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出発と再来

暫くしてあらかた準備を終えたケイトの隣を歩きつつ、彼を守りながら状況を整理している。現在絶賛迷子中だが、そこまで遠くには行ってない筈だ。そのうち見覚えのある場所に差し掛かるだろう。


「で、残りは《アイリスブルーム》と《閻魔コオロギ》でいいんだよね?」


「そうですけど、なんでそんな冷静なんですか……」


私としては単に依頼を確認したつもりだったのだが、ケイトは私の神経がわからないとばかりに両手で手皿を作り、首を竦めている。


「貴方の実力は認めてますけど、残りの二体も《ジャイアントメルトピード》に迫る強力なモンスターですからね?」


「それはわかってるよ。」


彼は今更過ぎる忠告で脅しをかけてきてるのか、珍しく弱気になっているのがわかる。それでも昨日の大百足も結局は私が一人で仕留めているからか、ある程度信頼は置いてくれているようだ。


残りの二体のランクと特徴は既に押さえているし、ランクも私と同格なのだ。私は不死も相まって単純な殴り合いではまず負けないし、大百足との戦闘で新しく得たスキルがどんなものか試すいい機会でもある。同格相手なら寧ろ真っ向からやりあう価値があるのだが……


「でも……一旦街に戻った方がいいよね。」

「そう……ですよね。」


まあ物事には優先順位ってものがあるし、私と違ってケイトは普通の人間だ。飲まず食わずで歩くにも限界があるだろうし、体力やMPなど気にかけないといけないことが多すぎる。


それに案外人の身が脆いということは既に前の戦いで嫌と言うほど学んでいる。私のペースで歩かせれば必ずどこかで限界を迎えて倒れるのは目に見えていた。



─ガリッ!!


私は木の幹を右手の爪で切り裂き、深い爪痕で目印を付けていく。同じ道をぐるぐるしないように、通り魔の如くすれ違うように木々を引っ掻く。


「すみません……僕が不甲斐ないばかりに……」

「飛び出した私も同罪……というかもう私のせいだよ。」


その様子を見ていたケイトは相変わらず迷子になったのが自分のせいだと後ろめたい気持ちに苛まれているようで、すぐさまそれは違うと彼を宥める。こうでもしないと延々うじうじしてそうだし、今回のことは完全に私に非があるしな。


私が異世界転生者であることを彼が知っている筈もないし、ここらの地理を全く知らない人だとはケイトも思ってなかったのだろう。



今度散歩がてら歩いてみてもいいかもね。多分補佐がいないとまた迷子になりそうだけど。



「───レンさん危ないっ!」

「な──ぐふっ!!」


─ケイトの声も間に合わず、完全に気を抜いていた私の背中にドンッという衝撃と共に激痛が走る。不意をつかれる形だったからか《気配感知》が作用せず、思わぬ攻撃を喰らう羽目になった。


すぐさま受け身を取って立ち上がり、背中を擦って痛みをどうにか堪える。


『ベシッ!ベシッ!』


何処か聞き覚えのある鳴き声と共に、不意討ちの主の姿が目に映った。鏡のように光を反射する顔面が特徴的な、人の背丈程の巨体を持つ大型犬。その分短足が目立ち、機動力には欠けるが体毛も緑色に染まり硬そうな印象が見受けられる。



……お前か《スカベシアン》。そう言えば振り切ったつもりになってたけど倒してなかったもんな。ここに来て相方の敵討ちに来たか、それとも死ににでも来たのか?今の私は格上だぞ。


……といってもほぼランクは変わらないけど。


『バオオオオオオオオッ!』


完全に敵意を私一人に向けて《スカベシアン》が吠える。進化前は完全にアンデッドだったというのに、臭いをかぎ分けてここまで来たってことか。なんちゅう執念だよほんと。



だったらこっちも応えてやらないといけないって訳か。



「下がっててケイト、こいつは私に用があるらしいから。」


「ええぇっ!!僕も戦えますってば!」


『バオオオ!』


ケイトが助太刀に来ようとしたところを威嚇する《スカベシアン》。奴の声に合わせて数匹の《ファンブルドッグ》が茂みから姿を現し、ケイトの足元を取ったのだ。


『チョン!チョン!』

『ヨーコターテ!』

「うわあああっ!?な、何ですかこれえええ!!」


相変わらず頭だけが回転する機構は気持ち悪いことこの上ないが、彼を殺さずあしらうだけに留めるあたり、敵として見てるのは私だけってことか。


(魔物の癖して頭は働くな、まったく。)


【……貴様も魔物の癖してよく言うわ、小娘が。】


《呪術言語》のせいか魔物の《念話》かは定かではないが、どうやら確実に意思があるらしい。小娘とは失礼極まりない発言だが実際その通りだし言うことは特にない。


【その貧相な胸も小娘所以、全く笑わせてくれる。】

「……あ?」


……ほんと意思のある魔物って録な事言わないのな。人が気にしてることをそうやっていびるの良くないと思うんだ。しかも発言からしてこいつも女だし、同性相手にそれを言うのは最早単なる苛めだぞ。


「……まあ気にしてないからいいけどさ。」

【左様。私とて単にいびりに来たわけではあるまい。】


互いに足腰に力を入れ、向こうもこちらをギロリと睨み付けてくる。私も《邪眼》を当てるが、《スカベシアン》が怯んでいる様子はない。一瞬を突くか格下を怯ませるくらいしか効果が無いし、使い道に困るなこれ。



『ベシィィィィィィィィイ!!!』


私が考えを止めて奴に向き直った刹那、先手必勝と言わんばかりに《スカベシアン》が飛び掛かかってきた。

評価の方ありがとうございます!最近書けていませんが新作の方もよろしくお願いします!

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