危険な呪い
《枯死の霧》
『自然を枯らす呪われた霧を撒き散らし、覆われた生命を断ち切る死の魔法。
内側から魔力を腐食、枯渇させ、長く霧に包まれた生命は死に至る。
魔力を奪うことに長けたスキルであり、【枯死の沼のヌシ】を筆頭にした数体の魔物にしか習得、行使できない劇毒でもある。』
『【枯死の沼のヌシ】への進化条件。』
とりあえず解説を挟んでもらって、どういったスキルなのかを理解した。
なるほど……対魔に特化した妨害スキル、か。どっかの説明欄で見た【枯死の沼のヌシ】のメインウェポンと思えば、そのヤバさ加減は何となく伝わるだろう。
着々と人類の敵らしくなってきてる気がしなくもないけれど、人の形を保てている《アインベル》ならば街に帰ってもどうにか凌げそうだ。
『チョオオオオオオオン!!!』
禍々しい光に包まれたファンブルドッグがこちら目掛けて跳んできた。一回飛んで終わりではなく、名前の通り動けなくなるまで追尾してくる仕様らしい。
──そしてその根底には、魔法が関係している。
「──堕ちろ!」
『ブルウウウウッ!?』
これしかない、と私は《枯死の霧》を発動する。するとカビや茸の胞子のような青緑色の粒子を纏った重々しい霧が、信じがたくも私の掌から放たれたのだ。
これまで新規習得してきたスキルはアインベル由来の血を連想させる赤黒いものであり、このスキルはどうやら違う系統らしいということを瞬時に把握した。
ゴロン..とファンブルドッグの身体が重力に従い落下する。鈍い音を発したファンブルドッグからは光が消え、これ以上追ってくることはなかった。
地面に貫通して未だもがいている残党も次第に霧に飲まれ、《道連れ》の効力を失ったのか物言わぬ死骸と化している。
地面一帯にファンブルドッグの死骸が重なっていて少し怖いけど、終わったようである。
【《呪僧》を習得しました。】
【《魔力抑制》を習得しました。】
[デッドレコード]から更なる通知が...ああ追加スキルか。知らない内にどんどん増えていくのは構わないっちゃ構わないんだけど、パッと目を逸らすといつの間にか変な称号とかくっついてくるからなあ。
ともかく解説を頼まんことには始まらないし、お願いしよう。
《呪僧》
〈呪術に長け、呪われた修羅の道を歩む者を表す称号。多彩な呪縛系統のスキルに特化し、相手を苦しめることを生業とする。〉
いやいやいや、してない!苦しめることを生業にしてるだなんて風評被害もいいとこだ!!断じて認めんそんな称号!!確かにアインベルの生態はそうかもしれないけど、私はそんなことしてないから!!
《魔力抑制》
〈魔術師は自らの魔力を抑制することから始める。自分の身に危機が迫る危険な魔法の効力、強いては魔力消費を自動的に抑えることができる。〉
それで、次のスキルは《魔力抑制》か。パッと見はデメリットに見えなくないけど、自分の魔法で自爆しない為の足枷みたいなもんか。
まあ正直足枷なんて言ってる時点でデメリットなのは否定しないけれど、今回の《枯死の霧》はアインベルである私にとっても危険なスキルであったことを窺わせるようだ。
「...レンさん!!」
バタバタと重そうなローブに身を包んだケイトが焦った様子でこちらに走りよってくる。既にスカベシアンと残党らの姿はなく、気配感知にも引っ掛かってない。ひとまず安全といったところか。
「あー無事か。」
「そんな傷だらけで……全く呑気ですね。」
ケイトに指摘され、改めて自分の身体に目を配ると身体の至るところ(特に腕)から血が滲んでいた。スカベシアンとのサシでの殴り合いで右腕は悲鳴を訴えているし、《道連れ》で跳んできた顔面が脚にクリーンヒットしたのもあって余裕とは言い難い。
致命傷一歩手前って感じか、何のことはないな。
「あの子に怒られても知りませんからね。」
「げっ……そうじゃん、エニーの奴絶対怒るじゃん。」
そういやこのまま帰ったら帰ったでエニーに絶対怒られるよな。全身血まみれ傷だらけな現状、絶対言い逃れ出来ない気がする。
でも正直なところ、精神的に辛いところがあるから帰りたいというのが本音だ。特にケイトは普通の人間だし、体力、魔力共に限界が近いだろう。
「と、とりあえず帰ろっか。」
「あ……はい。」
こんな状況でもタフなのが私だ。ケイトが私を遠巻きに見つめるようにして、恐る恐るゆっくりと歩を進める。そのスピードはかなり遅く、私の様子を気遣ってくれているようにも見えるが、私の方が一応強いんだからそこまで気にしなくてm
「……うわっ!!」
「危ないっ!!」
ズルッと不安定な地面に思わず脚が引っ掛かり、転び掛けた私の手をケイトが咄嗟に掴んで引き寄せる。
「おm...あわわわわわっ!!」
「おわあっ!!」
...も叶わず二人一緒に地面へダイブすることになった。一瞬見直しかけたけど、魔法使いの筋力はまあそんなものか。
「ご、ごめんなさい……痛た……」
「気にしてない……けど今、重いって言ったか?」
まあ私としてはこの結果よりも重いと言いかけた事に腹が立ってるんだがな。結果的に受け止め切れなかったのは仕方ないとしても、仮にも女の子に重いなんて言ったら最悪斬首ものだぞてめえ。
「いっ……言ってませんよ!!」
「……まあいいよ、早く立って。」
倒れたケイトが私の左手に掴まって立ち上がる。本来立場は逆な気もしなくないけれど、手負いとはいえ私の方が動けるのは本当だし、進化して色々重くなってるのもまた事実なのだ。
そこがなあ……ちょっと気にくわないんだよなぁ、と一人悪態をつきながら私達は街に向かって歩き出したのだった。




