エニー・コミュニケーション
そのまま暫く進化先について考えたり、新しいスキルの説明を聞いて戦闘のシミュレーションをしていたが、暫くしてエニーが私に声をかけてきた。どうやら髪を整え終わったらしい。殆ど変わっていないとは思うが本人が満足そうにしてるので何も言うまい。
「あ……ありがと。」
かなり吃りつつもエニーにお礼を言った。
ここに来てから全くといっていいほど声帯を使わなかった(使えなかった)ため、挙動不審と合わせて「え、なにこいつ」と思ったことだろう。それでいて非常に素っ気ない態度をしてしまったと後悔している。
もしかしたら無愛想な態度に怒っているんじゃないかと、半分怯えながらゆっくりとエニーの方を向く。彼女はというとただ無垢な笑みを浮かべているだけでなにも言わない。こちらの表情でも伺っているのだろうか?だとしてもなぜ笑ってるんだ……?
「アンデッドちゃん……じゃアレですよね。お名前はありますか?」
「あっ……えっ……?」
エニーが突然そんなことを聞いてきた。ここは本名でちゃんと答えるべきか……いや、この世界で蓮と名乗るのは流石にいかがなものか。確かにアンデッドちゃん呼ばわりされるよりはマシに違いないんだけど、絶対住む語圏が違うと思われるしこんな見た目だから怪しまれるだろうなあ。
(どうせなら前世のユーザー名からそれっぽいの持ってきて名乗る方が自然か?いやそういえば主人公の名前とか大体レンにしてたわ……)
これまでやってきたゲームのアバターの名前が全部本名だったことを思い出した。オンラインゲームでも両性に使えるわりとありふれた名前だと思うし、本名のみならず仮名として使用している人も多いため「その名前は既に使用されています」ランキング上位に乗ること請け合いである。
「名前……ないんですか?もしよければ私が着けていいですか?」
「あ、ある!!ありますっ!!れ……レンです!」
私の言葉に「なんだ~名前あるじゃん」と少々がっかりした表情をするエニー。そういう表情されるとこっちが申し訳なるからやめてほしい。いやまあこっちが悪いんだけどさ……その、なんだ。うん。
「レンさん……やはり変わったお名前ですね。」
エニーは少々訝しげな表情をして考えていた。「こちらでは割とありふれた名前だと思うよ」と開きそうになる口を閉じるので私は精一杯だった。私の名前がこの世界では珍しいっていうごくごく自然であたりまえのことなんだ。
まあ簡単にいえば漢字語圏の国でマイクとかボブとか名乗ってるあれだ。間違いなく外国人扱いされるだろうし外国語の教科書とかに載りそうなやつだ。
……全国のマイクさんとボブさんに私から謝罪します。すみませんでした。
「……私はエニー・ルミリアと言います。一応勇者の付き人として魔法使いをしてました。」
私の自己紹介の後、エニーも自分の名を明かした。一応彼女のことは知っているが、彼女からしたら初対面みたいなものなのだからこのやり取りはなんも不自然じゃない。
寧ろここでエスパーを発揮して名前を言い当てる方が変な話なので黙って聞いておくことにした。
一応この世界は勇者がいるという認識で良さそうだ。前に[デッドレコード]から聞いた解説は相当野蛮な人種だと偏見百パーセントなことしか書いてなかった気がしたが、それもまあ勇者の一面として軽く流しておくことにしよう。こんな人畜無害そうな彼女を空き巣呼ばわりはあまりにも不憫すぎる。
「……。」
そして「してました」という過去形になってるのは、その件の勇者が既に死んでいることを指していることは自分が一番わかっていた。だって元凶だもん。犯人だもん。正当防衛とはいえこう掘り返されていい気分はしないし、はいそうですねって切り替えられるメンタルも私にはないよ。
それに絶対怒ってるよね。確実にあの時のアンデッドさん呼ばわりしてるから正体はバレてるわけでして、ここで首斬り御免されても仕方ない状況ですよ。
「……あの、えっと、す……ごめんなさいっ!」
と……とりあえず謝らないとヤバいかな。頭下げて土下座か?いや仲間殺しておいて土下座は足りないわな。とりあえず誠意だ誠意。謝って済むなら警察はいらないとか言ってないで謝るんだよ私!!
「ここまで……ここまでやり返すつもりなんて!なんてなかったの……なかったんです!」
あ、やべ。本当に申し訳なくなってちょっと涙出てきたわ。正直恨まれても文句言えない所業だったし《ハイドラ》の十発二十発くらいは喰らってやれる自信がある。決して驕りとかじゃないよ?ほんとに喰らったら玉砕だからね。
「大丈夫だよ……レンさんはなにも悪くないからですから。そうするしかなかったって理解してますからね。大丈夫大丈夫。ちゃんと優しい人だってわかってますよ。」
ホントにいい子!エニー様マジ神様過ぎて泣きそう。一発や二発殴るなりこきつかうなりご自由にどうぞ!ホントにいい子過ぎやでぇ……。
「私……グラッドさんやルーパさんみたいに強くないし……人の気持ちを汲み取ってあげられないので勝手なことになるんですが……」
エニーが私に向かい合って真剣な表情をしている。流石にそんな人の前で泣いていられないとぐしゃぐしゃな顔で彼女と向かい合った。
「私の特訓に付き合っては貰えないでしょうか!」
エニーは若干おどおどしながら、まるで告白みたいに片手を伸ばしてそう言った。
全国のボブさんとマイクに謝罪致します。それと同時に投稿が若干遅れてることも謝罪します。




