勇者接敵
(────ッ!!)
私の理解できる言葉が飛び込んできたものだから、焦りと困惑が混ざり背筋が張り裂けんばかりに伸び、そのまま凍りついた。なんならその場で大声を上げて立ち上がりそうだったくらいの衝撃を受けた。
...今明らかに彼女は《日本語》で話していた。先程まで聞き覚えない言語で話していた筈で、そんな彼女が私の解する言葉を話せるわけがないんだ。丁度セラ言語の《言語理解》で言いたいことが伝わった矢先にこんなことが起こった。ただの偶然とは思えない。
私は自分のステータスやあらゆるスキルに目を当てた。
────────
名称.《レン》
種族.《ゲノムシーカー》
ランクD+
状態.《通常》
Hexagram.《6》
ATK.46
DEF.58
BMP.35
SPD.45
──スキル──
物理スキル
《噛みつき》
《ヘッドバット》
《切り裂き》
──────
魔法スキル
《ポイズンマーカー》
《ダーク》
《血のドーピング》
《吐血攻撃》
──────
固有スキル
《忍び足》
《気配感知》
《変色》
《暗視》
──────
言語スキル
《セラ言語理解》
《セラ言語》
──────
称号
《吐瀉の姫》
《不動なる不死者》
──────
言語スキルの部分に《セラ言語》と《セラ言語理解》というものがあった。このどちらかが私の耳と脳に作用し、私の都合のいい言語に置き換えているのだろう。多分本とメモを読んで得たのが言語理解だから、頭に作用してるのは《セラ言語》そのものなのだろう。見慣れない称号もあったが今はそれどころじゃない。
今はどうやって穏便にこの本を返すかだ。今の私の姿は水死体のゾンビみたいな姿であり、辛うじて声帯は機能するけど話せるかどうかは別の話になる。既に太陽は昇り始めているためどさくさに紛れて返すなんてことも難しいし、おまけにアンデッドを受け入れてくれるような都合のいい展開は望めないだろう。私だって忘れ物を化け物に突然届けられたら悲鳴あげて逃げるか奪い取るくらいだもん……うん、無理だな!!
……となるとどうするか。やっぱりその場に落とし物感覚で置いておくしかないんかね。怪しまれるかもしれないがそれが一番丸く収まるし理想だと思う。えっと……このメモを本に挟んで、まあこのページでいいか。そのまま地面にゆっくりと本を置き、そそくさと声から遠ざかるように歩き出した。今の姿で人間とわかり合うことが出来ないのは百も承知で、ここで見つかった方がなにかと面倒だ。
───刹那、右肩に斬られたような衝撃が走った。
「見慣れないアンデッドがいるじゃん!!」
勝ち気な少女のような声……ああ振り向く必要もない、盗賊の女だ。彼女の武器は確かワイヤーの付いたナイフだった。攻撃力は低いがそれなりのリーチを確保できるという珍しい武器である。
(チッ……。)
スパーンと肩を斬られる事態にはならずに済み、舌打ちしつつも心のなかでは安堵していた。後ろをぐるりと向いて盗賊の女の方を睨みつける。
彼女は遜色ない黄金色の髪を背まで伸ばしており、ややツンとしながらも整った顔立ちをしていた。大人と子供の中間くらいの綺麗な顔からは盗賊であることを感じさせないが、鋭く獲物を捉えるような紅玉のような瞳や身に纏う皮と布であしらわれた弓使いにも思える服装の軽さ、近接職ではあり得ないであろう脚の露出などを見ると、やはり盗賊であるということがなんとはなしに伝わってくる。
「結構堅いじゃないこれ……あんたに任せるわよグラッド!」
「ふはははは任されたぞルーパ!《ゴルド=ラット》を逃した憂さ晴らしといこうじゃないか!!」
金髪の彼女がすぐ横にいた赤の鎧に身を包む白髪と無精髭の目立つ大男の後ろにつき、次いで大男が棘棍棒を振り回して自らの士気を高めていく。言動が勇者のそれとは著しくかけ離れているが、この赤鎧の男こそ、《勇者》グラッドなのだそう。後ろの盗賊はルーパという名前らしい。
「勇者いざ参る!!《アースクエイク》!!」
こちらの事情も知らないで、男が問答無用と《アースクエイク》による衝撃波を放ってきた。このスキルは《ゼプラコーン》で既に経験済みだ。高く跳躍すれば容易に回避できるし、別にそこまで脅威に感じる必要もない。
《ハイドラ》
〈水竜を相手に向けて放つ中級魔法。《炎焔》の気質を弾いて無効化することができ、威力も高い。〉
[デッドレコード]から、無慈悲にも次に襲ってくるスキルの通告がされた。《ハイドラ》……確かこれってあの本の持ち主が覚えた魔法って書いてあったよな。
そう考えていると、大男の背後から現れた水流がまるでポンプの水のような勢いで襲ってきた。その速さと勢いに、私の身体は成す術もなく飲み込まれてしまった。
「グギッ……ガアッ!!」
まるで高圧洗浄機に当てられたような勢いで水を当てられ、そのまま弾かれるように私の身体は大きく吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた……前に戦ったモンスターの《ヘビーボム》等と比べれば威力は劣るが、それでも結構痛いな。
「やっぱエニーの《ハイドラ》は一級品ねぇ!!ほらほらどんどん放ちなさい!!」
「む……無理だよルーパさん……連発できる程魔力も残ってないよ……。」
大男の背中から水色髪の少女、《ハイドラ》使いのエニーが怯えながらこちらを覗き込んでいた。




