盾の獣
1ヶ月ぶりの投稿になりまして、申し訳ないです(。・ω・。)
盾のように硬いスカベシアンの顔面が私の右腕を掠める。前回戦った経験を反吐にするかのごとく猛突進してくる。
別にこいつ単体はC-ランクの中でも弱い部類であり、タイマンならばジャイアントメルトピードやメガロルフのような速攻アタッカーには大きく劣る。
この前は《サンドストーム》等の多彩な遠距離スキルと防御に徹していただけあって、今回の奴の意図が全くもって読めなかった。
玉砕覚悟で突っ込んできただけなのか、それとも何か別の考えがあるのか……前者ならまだいいが、どうにもそれだけでない気がして身構えてしまう。
『ベシ!』
だがこちらの思考を読む素振りもなく、直線的に行って帰ってぶつかってを繰り返している。仇敵を見つけたのはいいが勝てないと踏んで半狂乱になってるのかもしれない。
【……】
ものは試しにと念話でコミュニケーションを取ろうとしたが、当然ながら返答はない。さっきのやり取りがどこか含みを感じて、単に怒りに任せているわけでは無さそうなのだが……。
《サンドストーム》
スキル通知と共に後ろへと高く飛んだスカベシアンの頭はこちらを向いており、ぐるぐると砂が渦巻いていた。不安定な状態でもしっかり撃てるようで、空中だというのに照準をしっかりと合わせているようだった。
「ぐっ……!!」
思ったより《サンドストーム》の範囲が広く、砂を纏った強風に煽られる。竜巻の中心は風が弱いといわれていた気がするが全然そんなことはなく、その場から一歩も動けないでいた。
『ガルルルルルルッ!!』
当然スカベシアンは攻撃の手を緩めることなく、更に突進で追い討ちを掛けてくる。防御力に特化した頭が武器となり、まるで殴り殺さんかという凄まじい勢いで容赦なくぶつかってきやがる。
(ちっ……)
受けに回されている状態に思わず舌打ちを漏らす。不安定な足で人の背丈ほどの大きさをした犬の相手は単純に言って厳しい。
私とて物理、魔法のどちらかに特化しているわけではなく、はたまた同格の攻撃を受けられるだけの防御力があるわけでもない。自分を表す言葉として適切なのは、きっと《妨害特化の両刀バランサー》なのであろう。
元よりアインベル自体が妨害スキルに特化しているのもあって、本来はこんな風に殴り合いする種族ではないはずなのだが。
どうやらアンデッド経由の進化ルートと、肉を切らせて骨を断つ私の脳筋スタイルのせいでどこか噛み合っていないらしい。
...相手のステータスが見えないとここまで苦労すんのかよ。自分のステータスが客観的に見てどうなのかが分からないというのは不安でしかないな。
『バルルルルルッ!』
弧を描きながら跳んでいたスカベシアンが着地し、こちらに目線を合わせる。そこから数拍置いてヤツの顔面が赤白く輝いた。
《マッドファイア》
どこかで見覚えのあるスキルだ。明らかにヤバいなにかを燃やしたかのような紫色の炎が人魂のような不定形な形をとり、スカベシアンの鳴き声と共に飛んでくる。顔の面積が広いだけあって炎も当然ながらかなり大きく、完全に避けるのは少々厳しいだろう。
「……《呪縛の風》。」
《呪縛の風》で自分の顔前に突風を起こし、どうにか炎を避ける。禍々しい色を残した火の粉が明らか普通の炎でないことを嫌でも察せられた。
『バオオオン!』
そして更に数拍置いて、スカベシアンが再びぶつかってくる。理性も容赦もない無慈悲な攻撃をなんとか右腕で捌いてはいるが、力量差が顕著に出ていつまで防げるか自分でもわからない。
スカベシアン自体はまるでCPUが動かしているかのごとく規則性のある動きだが、先ほどのあまりにリアル過ぎるやり取りがまさかここまで不気味さを演出させてくるとは……。
『オオオオオオオオ!』
(……っ!?)
右腕に突如激痛が走る。なんとスカベシアンの歯のない丸ノコのような鋭い顎が右腕に食い込み始めていたのだ。鉱石のように硬いはずだったアインベルの右腕から、信じがたいほど真っ赤な鮮血が滴り落ちている。
(ううっ……!!)
格下だからと流石に舐め過ぎたか……いや、でも確実に手は抜いてない。
正直ぶつかり合いに関してはいなせる自信があったから、そこに関しては私に間違いなく落ち度がある。単純に右腕に対する信頼を寄せすぎていたことを指摘されれば言い返せないのも事実だ。
でも、それでも手は抜いてない。私個人としては本当に真面目にやっているつもりだ。そもそもCランクとC-ランクに殆ど差がないことなんて、これまで生きてきてよくわかっている。
「《ダークスピア》!!」
喰らったもんは仕方ない、やれることやって勝つだけだ。
『アベシッ!?』
無理に顔を逸らして攻めていたことで剥き出しになっていた首元目掛けて黒い魔力の槍で突き刺してやると、スカベシアンの身体が大きく吹き飛んだ。
これまで有効打の与えられなかったスカベシアンに一杯食わせてやれたのだ。そう思うと「してやったり」と言わんばかりに気持ちが高鳴るのを感じられる。
『・・・。』
思わぬ反撃を受けたことで、狂ったように攻めていた筈のスカベシアンが転じて防御の体勢を取る。姿勢を低くして全身を顔の後ろに隠してきたのだ。
「……なんだ、その程度か。」
【粋がるな小娘が。】
攻撃の手を止めたスカベシアンを煽り立てて見るも、すぐさま意図を読まれ冷静に返された。単純に向こうの方が長く生きてるのか、実力差以外の精神的余裕というものが感じられる。
ま、出来ないもんは仕方ない。逆立ちしたって無理なものに執着するのは得策じゃないし、結局いつも通りってのが一番だ。




