仔竜の反撃:Sideエニー
───あっこれ面倒くさい奴だ。
「すみません、急いでいるのでこの辺りで。」
「なあに、譲ってくれればすぐに終わる。渡したまえ。」
アルギアさんはわざとらしく両手を広げて道を塞いでくる。貴族相手に怪我させる訳にはいかないし、民間人に怪我させたとなると《勇者》としての立場からして厳しいものがある。
それを知ってか知らずか、どちらにせよ非常に質の悪い相手に変わりはない。
「この子は今預かってるんです!だから私に聞かれても困ります!」
「時間が経とうが待ってやる、すぐに申し立てをせよ!」
ケイトみたく面倒な相手ですね全く……。それも高圧的な態度でこられると妙に腹が立つというかなんというか……
「今依頼を受けていてこの場に居ません!お願いですからお引き取りください!」
「そんな都合の悪いがあるか!!」
この子に何の執着があるのか、アルギアさんは引っ込んでくれない。それどころか怒鳴り散らして周囲から白い目で見られているのだ。
「その竜がいないと……息子が浮かばれぬのだ。顔に一生治らぬ傷を負い、失明までした我が一人息子が……」
「え、あの、それ、関係あります?」
アルギアさんはまるで痛々しい光景を思い出したように、目に涙を流し悔しそうな表情を浮かべている。貴族の性質からして嘘は言っていないにしてもかなり嫌な予感はする。
「...すみません、無理なものは無理です。」
「お金なら払う、頼む息子の為なのだ。」
うーむ、中々折れない。彼がどのくらいの力をもつ貴族なのかはわからないが、正直敵に回すことはしたくない。
「だから言ってるじゃないですか。しつこいのは嫌いですよ。」
「息子の為なら誰に嫌われようが構うまい!我が子の為に行動しようとする親は間違っているとでも言いたいのか!」
「努力の方向を間違えているんですよ!!」
アルギアさんは全くもって折れる気配を見せず、脅迫にも近いやり方で愚直に頼みこんでいる。子供の為に身を粉にするその姿勢自体は悪いことではないが、それとこれとは別の話であるんじゃないかと私は思う。
何度でも言うが、しつこいのは本当に嫌いだ。こういう人は大抵自分の事しか考えてないし、モノをモノとしか見ていない。
「妻にも先立たれ、息子も治らぬ傷を負い……私は一体どうしたら……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら咽び泣くアルギアさん。何も悪いことしてないのに、これじゃ私が悪者みたいじゃないですか。
この人がフィルちゃんを欲する理由って、もしかして息子に代わる話し相手か何かにするつもりなのだろうか?寂しさの紛らわしにペットを飼うという話はよく聞くし、ローセのような大きな街であればリトルワイバーンやスネークバイトオウルクラスの魔物がいてもなんら不思議ではない。
「あの、ペットにするつもりならお断りです。それよりも息子さんと向き合ってあげてください。」
「向き合ってない訳がないだろう!この私の自慢の一人息子だぞ!これまでも手塩にかけて英才教育というものを積ませてきた!お前のようなガキに、その苦労の何がわかるというのだ!」
「わかりません!知りませんから帰ってください!!」
うわ、地雷踏んでしまったみたいだ。途端に態度を急変させて激昂するアルギアさんに、私も泣きそうになっている。彼は罵詈雑言を浴びせかけながらろくに話を聞いてくれず、かといって退いてもくれない。現在説教しながら物乞いしている状況、端から見たらなんと滑稽なものであろうか。
まあ被害者側に立たされてる訳ですが。ほんと笑えませんね。
「大体冒険者たるものが、何のために依頼をこなしてる!?私のように困った人の為に尽力するのが若者の努めではないのか!?」
もつひとつひとつツッコむのも疲れました。ここまで話を聞いてくれない人も中々いないと思う。あのケイトですら力勝負で話に踏ん切りをつけてきたのに、ネチネチと延々愚痴を連ねながらよく交渉が出来ると思ったものだ。
「もういい、寄越したまえ!」
「ちょっと!!痛いです!」
突如痺れを切らしたアルギアさんが私に掴みかかり、肩に乗っているフィルちゃんを奪おうとしてきた。容赦のない掴みに腕や肩が痛みを訴える。
『き″ゅ″っ″……』
「離して!やめて!!」
フィルちゃんの細い身体を容赦なく素手で掴み、さらにもう片方の手で私を押さえつけて引き剥がそうとする。フィルちゃんが突然掴まれたことにビックリして苦しそうに噎せ返った鳴き声を上げる。
『きゅううぅ……』
私の肩に爪を立て、離れまいと必死になっているフィルちゃん。ちゃんと見るべき相手を理解しているだけあって、かなり賢い子のようだ。
そんな子を、こんな奴に渡してなるものですか!!
『きゅううううう!!!!』
フィルちゃんが大きく口を開け、黒い煙を思い切り吐き出した。煙はアルギアさんの顔を包み込み、突然の事に驚いた彼がフィルちゃんから手を離す。
「なっ……がはっ!!」
そのまま勢い余って尻餅をつき、アルギアさんは痛みからか竦み上がる。煙を吸った反動で咳き込みながら尻をさすってゆっくりと立ち上がった。
「ゲホッ……グホォッ!!小娘ぇ……この借りは必ず返すからな、その時まで震えて待ってろ。」
アルギアさんはそのままゆっくりと踵を返し、去っていった。相手によってはそのまま殴られてやられるんじゃないかというくらい無防備で悠長な動きだ。
反撃したらしたでなにかと怖いし、ここは沈黙するのが妥当だろう。私は別に悪いことをなにもしてないのだから。




