終息
……終わったのか。
この戦いで失ったものが大きいせいか、勝ったことの喜びや安堵よりも喪失感が大きかった。ぽっかりと穴が開いたような感覚に身体が締め付けられるようだ。
《エイルドラゴン》の死骸はまだ時間が経っていないはずなのだが、まるで食い荒らされたかのように剥がれた鱗から骨が覗き、目玉などの柔らかい部位は酷く腐食していた。
少し離れたところで倒れているスバルの身体は血濡れであることを除けばまだ綺麗な方だと思える。
私はまだ軋む身体を引き摺ってスバルの元にたどり着くと、その小さな身体を抱き抱えた。先程まで元気だったからか、まだ僅かながら体温が残っていて温かい。
スバルの温もりを感じとり、更にぎゅっと抱き締める。
(ごめんね……ごめんねスバル……。)
嗚咽混じりに謝ることしかできない自分の無力さに涙が止まらなかった。勝手な正義感と勇敢を履き違えて無茶をした結果がこれだ。あれもこれもと欲張った故に本当に守りたかったものが守れていないじゃないか。
気づけば私は涙に滲む視界を拭うことすらせず、ボロボロの身体で宛もなく歩き出していた。不思議と失ったことに対する怒りをぶつける気力も起きなかった。もう疲れているのだろうな……きっとそうだ。
「……か!!」
暫く歩いたところだろうか。目の前にぼんやりと人影が映り、私を呼び止めるようになにかを言っているようだった。
「大丈夫ですか!?聞こえますか!?」
不意にその声は鮮明に、かつ何処か聞き覚えのあるものに変わった。正義感に満ち、一切の穢れのない女の子の声……。私はその声を聞いて溜めてた重責が取り払われたかのようにフッと力が抜け、そのまま意識を失った。
・・・・
カタカタ……となにやら機械らしきものが動く音が聞こえ、深かった私の眠りは覚めることとなった。もうここに来てどれ程の時間が経っているのかなど、今となっては理解する術もないだろう。
辺りを見渡すとどこぞの民家か宿屋のようで、無機質な石の壁に覆われていた。自分をここまで運んでくれたということで間違いはなさそうだが……
「痛っ……!!」
《エイルドラゴン》に散々ぼこぼこにされてできた傷が焼けるように痛む。傷口のある腹部をみると自分の服が上半身だけ脱がされており、身体の至るところが包帯で巻かれていることに気づいた。下半身には異様に前世の名残を感じる黒タイツを履いている。恐らくこれも《アインベル》の標準装備か何かだろう。
後はまあ……右腕だな。肩から爪まで漆黒に染まっていて、肥大化諸々含めて違和感が凄い。動かすぶんには特に何ともないが、視界に映ると本当に自分の腕なのか疑いたくなる程だ。
感触を確かめると、水晶かガラスのような手触りで非常に硬く自分の手というよりは武器か手袋をしている感覚に近い気がする。
これが……《アインベル》か。ステータスとスキルをもう一度見せてくれと[デッドレコード]に頼む。さっきは本当にチラッとしか見えてなかったし、《エイルドラゴン》を倒して得た値も確認したい。
────────
名称.《レン》
種族.《アインベル》
ランクC
状態.《通常》
Hexagram.《6》
ATK.77
DEF.88
BMP.65
SPD.64
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──スキル──
物理スキル
《噛みつき》
《ヘッドバット》
《カースクロウ》
──────
魔法スキル
《ポイズンマーカー》
《ハイダーク》
《血のドーピング》
《吐血攻撃》
《デモニア》
《呪縛の風》
《デスペル》
《ダークスピア》
──────
固有スキル
《忍び足》
《気配感知》
《変色》
《暗視》
《邪眼》
《解呪》
──────
言語スキル
《セラ言語理解》
《セラ言語》
《呪術言語》
──────
称号
《吐瀉の姫》
《不動なる不死者》
《涅闇を歩くもの》
《呪いの使い手》
──────
絶対にさっきなかったスキルもあるだろ……とツッコミつつも、今見るとレパートリーが増えたなと感じる。これまでは《血のドーピング》と《吐血攻撃》に頼りきりだったという脳筋なバトルスタイルだったがこれを期にそれも変えられるだろう。
正真正銘の《吐瀉の姫》卒業である。もし私のステータスを見る奴が現れたら、まず第一声にゲロ女と呼ばれる自信しかない。もしそうなったら泣いて飛び降りるわ。
そうだな……次にry
「あっ……!お目覚めですね!」
ドアを開き現れたのは、《凍水》の素質を感じさせる青のラインが入った白のローブを身に纏う水色髪の少女、エニーだった。両手でスバルの遺体を大事そうに抱え、こちらに優しげな微笑みを見せる。
私は言うまでもなく彼女に助けられたのだろうが、私こそ彼女の仲間を殺した犯人だと気づくことはなかったのだろうか。恐らく《ゲノムシーカー》とは姿も全く違うだろうし別人ということで済まされたのかもしれない。
「……この子を見て確信してました。貴女はあの時のアンデッドなのですよね?」
少女の突然の問いかけに私は背筋を凍らせてしまった。どんな理由があったとしても、私がエニーの仲間である二人を殺したことは事実でしかなかった。
「う……あ……あの……」
「大丈夫、わかってますから。貴女は悪い人じゃないって……ちゃんと全部わかってます。今はこの子の弔いをしましょう?」
「うっ……」
口ごもる私に優しく語りかけるエニー。私はその懐に預かる形で崩れ落ちるように涙を流していた。
エニーは私の行いを非難せず、そればかりかうずくまっている私の頭を撫でて宥めてくれたのだ。
「貴女も苦しい思いを沢山したんですよね……。一人で抱え込まないでください。貴女の行いは私が……神様が許してくれますから。」
エニーの慈愛に満ちた温もりを感じながら、情けなくも嗚咽混じりに泣くことしか出来なかった。
昨日は投稿できなくてすみませぬ。
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