叫びの意味は
『ガラァァァァァァァァァァァァァ!!!』
私の振りかぶりを挑発と取った《エイルドラゴン》が吠える。さっきまではあんなに恐ろしかったヤツの姿が、今となってはかなり小さく見えた。たった一ランク程度の格上はこれまでも狩ってきたという経験が見せる何かなのだろうか。
勿論今するべきことは攻めることじゃない。自分の姿を確認することだ。
《アインベル》に進化した私の身体はアンデッド時代とは大きく変わってとても人間らしい姿をしているのがわかった。進化して伸びたであろう艶やかな白髪が視界に覗き、少し分厚めな鮮血の色をしたローブを身に纏っていた。
首には私の身長の半分程の長さの赤いマフラーが巻かれていて、普通に取り外し可能になっている。材質はローブのものと似て非なる手触りだ。
だが何よりも大きく変わった特徴というのは、やはり肥大化した右腕だろう。私の左腕の倍以上に太くなった右腕は漆黒に染まっており、指の一本一本が爪のように鋭くなっている。
腕が太くなっているとはいっても長袖のローブを突き破るような珍事には至っていないのだから進化って凄いなと思う。
だけどこの手じゃ握手することも箸を使うことも書くこともできないよなぁ。明らか傷つけますって言ってる感じだもん。もし握手なんてしたら皮膚突き破っちゃうよ……。
攻撃や防御に使うのが右腕で、日常生活には左手を使うんだな。なるほどわかった。
ちなみに左手は生気のない色白肌だったけど、ちゃんと普通の手でしたね。両腕が肥大化してなくて安心したよ。
『グアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
《デスペル》
〈周囲にありったけの憎悪を纏ったオーラをぶつける魔法。敵対するものすべてにあらゆる状態異常を無差別に振り撒くことで、自身に対する戦意を喪失させる。〉
大きく吠えた《エイルドラゴン》の周囲に暗雲が立ち込めた……あぁ、あのスキルには覚えがあるな。説明文とスキルの動作からして、どうやらさっきの悪寒は《デスペル》によって撒かれたようだ。あらゆる状態異常を無差別に振り撒くってもはや災厄じゃねえか恐ろしい。
黒い雲が《エイルドラゴン》を中心に周囲を吹き飛ばそうと風を纏った。また強風がこちらに襲いかかってきたが、今度は吹き飛ばされまいと姿勢を低くして地を踏み、なんとか耐える。今でも踏ん張らないと吹き飛ばされそうになるくらいには強い突風で、その場から動くのは進化した今でも中々難しい。
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名称.《レン》
種族.《アインベル》
ランクC
状態.《冷静》
Hexagram.《6》
ATK.75
DEF.85
BMP.60
SPD.62
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私は《デスペル》の強風が止んだところで自分のステータスを確認する。
状態異常は貰ってないな、よし。攻撃力と魔法攻撃力が進化前よりかなり上がってる気がするし、そうとわかればガンガン攻めさせていただこう。
自分の右腕に力を溜め、バチバチと紫電を纏う黒い球を生成する。私が唯一持っている魔法、《ダーク》あらため《ハイダーク》だ。今までは物理で殴ったほうが早かったからあまり使わなかったけど……進化した今ならと、ありったけの魔力をぶつけるつもりでやってやる。
『ガラァァァァァァァァァ!?』
黒い球が《エイルドラゴン》の顔に当たって勢いよく爆ぜた。その衝撃にヤツの身体が大きく仰け反り、驚いたような声が響く。そのまま右腕を振るい、続けざまに《ダークスピア》を放つ。
振るった右手から影のように伸びた黒い槍が放たれ、《エイルドラゴン》の身体を突き抜けるかのごとく鱗を抉った。
『グアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
だがこれだけで沈むほど《エイルドラゴン》だって弱くないことはわかっている。それでも進化前では感じられなかった手応えが確実に得られているようだった。
《スピニングドリル》
〈大きく旋回し対象の身体を貫く物理攻撃。〉
だがそれでも相手の攻撃を食らえば重傷は避けられないことは変わらない。そう気づいたのは《エイルドラゴン》の身体が跳ね、そのまま全身をドリルのように回転させて突っ込む《スピニングドリル》が腹部に命中し、私の身体が大きく吹き飛ばされた時だった。
「っ……!!」
背中から地面に身体を強打し、激痛が襲ってくる。痛いのは慣れててもやっぱり痛いな……。全身が痺れて感覚が中々戻らないでいた。おまけに腹部からは血が流れ熱を帯びている。
『ガラ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ″ァ“!!!』
身体を起こそうとしている私に止めを刺そうと駆け出す《エイルドラゴン》。近づくにつれてヤツの身体がボロボロになっているのがわかった。
両目は血に濡れて潰れ、私からありったけに殴られた傷や《ダークスピア》によって剥がれた鱗が目立つ。更には毒をもらってからかなりの時間動き回っているのか、その動きが少しずつブレていってるようにも見える。
《崩壊》
〈身の丈に合わぬ狂気は自我を滅ぼす。自分が既に崩壊していることにも気付かず暴れ続ける状態異常。〉
身の丈に合わない狂気……やはり《エイルドラゴン》は元々《デスペル》を扱えるだけの器でもなかったということか。子供を奪われたという意味ではコイツも被害者(竜)だったわけで、今となっては憎しみよりも憐れみの感情が強くなっていた。
「……こいよ。今すぐ弔ってあげるから。」
私は激痛を訴える身体を無理矢理起こしてそう言った。
『ガラァァァァァァァァァァァァァ!!!』
私の声に触発されて《エイルドラゴン》が咆哮し、一直線に駆ける。その勢いは未だ衰えずといった感じだったが《崩壊》の状態異常がまるで嘘のように、瞳孔はハッキリと私を見据えていたのだ。
──なるほど。もう終わらせてほしいんだな。
《エイルドラゴン》がわざとらしく大きく口を開いて突進する。スキル通知はない。意図を理解し確信したとき、自ずと右腕を振るって《ダークスピア》を発動した。
『ガラ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ″ァ“!!!』
大きく裂け広がった口を槍が勢いよく貫いた。ちょうど《エイルドラゴン》が飛びかかってきたタイミングで命中したため、頭から尻尾まで全体重を乗せて突き抜けていったのだ。
大きく吹き飛んだ《エイルドラゴン》の身体が地面に落ちた。
暫くその身体はピクピクと痙攣していたが、やがて意識を失うようにその動きは止まって事切れたようだった。




