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中身談義

「うっ……おえっぷ……」


文字通り砂を噛んでいる不快感に苛まれつつ、マリーナさんき背中を軽く撫でて貰いながらミミクリーバンズをおもむろに吐き出す。吐いているのは砂とごく少量のパンであって、恐らく吐瀉物には含まれない。多分。




...言っておくがゲロってなんてない。私だって一応女子としてのプライドはあるし、そもそも食べ物に砂が混じっている事態を予測すること自体が不可能なのだ。そう、これは予期せぬ事故であり私は悪くない。



称号に[吐瀉の姫]があるが、これは私が人の姿を取り戻す以前の話であり生きていくのに不可欠だと感じただけの事、私は悪くない。



まずこんなもんを食わせたケイトとこれを作った人が悪い、異物混入どころの騒ぎではなく、意図的に入れたとしか思えん砂の量、本当に悪意しか感じねえ。



...私はなにも悪くない。


「レン?貴女ちょっと泣いてるわよ?」

「うぇ、まっず……。」


口の中を唾で(ゆす)いでも、中々砂の感触は無くならない。マリーナさんにフォローされつつ、必死に砂を取り除こうと泣き目で躍起になっていた。



「うむ、レンは冷静で寡黙な奴だと思ってたが、やはり見ていて退屈しないな!ケイトと距離が縮まったようだし、全て丸く収まったということだ!ガハハ!」



ガルゼンはあの独特な笑いで、現状を楽しんでいるようにも見えた。確かに今回の事でケイトの事はわかったし、彼を応援してやってもいいという気にはなった。


なったにはなったが、砂入りパンを食わされた事で私の中でで彼に対する信用が再び落ちたことは言うまでもない。この反応は間違っていないと思うのだがどうだろうか。ここの人達は果たして、砂入りパンなんてものを食わされても仕方ないと割り切れるものなのだろうか。



「因みに中身は何だったんだ?」

「多分《赤櫟砂》だと思いますが……」


ガルゼンがケイトに事の本末を聞いていたが、特段不思議がる様子もなく表情は変わらず薄ら笑いのままだった。

どうやら彼の認識上、赤櫟砂がミミクリーバンズに入っているのは至って普通の事だそうだ。別にこの街の人がパンに砂を入れて食べる人種という訳ではなさそうだが、よくある事らしい。



「俺の知っている限りでヤバかった物と言えば……《ポイズンワーム》が丸々入ってたくらいか。」


「この前の新人は《オイルコック》の殻を食べさせられて歯が折れたなんて言ってたかしら。」



私が《赤櫟砂》相手にもがいてる最中、ガルゼンとマリーナさんがとんでもない土産話に花を咲かせているようだった。なんだよ《ポイズンワーム》って、もうそれ毒じゃねえか。それに《オイルコック》の殻とかもはや食べ物というか鉄板だろ。ああ文字通り鉄板料理かって喧しいわ。



《ポイズンワーム》ランクF

〈体内に猛毒を媒介したミミズ。体長も短く戦闘能力は皆無だが、うっかり食べると死ぬ。何処かの国が過去に軍の非常食として用いたが、結果は火を見るより明らか。大量の死者を出し敢えなく陥落した。〉



・・・・(絶句)。ねえ今その食べた人生きてる?生きてらっしゃいます?ちゃんとこの世界で暮らせているんでしょうか、二人とも笑ってないで一刻も早くこの店訴えた方がよろしいのではないでしょうか。



「あの表情、外れを引いたって顔だったわよね~。ホント運の無い子だったわねー。」

「運も実力のうち、仕方の無い事だ。」


ああガルゼンさん。その言葉の使い方間違ってると思うから、そんな染々とした顔で思い出みたいに語らないでくれ。それはもはや事故というより事件だぞ。その冒険者もまさか街中で毒殺されるとは思わなかったろうに。



というか、それ考えたら《赤櫟砂》は相当マシな部類のでは……?恐らく至ってはならない思考ではあるが、ポイズンワームの衝撃があまりにも強すぎて被害者である私でさえも幾分マシに思えてくる。


この考えが至極全うな、だが正常に見えて異常であることは百も承知である。本来砂も毒ヘビも入ってちゃいけない代物だが、この世界では入っていて普通なのだと納得した方が楽な気がした。してしまったのだ。




これだから多分、この店は潰れないんだろうな(遠い目)。



「うー……はあぁ……」

「とれましたか……お疲れ様です、レンさん。」


そんなことを考えつつも漸く砂の感触を取り払い、どっと襲いかかってきた疲れに思わず肩を落とす。ケイトも形ばかりではあるが私を労ってくれていた。



「……二度と食べないからね。」

「ま、まあ通過儀礼でしかありませんから、その、あの、えっと、ごめんなさい。」


冒険者の通過儀礼にしてはかなりリスキーだと思うんだが、この街ではそれが普通なのだろう。ましてや魔物が冒険者として採用されている状況下にあって多少のリスクすら考えられなかった私にだって多分非はある。



この街は人とモンスターが共存し、互いが深く接し合っている場所。ここだからこそ魔物である私が人らしく暮らせているというのも事実。あまり尾ひれを引いて深く考えるのは止めにするに限る。

5/5評価を頂きまして、評価累計が200Ptに達しましたありがとうございます!

(。・ω・。)!!

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