崩すために
物言わぬ死体となったサハギンの身体から退き、残った蜥蜴たちを《邪眼》に憎悪を込めて睨む。四匹のうちランクの低い二匹は身体を震えさせてビビっているようだ。
『ザザ……』
『カナカナカナ……』
《クロザンショウ》と《カナスネーク》の二体が私の目を見て怯み、両者は後退ったり木に登ったりと必死にこちらから視線を逸らしていた。
……そんなに怖いかよ私の顔。相手が人ではないとはいっても、ああやってあからさまに避けられるとちょっと傷つくというか……流石に泣いていいよね私。あ、やべ。ちょっと涙出てきたわ。
《ローリング》
〈身体を丸めて相手に猛突進する物理攻撃。〉
全く人が感傷に浸ってるときに空気読めねえ蜥蜴がいたもんだな。涙で視界が不鮮明になっても視界はちゃんと機能しているのだから不思議なものだ。
スキルからして飛んでるヤツと陰キャ蜥蜴が転がるなんて覚えてるはずなさそうだし、《イグアマリン》か《クロザンショウ》のスキルだろうな。
《間欠泉》
涙を拭って視界を戻すと、次に《イグアマリン》が放っていたスキルの通知がきた。なら転がってくるのはあのサンショウウオか。
しかし肝心の《クロザンショウ》の姿が見えない……とふと上を見上げると、空中で思いっきし回転しているでかい物体の姿があった。色合いといいあのときのパンジャンドラムにそっくりな気がしなくもないが正真正銘、《クロザンショウ》のものである。
勢いよく落下してくる《クロザンショウ》の着地点から、《間欠泉》による水が吹き出してきた。その水流に逆らうことなくヤツの身体が空に投げ出される。なんと《間欠泉》を利用して転がりながら空を飛んでいたのだ。
『ザザアァァァァァァッ!!』
幾つかの《間欠泉》によって勢いにのった黒蜥蜴がこちらに落下してくる。範囲は狭く横に避ければ難なくかわせるが、《クロザンショウ》の身体が柔らかいのかまるでスーパーボールのようにバウンドしてはこちらを狙って何度も潰そうと襲いかかってくる。
さっきまで壁にしかなれないと思っていたが……ちょっと見くびってたかな。あまり長引いてもこっちが不利になるし、早いところ王手をかけておこう。
《クロザンショウ》の身体が大きく飛び上がったところで微動だにしていない二匹に向かって駆ける。狙いは当然回復役の《カナスネーク》だ。邪魔な壁が自分から退いてくれたお陰で逆に攻撃のチャンスが生まれたんだ、ここを逃すつもりはないよ。
《フリーズファング》
〈氷を纏った牙で噛みつき、噛みついた部位を凍らせる。〉
《カナスネーク》の近くにいる最後の砦、《イグアマリン》が接近し大きく口を開いた。こいつ単体ならランク差もあって苦戦はしないが、倒すのは今じゃない。
ヤツ目の前で前転し、そのまま手をバネにして大きく飛び上がって牙を避け、背中を飛び越えて着地する。そのまま顔を上げると目的の《カナスネーク》と目があった。
『カナ……』
《カナスネーク》は木の枝の上で後ずさるようにして、私から距離を取ろうと必死だった。それで距離をとれるのは同格かDランク台だけだよ?肝心の位置が変わってないんだから無理に決まってるじゃないか……。
しかしよくよく観察すると私から目線を逸らせず、身体が恐怖からか震えているように見える。どうやら《邪眼》に囚われて、まるで蛙みたいになっていた。
……私は蛇かよ、と溜め息をついて《カナスネーク》の尻尾を掴む。力を入れて掴んだ結果ブチッと尻尾が取れてしまったようで、そのまま地面に落ちて這うように全速力で走られ逃げられてしまった。
『カナァァァァァァァァァァァッ!!』
そのまま仲間を放置して本能のままに何処かへ行ってしまう《カナスネーク》に、私だけでなく仲間であるはずの蜥蜴たちも呆然としているようだった。
あー……うん、まあ、いっか。
気を取り直して周囲に注意を向けることにした。残っているのは《イグアマリン》、《リザードフライ》、《クロザンショウ》とDランクが三段階並んだ組み合わせだ。防御と攻撃と魔法のバランスがしっかりとれている手強い相手なのは間違いないし、即死と回復がいない今でも気が抜けない相手だ。
グッと全身に力を入れて次の動きに構える。《血のドーピング》なんてクソスキルはもう使わねえ。正真正銘こっちが格上だってことを見せつけてこそステータスが伸ばせるってもんだ。




