勝機の無さ
《ダークタワー》に吹き飛ばされて大きく宙に浮いた私の身体が、重力に従って背中を地面に強打した。
体感だが《ビッグイモータル》の《ヘビーボム》と同じくらい痛い。防御力の上がり幅とはなんだったのかという問い詰めたくなるくらいの痛みだ。それでも両腕に力を込めてなんとか起き上がった。
視界を動かすと《スカベシアン》の《サンドストーム》が先程より大きくなり、今まさに放たれようとしている光景が目に映ったのである。要するに《ダークタワー》は完全に受け損だったということだ。あろうことか私は無駄なダメージを食らっていたのだ。
ここで私は《ダークタワー》の意図に気付いた。あのスキルは《サンドストーム》を当てるために、標的である私を逃がさないようにするスキルだったのではないかと。そして私はその意図を読めずに自ら《ダークタワー》を喰らうような真似をしたことで、かえって自分の首を絞めてしまったのではないか。
───立ち上がった私の背筋が凍る。このままだと殺られるという危機感を数日振りに感じた気がした。
どうする私。流石にC-ランクの全力を喰らって耐えられるような構造にはなってないぞ。更に言うと私にランクとステータスが劣るスバルをアテにしてちゃいけない。
スキルを見返せ。考えろ私。あらゆる可能性を考えて生き延びる方法を選択しろ。
──スキル──
物理スキル
《噛みつき》
《ヘッドバット》
《切り裂き》
──────
魔法スキル
《ポイズンマーカー》
《ダーク》
《血のドーピング》
《吐血攻撃》
──────
固有スキル
《忍び足》
《気配感知》
《変色》
《暗視》
──────
言語スキル
《セラ言語理解》
《セラ言語》
──────
称号
《吐瀉の姫》
《不動なる不死者》
──────
この決して豊富とは言い難いレパートリーで、どうすればいいんだ……まず《変色》を使ってその場しのぎにしても動けないから、《サンドストーム》を放たれたら結局無意味だ。
次に《ポイズンマーカー》か《吐血攻撃》で気を紛らわせるか、という考えは《サンドストーム》の威力の前には意味をなさないとして却下。
《ダーク》はあいつに届く前に《サンドストーム》に防がれるし、爆発すればワンチャンあるけど……威力も距離もあれに負けてる。
だとすればやっぱり《血のドーピング》か……?身体能力を無理矢理上げて避けるのはありだが、結局そのスキルだけでやり過ごせるとは思えない。
だったら複合でやるしかないな……よし地面に向かって《ダーク》!!
私の掌に現れた黒の球体を地面に向かって叩きつける。その球体は爆発し、周囲の地面を巻き込んで砂煙を起こした。
次に《血のドーピング》で脚力を上げ、そのまま無理矢理走って《サンドストーム》の範囲から逃れる!
自分の脹ら脛や太股に血液が流れ、筋肉のようにボコッと隆起した。全身の血を脚に使ってるためか、スキルを発動してると少々貧血気味になるのがキツイ……。頭が血を欲して酸欠かのように立ち眩み、全身がフラフラする。今日はもう戦闘は無理だな。スバルには悪いがまた全力疾走するしかない。
悔しいが……今の私ではこの格上二体を相手取れない。そう唇を噛みしめ、二体に背を向けて全速力で走った。スバルも状況を読んでくれたのか、すぐに身を退いてこちらに近づいてくる。
「グルルルルオオオン!!」
唸り声を上げながらそのすぐ横を駆け抜ける《メガロルフ》。全速力で走ってんのに追い付くとかマジかよ……しかも結構余裕そうじゃん羨ましいんだよなぁ!!!
《狂い裂き》
スキル通知と共に《メガロルフ》の口が開き、こちらを噛みつこうと牙をガシガシ鳴らしているのがわかった。
《狂い裂き》は初撃を避ければノーマンタイだ!奴の噛みつきに合わせて姿勢をガクッと前に倒して回避する。そのすぐ上で空を噛み、牙がぶつかり合う嫌な音が響いた。
《狂い裂き》《狂い裂き》《狂い裂き》
だがそれでも奴は気にせずこちらを仕留める気でスキルを連発してやがる。こいよ噛みつき一辺倒野郎が……避け続けてその牙ボロボロに砕いてやるよ。
自滅しろストーカーが!!
「ギオオオオオオオッ!!!」
こちらの挑発に敵意を抱いた《メガロルフ》が怒りを露に叫び声を上げて何度も何度も噛みつこうと首を前に出してくる。私はそれを必死に回避するしつつ、互いに平行に走りながら紙一重の攻防をしあっていた。(あー……あの防戦一方なんですけど助けてください)
《シャークファングウルフ》から強くなりすぎでしょこの狼!!今ならC-ランクに勝てると思って喧嘩振ったのが間違いでしたごめんなさい!許して!やっぱ許してください見逃してくださいホントマジ勘弁して……。
「グルルラァァァア!!」
そんな私の言葉など届かないといった感じで、《メガロルフ》が口を開き鋭い牙と赤く染まった喉奥が覗いていた。勘弁してって言ってるじゃあああああんもおおおおお!!(大泣き)
《狂い裂き》
再度通知が来たと思えば《メガロルフ》の口が私の腕を噛もうと更に大きく開いた。流石にこれは避けられないな……と来るであろう痛みを覚悟した。ここに来てから散々やられてるし、痛いのはもう慣れっこだ。
「ホロッ!!」
「ギオオオオッ!!!ギャオオオオオオオッ!!!」
《メガロルフ》がスバルの《ソニックショット》に体勢を崩し、そのまま大きく仰け反った。どうやら私がギリギリになるまで様子を見てくれていたらしく、すんでのところで牽制して助けてくれたらしい。
上を向くと、「集中しろ」とこちらをじっと見据えるスバルの姿があった。……本当に感謝するよスバル。
「ギオオオオオオオッ!!!」
だがそれで怯んでくれるほど相手だって優しくも柔くもない。すぐに体勢を建て直して私とスバルを交互に睨み付けていた。
……やっぱ逃げられないか。どうやら《スカベシアン》がいない今がチャンスと思って戦うしかないようだ。




