盗賊娘ルーパ
エニーはいかにも魔術師という見た目をしており、《凍水》の素質を感じさせる青のラインが入った白のローブで露出を抑えている。顔立ちはルーパと同い年か幾つか下くらいで幼さが残り、彼女とは真逆に人畜無害そうな印象を与えさせる。万人に受けるであろう可愛らしさがあり、のほほんとした癒し系みたいな顔だった。そして体つきは発育が終わるまでもう少しといったところか。自身のローブや気質の色にマッチした水色の長髪を腰まで伸ばし、恐怖で震える身体と共に時折り揺れる。
「無理もなにも、ここでパーっと撃たなきゃ全滅するだけよ?ちゃんと当てられる隙は作っといてあげるから!!」
「そういうことだ!それじゃあ手筈通りにやるとするかあ……《アースクエイク》!!」
赤鎧の勇者、グラッドが再び棘棍棒を構えて《アースクエイク》を放つつもりのようだった。どうやら《アースクエイク》で相手を宙に浮かせて、回避を封じてからの《ハイドラ》やワイヤーナイフでの攻撃が主な戦闘スタイルであるらしい。ここで回避してもまたもらうだけか……
「ホロッ!!!」
「キシィッ!!」
空中から短い鳴き声と共に《毒吐き》と《ソニックショット》がグラッド達目掛けて放たれる。放ったのはスバルのようで、私が苦戦しているのを見てサポートしに来てくれたらしい。
「なっ……があっ!!二人とも後ろに着け!!」
「ひっ!ひいいいいいっ……」
グラッドは防御力が高いらしくスバルの攻撃を食らって耐えるどころか、なんと女の子二人を庇って見せた。伊達に勇者を名乗っているという訳でもなさそうだ。これだとちょっと分が悪いみたいだな……三人まとめてかかってこられたらキツい。
私は彼らに背を向けぬよう、スバルに牽制してもらいつつ距離を取る。相手が人間というのもあってなるべく戦いたくないのが本音だ。逃げて済むなら逃げるのが得策か。数歩距離を取ったところで一目散に背を向けて走り出した。
───
「見つけた☆」
あれから暫く走ったもんだからてっきり撒けたと思ったが、何故かバレた挙げ句追い付かれてしまいました。本当になんででしょうね?恐らく盗賊のスキルかなんかが関係しているとは思うのだが張本人である彼女は太い木の枝に腰を下ろし、血の付いたワイヤーナイフを回しながらニヤリと笑ってました。ウザ可愛いなこいつ。
……血?まさかとは思うがこいつ、私の出血痕から居場所を探し当ててきやがったのか……もしそうならとんでもねえな。
「細切れにしてあげるっ!!」
ワイヤーを自在に操り、軌道の見えないナイフが周囲をひゅんひゅんと駆け回るように私の皮膚を切り裂いていく。さっきは運良く切断されることなく済んだけど、何回も斬られたら末端くらいは簡単にぶっ飛んでしまいそうだ。今はこいつ一人だし、逃げるのもかえって悪手だし……どっちにしろ逃がしてくれなさそうだからやるしかないか。
──後悔するんじゃねえよ?
「───ッ!!《フリューゲルスラッシュ》!!」
《フリューゲルスラッシュ》
〈《風翠》の気質を纏った二本の刃を自由にコントロールし、敵を切り裂く魔法。
まるで意思を持ち、翼を持っているかのような精密なコントロールが可能。〉
殺気を感じたルーパが両手を振るうと、そこから翠色のオーラを纏う風の刃が出現し、回転しながらこちらを切り刻まんと挟み撃ちにするかの如く迫ってきた。彼女はというと、ワイヤーナイフでの追撃を放棄して《フリューゲルスラッシュ》のコントロールに集中していた。
……なるほど、弱点はそこか。見た目は派手で魔法に意識が向きがちになるが、コントロールしている間は無防備になる。だから複数相手には向かないし、
「シャボォォォォォォッ!!!」
「きゃああああっ!?」
咄嗟の遠距離攻撃にも対応できないって訳だ。ごめん……あまりに可愛い顔でムカついたから顔に血吐いちった。許せ☆
「チッ……サイッテー。」
ルーパの目付きがキッと鋭くなり、恨みでギラついた瞳でこちらを睨み付けてきた。まああんなことされて許す方が変な話だし、私とて決して可愛くないとはいえ顔に血とか汚物とか吐かれたら一生ソイツ恨むわ。
「リンチにして肉片残さず消し飛ばしてやるわ……《マーカー》!!」
突如ルーパが自分の指を咬み始めた。一瞬頭がおかしくなったのかと思ったが、スキルの内容を読み取ると決してそんなことないと伺えた。
《マーカー》
〈自分の魔力と周囲の気質を振動させることで、周囲に自分の存在をアピールする魔法。
また《マーカー》のポインタを当てることで他者を囮にしたり、獲物を追い詰める際にも使うことができる。〉
どうやらこれで仲間と合流するつもりらしい。数的な不利を覆したというのにまた振り出しに戻るのは勘弁してほしいのが本音だ、ここで仕留めきるしかない。
理性がないように振る舞って実は冷静だったり、単なるサポート係かと思えば全線をあげてタイマン張れたりとこいつは中々読めない相手だな。
「ホロウッ!!」
ルーパの《マーカー》に気づいたのか、いち早くスバルが駆けつけてくれた。さっきまでいなかったということは、グラッドとエニーの様子を見てくれていたということか。ありがたいな。
───────
名称.《スバル》
種族.《スネークバイトオウル》
Lv15
ランクD
状態.《平常》
HP65/65
MP40/55
Hexagram.《3》
ATK.37
DEF.30
BMP.42
SPD.61
───────
あれからグラッド達から攻撃を受けてないようで安心した。やはりなんだかんだ言ってあの三人の中でルーパが一癖ありそうだ。
「チッ……毒梟まで来たのね……また分けられると面倒だわ。《ゴーストトーチ》!!」
ルーパはそう言うと謎の細い筒を取りだし、笛のように口に咥えた。まるで煙草のように煙が上へと伸び、それは唐突に青白い人魂となって膨れ上がった。ハロウィンのお化けのような顔をした幾つもの人魂が、スバルと私を交互に睨み付けた後、それぞれが別の軌道を描いて嗤いながら宙を舞う。
《ゴーストトーチ》ランクF
〈動物霊と幼き人魂が気紛れと悪戯に魂を呼び起こしたことで生まれたゴースト。正式な手法で呼び覚まされなかった魂はやがて消え逝く運命であり、消滅や爆散という悲惨な末路を迎える。
稀に第三者の使い魔として消耗品感覚で遣われる。〉
……モンスターなのか!?ランクは《ペテンツリー》や《朽ちた骨》と同じFランクだが、その数は既に十に達しようとしている。あれが全て爆発するとなれば、私はともかくスバルは只では済まないだろう。
「爆散するがいいわ……自爆しなさい《ゴーストトーチ》!!」
「ウウウウウウ……」
ルーパの命令と同時に全ての《ゴーストトーチ》の身体が光を放ち膨張していき、やがて爆竹のような音を鳴らしながら爆発した。
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