最期の代償は
毒に悶える《エイルドラゴン》に向かってダッシュし、すれ違い様に顔や横腹を殴っては離れとヒットアンドウェイの攻防を仕掛けた。
先程は殴る度にカウンターのように噛みつきが返ってきたが、明らかに意識が《ポイズンレイン》に向いているようだ。殴った直後こそこちらを睨み付けるも、毒のダメージが勝ったのかすぐに雨から抜けようと走りだしている。
……まあこちらを気に掛けないのはありがたいと言えばありがたいんだけど、全く攻撃が効いていない気がしてちょっと残念でもあるかな。
ランク差が大きいから仕方ないとはいえ、もうちょっと効いてほしい。攻撃力が低いんかな……。
「ホロッ……」
頭上に降っていた雨が止んだと同時にスバルがこちらに飛んでくる。空を飛んではいるが、その動きは少々ふらついているように見えた。まさかどこかでダメージ貰ったか?
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名称.《スバル》
種族.《スネークバイトオウル》
Lv18
ランクD
状態.《通常》
HP74/74
MP0/63
Hexagram.《3》
ATK.45
DEF.39
BMP.52
SPD.70
───────
そう思ってスバルのステータスを確認したが、体力自体は満タンの満タン、万全だった。見た感じはMPがすっからかんで精神的に持ってかれてるといったところか。《エイルドラゴン》を毒状態に出来ただけで仕事は百点花マルだぜスバル。
──お疲れ様、後は私がやる。
『ガラァァァァァァァァァァァァァ!!!』
毒に侵された身体でありながら、こちらの殺意を汲み取って疾走する《エイルドラゴン》。流石にあの馬のように簡単には沈んではくれないか……。カウンター覚悟で攻め続け、かつ避け続けるしか今なお勝ち目がないんだよな。
『ガァァァァァッ!!!』
《ダークビット》
〈《涅闇》の気質を纏った刃を一直線に飛ばして攻撃する。〉
通知と共にヤツが細長い尻尾を振るい、その勢いで紫色に輝く刃を飛ばしてきた。《ノヴァブレス》のような大技を連打するだけじゃなく、毒状態になったことで理性が戻りつつあるのか小手先で通してきやがったか。
《ダークビット》の攻撃範囲は直線でこれ単体をかわすのは苦じゃない。だが《カースクロウ》といい連発できるスキルであり、メインウェポンというよりは牽制からなにまでこなせる優秀なスキルというに近いかもしれない。それこそ私の《吐血攻撃》が威力ある凶器になった感じだ。
《恐怖の牙》
〈目の前の相手に勢いよく噛みつく攻撃。噛まれた相手は癪気と恐怖に苛まれる。〉
『ガラァァァァァァァァァァァ!!!』
《エイルドラゴン》が咆哮をあげて勢いよく前にジャンプすると同時に口を大きく開き、私に食らいつこうとしてきた。
いくら可愛らしい見た目とは言えドラゴンであることに違いはなく、蛇にも似た恐ろしい顔つきで生え揃った鋭い牙を見せつけられ、身体がすくみかけたくらいだ。こんなん怖いに決まってる!怖い!
大きく飛んでかわした私の真下を《エイルドラゴン》の身体が通った。確か私の後ろにはナギアとカトレアがいたと思うが……
「痛い!痛えよ早く助けにこいこの無能があああああ!!」
「……うっ。」
確認すると二人はまだあの状態異常に苦しめられているようで、その場から動けていない。ナギアはともかく昏睡しているカトレアは避難させないと不味いか。《エイルドラゴン》の攻撃の流れ弾で即死しかねない。
『ギャオオオオオオオオ!!!』
だがヤツの目線は私に向いていて、ナギアの大声は全く気にも留めてないといった感じだった。卵泥棒の元凶よりも、この戦いを優先させてきたってことだな。
二人に危害が及ばぬよう、逆方向に駆け出して誘導する。《エイルドラゴン》もそれに釣られて追ってきてくれた。ここまでは良かったのだが、卵という足枷を失ったヤツはトンでもなく速く、《血のドーピング》フルパワーで走っても追い付かれそうになる。
……本当に毒貰ってるかも今になってちょっと不安になってきた。
『ガァァァァァッ!』
(───ぐっ!!)
不安からきた速度の緩みで距離を詰められ、思い切り《エイルドラゴン》の後脚に蹴り飛ばされた。
人間大の大きさしかない私の身体は軽々と吹き飛ばされて宙を舞う。
《シュトルムバイト》
〈あらゆるものを腐食させる酸を含んだ牙で噛みつく。〉
空に投げ出されている状態で、[デッドレコード]からスキルの警告が響く。スキルの内容からして《恐怖の牙》の上位技らしい。避けられないと《シュトルムバイト》を喰らう覚悟でいた私は目を閉じた。
・・・だが宙を舞っていて避けられない筈だった私の身体は、謎の衝撃に軌道を変えられたことで事なきを得たのだ。目を瞑っていたせいで受け身がとれなかった私は地面に叩きつけられる形で着地した。
カトレアあたりが目を覚まして手伝ってくれたのか?と考えつつ目を開ける。だが私は目に飛び込んできた光景に目を疑った。
『ガラァァァァァァァァァァァァァ!!!』
「……。」
《エイルドラゴン》が口に咥えていたスバルの身体を地面に吐き捨てる瞬間を見てしまったのだ。
スバルの身体は血に濡れていて、奴の牙に酷く抉られたような痕が残っている。そこから血が溢れ出ていた。
サーッと血の気が引く感覚に襲われつつも、一途の希望をかけてステータスを確認した。
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名称.《スバル》
種族.《スネークバイトオウル》
Lv18
ランクD
状態.《死亡》
HP0/74
MP0/63
Hexagram.《3》
ATK.45
DEF.39
BMP.52
SPD.70
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死んでいる。どうやら私の望みは打ち砕かれたようだ。
状態は《死亡》でHPも0。C+ランクの攻撃から私を庇って、自分から噛まれにいったのだ。
スバルはなにかと聞き覚えもいいし、判断する力に長けているのはわかっていた。《エイルドラゴン》を倒せる可能性を私に懸け、あくまでも《契約》を守ってくれたのだろう。
だからって……そこまでしなくていいじゃないか。
血の気が引くように凍りついていた身体がやがて震えだし、自分の拳に、頭に、脚に、あらゆる所に熱がこもって熱くなっていく。視界が滲んでなにも考えられなくなる。
[《繝?せ繝壹Ν》を習得しました。]
「グアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
(殺す……殺すっ!!!)
『ガラァァァァァァァァァァァァァ!!!』
私は滲む視界とノイズに構わず、ありったけの力で《エイルドラゴン》を殴り、蹴り、頭突きを繰り返す。だが壁のように厚く堅いヤツの鱗に弾かれ、かえって自分の命が削られつつあることに気づいてはいた。
それでも止めるつもりなんて更々なかった。思えば私が《エイルドラゴン》を相手取ると決めた瞬間からこうすれば、無駄な隙を晒すこともスバルを失うこともなかったんじゃないか。
それを撃退だなんだとほざく一パーセントの僅かな気の緩みがこの有り様じゃないか。本当に安定を求める自分が嫌になる。
「ガアァァァァァァァァァァァァ!!」
何度もヤツの尻尾やスキルに弾き飛ばされる。[デッドレコード]にスキル予測してもらう時間が惜しいくらい、何度も立ち上がってはありったけの攻撃を叩き込む。
『ガラァァァァァァァァァァァァァ!!!』
何度も立ち上がってくる私のことを忌々しく思って何度も吹き飛ばしてくる《エイルドラゴン》。今すぐにでもぶち飛ばしてやるからよ……覚悟し……ん?
ふと立ち上がることを忘れたような感覚に襲われた。正確には動作は覚えているが、立ち上がるための筋肉と関節がないような感覚に近い。その違和感に足元を見ると、自分の膝から下が切られたような状態になっていて、そこから勢いよく血が流れていた。




