即死の恐怖
《吐血攻撃》で汚れた口を左手で拭い、残った蜥蜴らがどうくるのかを考える。
《モリクササハギン》と《カナスネーク》以外の三匹が遠距離攻撃を持っているのはわかっている。Dランク相応の初期魔法みたいなのが殆どだけど、下手に受けて当たりどころが悪ければさっき以上にダメージを喰らうことになるだろう。
現状怖いのはランクが高い《イグアマリン》の出方によっては、最悪数の暴力でフルボッコにされかねないってことだ。
それでも一匹は既に戦闘不能になっているから多少だけど精神的な余裕はある。気は抜かずに各個撃破していくのが一番丸いのかな。
《レッグダンプ》
〈相手の首の骨目掛けて思い切り叩きつけを行う。即死。〉
足元を気にせず《首狩り》と《レッグダンプ》を交互に打ってくるサハギン。ふとした瞬間の事故が怖いからやめてほしいんですけど、といって止めてくれるような奴らじゃないのは理解している。
《首狩り》自体はいつしかの猿が使ってたものであり、脅威であることは間違いないがそこまで連発するようなスキルではないと思っていたが……
……まさか、と唾を呑み込みひとつの結論が頭をよぎった。もしかしたら《即死攻撃》に定評がある面倒なタイプのモンスターなのかもしれない。今の私は想像以上に絶望的な盤面でチェスでもしてる感じなのではないだろうか。
チェスのルールを知らないなりに例えるとすれば、無力なクイーンがありったけのナイトやらポーンに囲まれて、本筋のキングからの不意打ちで死ねと言われてる感じだ。多分そんなローテーションみたいなことはチェスで出来ないだろうから単なる例えだけど。
緑色の体色をした蜥蜴頭の人間がここまで恐ろしいヤツだったなんてな。どうやらこの世界は私が思っていた数倍は広いらしい。
『ハギィィィィィィッ!』
《モリクササハギン》が大きく咆哮したところで私の意識がヤツに向いた。考え事もここまでにして、そろそろ本格的に潰していかないとね。中途半端に攻めいったところで隙を晒すだけだし、《カナスネーク》がいる限りターゲットの体力を残して次にいくという選択はできない。
(上等じゃん……かかってきなよDラン風情が!)
『ザギイイイイイィッ!!』
右腕を振るって挑発したのを皮切りに、《モリクササハギン》が奇声を上げて疾走する。図体はデカイし攻撃は当てやすいはず……!
《ヘッドバット》
〈全身を使って勢いをつけ、思い切り頭突きする。〉
《モリクササハギン》が姿勢をぐっと低くして体当たりこと頭突き、即ち《ヘッドバット》を繰り出してきた。当たり前だがこういった基本的な物理攻撃スキルは持ってるみたいだな。生憎だが私も《ヘッドバット》なら持っている。格上の方が強いに決まってるんだよなあっ!?
───私の頭とヤツの頭がぶつかり嫌な音と衝撃が走った。そもそもガタイで負けてる相手に殴りあいを挑むんじゃなかったと後悔したことは言うまでもない。同じスキルで負けたくなかったんだよ……ッ頭痛ぇな。
『ザギイッ!!』
『ザザアァァ!!』
僅かに見せてしまった隙に割り込んでくる《リザードフライ》。ヤツの口からありったけの《ソニックショット》の弾幕が放たれ、地面に向かって容赦なく降り注いでいた。
勿論私の身体にも被弾し、防御が間に合わなかった左腕や脇腹を容赦なく貫いてくる。殴りあいよりかは幾らかマシだがそれでも普通に痛い。
《ギロチンクロウ》
〈標的を断頭台の罪人に見立て、ギロチンの如く爪を振り下ろす攻撃。〉
この物騒な名前をしたスキルの発動者など確認するまでもない。通知が鳴った瞬間大きく宙返りして回避する。私のいた場所の地面が、勢いよく振り下ろされた腕の衝撃でへこむ。
『ザザシャアァァァ!』
着地狩りを狙ってきた《リザードフライ》の軌道から若干身体を逸らすため、空中にいながら足元に向かって《呪縛の風》を放った。
《呪縛の風》
〈突風を巻き起こし、周囲の者を強風で怯ませる。呪いは含まれていない。かつては風に乗って癪気がやってきたと伝えられていたため、風の災害は古くからとても恐れられていた。〉
本来は妨害特化なスキルも使いようによっては回避に使うことだって出来るということだ。風を纏って翔び、《リザードフライ》の上を取ってすぐさまスキルを解除、何事もなく着地することができた。人を怯ませる程の突風なら若干浮かせることが出来るだろうとやってみたが、どうやら上手くいったようだ。
視線を戻すと《モリクササハギン》が突っ込んで来るのが見えた。あと数秒でこちらに到達し、ブンブン振り回している腕で力ずくに押さえ込むつもりなのだろう。安堵している時間はないな。
『ザザァァッ!』
そして鳴き声と共にこちらに向かって急降下してくる《リザードフライ》。恐らくは挟み撃ちにして攻撃しようという魂胆だろうが……
『ザギイイィッ!?』
『シャアアッ!!』
私がしゃがんで回避すると、《リザードフライ》の頭と《モリクササハギン》の顔面が勢いよく衝突した。まあ避けられたらそうなるわ。《リザードフライ》がすぐさま高度を上げて立て直しに入るのに対して《モリクササハギン》は顔の痛みに怯んだままだ。
そういやこんな展開、何処かの怪獣映画で昔見たような気がするわ。あれは更に味方の巻き添え喰らってて不憫だったという記憶が残っている。
ともあれ《モリクササハギン》がここに来て隙を見せたのだ。早いとこやっとかないと即死に怯えて戦わないとならなくなるしね。
『ギョ!?』
《モリクササハギン》の筋肉質な腹を右腕でぶん殴って大きく吹き飛ばし、距離の空いた所を《ダークアロー》で更に追撃する。ふらついたサハギンを見逃すことなくすぐに駆け、全身を使った技とも言えない強引な物理攻撃で殴る、蹴る、引っ掻く、肘や膝をぶつけるといった非人道的な行為を手当たり次第にやりまくった。
『グギ……』
突如サハギンの身体を緑色に光る粒が包み込んだ。どうやら回復が入ったようだが関係ない……回復量を上回る攻めですぐにゼロまで持っていってやるよ!!
爆発で吹き飛べ!!《ハイダーク》!
仰向けに倒れる《モリクササハギン》に跨がると、ヤツの腹に思い切り爆発する黒い球体を叩き込んだ。バンという爆発音に掻き消されてサハギンの鳴き声は響かなかったが、すぐにヤツが息絶えたのがわかった。爆発によって左肩と首から上が酷く抉られ、吹き飛んでいたのだ。




