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歴然の差


『ガラァァァァァァァァァァァァァ!!!』


《エイルドラゴン》の咆哮がこれまで以上に大きく響く。どうやら私の構えを敵対と汲み取ったようで、これまで乱雑に周囲を凪ぎ払っていた素振りから一転、その目はじっと私を睨んでいる。



うっ……正直な話、めちゃくちゃ怖い。これまで何度も死を覚悟していながら、自身がアンデッドであるということで生き延びれるという謎の確信を持ってはいたのだが、こいつにはそれを感じさせないだけの凄まじい邪悪さと威圧感がある。本気でやらなきゃまず勝てない。



……いつも本気だけど、ここが正念場と思ってやるしかない。



「グガァッ!」


私は邪念を振り払うように思い切り駆け出した。《エイルドラゴン》の姿勢もそれに合わせて低くなり、タイミングを伺いながら構えている。あくまでこちらの動きを捉えるつもりのようだが、そのつもりなら私だってやりようがある。



『ガラァァ!?』



私の口から赤い塊が放たれ、それが《エイルドラゴン》の目に見事命中した。ヤツは視野を大きく削られたのか、大きく仰け反って怯んだ。


これは私の十八番となったスキル、《吐瀉攻撃》あらため《吐血攻撃》だ。普通に魔法を撃つよりも攻撃の出が速く、《吐瀉攻撃》の利便性を残しつつかなり撃ちやすくなっていた。性能的にもそうだし、ビジュアルもグッドだ。



《ノヴァブレス》


視界が血で滲んでもなお攻められるのは《エイルドラゴン》が聴力と嗅覚に優れている由縁か。


多少怯ませることはできたが、嬉しさよりも早速切り札を使ってしまったような気分だ。どうにかこちらが有利に持っていけるようにしたいが……



『ガァァァァァァァァ!!!』



《ノヴァブレス》が私目掛けて放たれる。最初は呑まれるしかなかったこの風圧も、踏ん張れば大丈夫だ。ジャンプするのではなく、かなり余裕を持って左右にダッシュ回避すれば当たることもない。


理不尽な凪ぎ払いでもなければこの方法で問題ない。大きくスタミナを削られることもないし、着地狩りはされない。おまけに上手くかわせれば距離を詰めることもできる。



《カースクロウ》


ヤツが次に放ってきたのは、呪いのこもった爪から放たれる衝撃波だった。それもさっきのような甘ったるい牽制なんかではなく、殺す気満々の爪の弾幕だ。



その爪のひとつひとつが風を纏って襲いかかってくるのだから正気の沙汰ではない。



不規則に襲い来る爪の衝撃波の当たり判定自体は非常に狭いが、その付随効果に衝撃波が襲ってくるのがキツい。ギリギリで回避しても衝撃波の嵐に吹き付けられ、身体が打ちのめされそうになるのだ。STG(シューティングゲーム)で言うなれば、自機の当たり判定には当たってないけど身体に当たってるというあれだ。現実なら即アウトになるであろうアレである。



だがいつまでも怯んでいては勝てっこない。ドーピングで得た腕力と脚力を活かしてラッシュを決めるしかない。



「クルルッ!」


『ギャオオオオオオオオ!!!』


ヤツはスバルの《ソニックショット》を鱗で弾き、何事もなかったかのように私を睨み付けていた。見なくてもわかるが全くもって効き目がないようだった。


スリーランク下の私がドーピングしてやっとの思いで通じるかどうかという状況。スバルが割って入っても、戦況がよくならないことはわかっていた。


あまりにもステータスに差がありすぎるのだ。スバルの全MPを使っても殆ど削れないばかりか、逆に《エイルドラゴン》の一撃でスバルが沈みかねない。



「ホロオッ!!」



それでもスバルは《エイルドラゴン》の注意を惹き、どうにか隙を作ろうとやってくれているようだった。この頑張りを無駄にするつもりは毛頭ない。


「グァァァッ!!」


《カースクロウ》をかわしきった私は全速力で走り、《エイルドラゴン》の横腹、後脚、顔面に連続で拳を叩き浴びせる。


『グギイイイイイイイッ!!!』


(───ッ!!)



僅かによろめきながらも《エイルドラゴン》が返しの噛みつきをお見舞いし、私の肩や腕を掠めて肉をかっさらっていく。



……なんか攻撃すればするだけ反撃をもらっている気がする。寧ろ《エイルドラゴン》の身体は傷こそあれどまだまだ余裕といった感じで私を睨んでいやがるな。効いていない筈はないだろうがあまりにもタフ過ぎる。



これがC+とD+の差か……厳しいな。《血のドーピング》のデメリットと反撃を貰ったダメージで身体は既にボロボロだった。


噛まれた傷が痛い。頭が血を欲してクラクラする。視界が歪んで目眩がする。いっそのこともう倒れてしまいたい。



だがそれでも諦められない。ここで諦めたらなんのために戦ってきたかわからなくなるから。一緒に戦ってくれるスバルにも悪いしね。



「クルルッ!」


スバルの尻尾から紫色の毒々しい霧が吹き出し、《ポイズンレイン》が発動した。私は《吐瀉の姫》という不名誉な称号による状態異常耐性があるため恐らく毒を貰うことはないだろうが、《エイルドラゴン》にちゃんと効くかわからない。


万が一効かなかったらスバルはそこで戦線離脱してもらうことにしよう。《ポイズンレイン》はありったけのMPを使って毒状態にする雨を降らし、毒の雨を維持するのにもMPを消費する。


中途半端に止めても意味がないスキルばかりかスキルが終わった瞬間、スバルのMPがすっからかんであることを意味する。無論気軽に使えるスキルではないが、それだけ《エイルドラゴン》に対する有効打がないことを理解しているのだろう。



空から大粒の雨が降る。その雨は槍のように《エイルドラゴン》の身体に突き刺さるかのように浸透していく。初めは恐々しく雨を見上げるようにして見ていたが、身体の異変に気づいたのか、少しずつ身震いし始めたように見えた。



『ガラァァァァァァァァァァァァァ!!!』



どうやらしっかりと毒に浸ったらしい。状態異常に耐性があるんじゃないかと不安になったが、これで勝機が見えてきた。



「グガァァァッ!!」



私は大きく叫び声を上げ、《血のドーピング》を維持しながら構えをとる。ここで得たチャンス、絶対に無駄にするもんか。

5/30.あらすじを変更しました。

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