溶け込める身体を持っているコイツ相手に勝てるビジョンが浮かばない。さっきのようなランクの優位もなく、加えて相手のスキルはほぼ初見である。
進化前の《イグアマリン》の時に使ってきたものは記憶できているが、殆ど能動的に動いてこなかった為それも全てではないだろう。因みに言うと進化前で《ハイドラ》は使ってきていない筈だ。
《土砂の怒鎚》
〈《弩雷》の気質を纏った武器、部位を相手に叩きつける攻撃。雷の衝撃と地面に叩きつけられる衝撃の二重のダメージ与える。〉
次のスキルは近接攻撃かっ!行動からして《アースクエイク》に似ているが、あちらは衝撃波での攻撃だったのに対しこのスキルは本体をぶつけてくるようだ。透明な身体を活かしてやがるな。
相手の姿が捉えられない以上、大きくバックステップして距離を取ることしかできない。下手に隙を晒せないし防御姿勢もとれない。炙り出しもひとつの手ではあるがそもそもアイツが透明なのはそういう体色だからで、根本的な解決になるとは思えない。
『ギアァァァアノッ!!』
ヤツが突っ込んでくる時に生じる僅かな風圧を感じ取って瞬時に回避する。迂闊に攻められない今、逃げか防御に努めるのが一番だろう。
とりあえず完全ではないものの近接攻撃の回避方法は理解した。あとは[デッドレコード]さんのスキル通知を元に戦い方を考えないといけないか……。あまりコレを使うのもいい気分はしないんだが、もしコレがなかったら何回死んだかも数える気が起きないくらいだ。
そう辟易していた私のすぐ横を強烈な風圧と共に《イピリア》が通り過ぎていった。
ッ……!!これ以上考え事するのは危ないな。今はこの状況の打破をするのが先だ。《変色》とかいう使ったこともないスキルに頼ってどうにかなるのか……?それともワンパターンにごり押すか忌み嫌ってた《血のドーピング》を使ってでも逃げるか?
……だめだ今の私にこの状況を覆す手段を講じる頭がない。エニーを連れてきてから連戦続きだったし録に休んでもないから精神的に辛い。
『ギアァァァァァァッ!!』
疲労状態だろうと容赦なく刈り取ろうと突進してくる《イピリア》。ヤツの身体は透き通っているがその目は真っ赤な紅玉のように煌めき、はっきりと私の目に映っている。
《向かい辻》
〈風の刃を纏ってすれ違い様に切り裂く。〉
[デッドレコード]さんの通知と、私の左肩を鋭い刃が切り裂くのが同時だった。かなり脆いところをヤられたのだろうか、ブシュッという嫌な音と共に傷口から血が吹き出した。
(──痛っ!!)
大きく仰け反った身体を起こし、傷口を庇うように右腕を添える。結構な速度があったせいで通知が遅れたか……よくあることだし仕方ない。ここは《血のドーピング》にでも頼って……
「《フリーズコア》!!!」
聞き覚えのある少女の声と共に氷の塊が何処からともなく現れた。あらぬ方向に飛んでいったスキルを確認するまでもなく私はその声の主を睨んだ。ある意味この場で一番聞こえてはならない声であったからだ。
「おまっ……バカ!」
「やっぱり……一人おいてなんて逃げられません!!」
声の主、エニーが私に寄り添って《イピリア》と私の間に割って入った。彼女では到底Cランクの《イピリア》に敵わないだろうし、私も庇いながら戦うのはキツいどころか無理だ。すぐにでも逃がしてやらないと二人揃って御陀仏になってしまう。
ブックマーク50突破、評価点累計100突破、総合評価200pt突破本当にありがとうございます!




