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第21話 卒業文集を抱いて 中編

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

ま…………マリ……ちゃん?


「大丈夫、気にしないで」


 と、マリちゃんは言うけど、気になるよ。

 マリちゃんがいきなりスパイ●ーマンみたいに床に四つん這いになっちゃったのだ。

 そう、まるでコンタクトレンズでも探すみたいに。


 あれれ? 最初に確認することは、『最初に教室に入った人は誰?』ってことじゃないの? そうだとばかり思ってたよ。

「まぁそれはそれで確認しておきましょうよ」

 とミキティが言った。

 私とミキティはそれぞれに聞き込みを開始――


「菱島さん、どうしよう?」

 真田くんがのどを震わせたような声を出す。

「先生にどう伝えたらいいのか……」

 どうって……そのまま見せたらいいんじゃない?

「え?」

 全部のページが破れてるわけじゃないしさ。それにあくまでどんなデザインにするのか、案を出すだけでしょ?

 分かりやすくするために書いたけど、言葉で伝えてもいいんだしさ。

「そ、そっか……うん、そうだよね。ごめん、僕が誰かに疎まれてたからこんなことになって」

 え? そうなの?

「そうとしか考えられないよ」

 真田くんはうっすらと、でも確実に涙を浮かべていた。

 じゃあ誰かにいじめられてるの?

「いや、それはないけど……」

 だとすれば、別に真田くんが謝ることじゃないよ。仮にそうだとしても、こんな幼稚なことする人が悪いんだから、真田くんが謝ることはないからね!

「あ、ありがとう菱島さん……」

 真田くんは鼻を真っ赤にしながらも、笑顔になってくれた。


 真田くんが先生へ今回のことをお話する為に職員室へと向かった。

「あんたなかなかいいこと言うわね」

 とミキティが、ちょっと赤くなった目で言ってきた。

 ……なにが?

「……べ、別に」

 その間に私たちは今日の朝の登校の様子について確認することにした。


 ちなみに、昨日私と真田くんが一番最後に教室を出た。先生が施錠した後は、生徒は入ることができない。よっぽど大切なものを忘れてしまった場合――たとえば携帯電話とか――、保護者と一緒だと入ることもできるけど。

「それについては私が確認してくるわね」

 と言って、会長も真田くんの後を追って職員室に走った。



 まず一番最初に確認したいのは、今日一番最初にこの教室に入ってきた人だ。

「確か、北沢って誰か言ってたわよね?」

 さっき騒いでる中、真田くんをはじめ、みんなが口々に「誰か知ってる?」とか、「今日最初に来たの誰ぇ?」とか意見が飛び交い、その中で出た情報だった。

 男子の北沢くんかぁ。

「でも今外でドッチボールしてるけどね」

 そうだよねぇ。北沢くんは元気な男子の典型って感じで、朝早く来るのも、朝のHRが始まるまでの時間外で遊びたいからだと思う。

 北沢くんたち数名の男子が外で遊んでる光景は、朝の風物詩って感じだもんね。

「だとすれば、」

 ミキティが言う。「北沢が戻ってきたらすぐにでも尋問ね」


 あと、真田くんが学校に着くまでに、登校していたのは2人だって。

 二人目は古瀬さん。

「古瀬さんも朝が早いのは、いつも図書室で本を借りるからなの」

 ミキティが言う。「毎日1冊読むみたいよ」

 えぇ!? そんなに本があるの!?

「……そこに驚く? 6年生になってからの話だから、読んでない本がいっぱいあるんでしょ」

「朝一番に本を借りて、次の日の朝には返却してまた1冊……って言ってたよ」

 と補足したのは真田くんだった。

 へー、詳しいね。

 ……あ、戻ってきてたの!? どうだった、先生の反応は?

「あー、うん……」真田くんは苦笑していた。

「予想通り見せても、驚くこともなくてさ、『どうする?』って訊いてきたから、『する』って答えただけだったよ」

 えらい! そうだよ!

 私は思わず真田くんの背中を叩いた。

「そうよ! ここでやめたらそれこそ犯人の思うつぼだもの! 見直したわ真田くん、度胸あるわね」

 ミキティもばしばし肩を叩く。はた目からみれば、女子二人にポコポコ叩かれてるみたいだ。

 真田くんは苦笑いだった。ごめんごめん。

「真田君、あなたが学校に着く前に来ていたのは北沢と古瀬さんと他に誰かいた?」

「あ、えっと……あとは緑川さんくらいだったかな……」

 緑川さんかぁ。

 珍しく早いね。いつも私と同じくらいなイメージだけど。

「確かそうだったと思う。僕もいつも早い方だけど、珍しいとは思ったなぁ」

 緑川さんについての情報は? 耳年増のミキティ。

「使い方間違ってる上で余計なこと言わないで。緑川さんはまぁなによりモテるわよね」

 そうだよねぇ。笑顔が素敵でさあ、ナチュラルにカワイイからねぇ。下手なアイドルよりよっぽどだよね。

「修学旅行中にも3人に告られたのよ!? でも全員フったとか……かぁ~! モテる人は違うわ」

 そんなおじさんみたいな……だからモテないんだよ。

「失礼ね!」

 で、他には?

「うーん……それ以外はちょっとわからないなぁ。僕も教室にランドセルを置いてからノートを取り出すまでうろうろしていたし。その時に教室にいなかっただけかもしれないし……」

「ふーん……そうね。そうなると可能性がある人は増えちゃうわね」

 ホントだね。でもその分、目撃される可能性も増えちゃうから、やっぱり先に来てる人の方が怪しい?

「ところでさ、」

 とマリちゃんが突然言う。

 わっ! びっくりしたぁ……。

「ちょっとその3人のところに行こう」

 マリちゃんはその手にデザインノートを持っていた。

 どうやら真田くんが帰って来てからすぐに受け取って調べていたみたい。

 ノートは穴が開いたり、くるんと薄く白い紙がささくれたように丸まっていたり、ページによっては半分以上が裂けている場所もある。

 改めてその悲惨な姿を見るとちょっぴり心が痛くなる。

 だけど、なにより、自分のアイデアをじっくり見られることの方が恥ずかしい!!!

 う~……変じゃないかな? 笑われたりしないかな? おかしいよね!? アハハハ!

 と、心が落ち着かない!

「なに一人でもじもじしてるのよ。行くわよ」


 ミキティと最初に古瀬さんの机に向かった。

 古瀬さんは本を読んでいる。最初私たちが来たことに気づいていなかった。

「え、なにかな?」

「えーっと……」

 改めて尋ねられると困るものだ。だって疑っていることをはっきり言うと、もし無関係だった場合、卒業まで気まずくなるし。

 そう考えると、マリちゃんはいつも人に尋ねる時はどんな気持ちだったのかな? 度胸があるなんてレベルじゃないよね。でもきっと、自信があったからできていたことなんだろうけど。

「な、なに読んでるのかなって思って」

 ミキティがなんとか話題を作る。

「あ、これ? 物語小説だよ」

 古瀬さんは少し表情がくだけた。声のトーンもあがる。突然話しかけられたという緊張がほぐれただけでなく、本の話題ということが嬉しかったのかもしれない。

 古瀬さんはせきを切ったように、ミキティに本の話を始めた。今読んでる本のことや、好きなジャンルを話したかと思えば、今度はミキティに好きなジャンルを尋ねて話を広げている。

 ミキティも本を読まないことはないので、なんとか話について行っているようだ。

 その最中、マリちゃんが、

「古瀬さん、ちょっとペンを貸してほしいんだけど」

「ペン? あ、いいよ。好きなの取って」

 と古瀬さんは布のペンケースをマリちゃんに手渡し、時間が惜しいとばかりにすぐにもミキティに戻った。

 ペン?

 マリちゃん、何に使うのかな? いきなりペンだなんて。言ってくれたら、私が貸してあげるのに。

 と見守っていると、マリちゃんはペンケースの中をくまなく探している。ペンはいくつも入っているけど、それはむしろマリちゃんの視界の中には入っていないみたい。

 他には消しゴムとか、物差しとか、はさみとか。

 特に珍しい物はないね。

「ありがとう」

 一通り調べた後、マリちゃんはそう言ってペンケースを返した。

「あ、うん……」古瀬さんは、マリちゃんの手の中に一本の蛍光ペンがあったことを見ると、「それだけでいいの? シャーペンもあるけど?」

 どうやらマリちゃんが筆記用具を忘れたと思い込んでいるようだ。

「うぅん、大丈夫。ありがとう、後で必ず返すね」

 と言って、その場を離れた。

 私も続くけど、ミキティはまだしばらく話から抜け出せそうになかったので放っておいた。


「なに?」

 緑川さんはスマホを操作していたところだった。誰かとラインでもしていたのかも。

 私がマリちゃんに変わって、今日早く来たことを尋ねた。

「あぁ、今日? 今日はね、」

「ところで緑川さん、ペン貸してほしいんだけど」

「え? ペン?」

 また!? と口に出そうになったのを必死で抑えた。

「いいけど……1本だけにしてよね」

 と緑川さんは自分でペンケースからペンを一本取り出した。

 プラスティックのシンプルなデザインのケース。

 渋る理由もわかる気がする。緑川さんはあまりペンを持っていない。ピンクと黄色の蛍光ペン1本ずつに、シャーペン1本、消しゴム。それとテープのりくらいしか入ってない。

 替え芯すら入ってない。でもしゃらしゃらと音がするあたり、シャーペンの中に一杯入ってるのだろう。

マリちゃんに黄色の蛍光ペンを渡すと、ぱたりとケースを閉じた。

 で、今日早く来た理由は?

「え、あー、いつも一緒に来てる子が風邪で休むから、さっさと一人で来たのよ」

 あ、なるほど。待ち合わせの時間が無くなったんだね。

「ふーん……。ありがとう。あとで必ず返すね」

 とマリちゃんはお辞儀をするとさっと立ち去ったので私もついていく。去り際に緑川さんが小首をかしげたのも仕方ないことだなぁと苦笑いしちゃった。


 そして最後の北沢くん。

 彼はまだ戻ってきていない。あと5分で予鈴がなるのになぁ。

「ホント、もうすぐ中学生だってのに、いつまでもおこちゃまね」

 とやや疲労感を顔に見せながら、ミキティが合流した。

「ちょうどいいよ」

 とマリちゃんは机の中から、北沢くんの筆箱を取り出した。机の中は教科書とか、くしゃくしゃになったプリントとかでいっぱいのぎちぎちだ。

 奥の方からカッチカチのパンとか出てきそう。

「うわ、なんでこう男子って片付けできないのかしら」

 ミキティがむすっと言う。

「筆箱の中もこれ……こんな短いえんぴついる!?」

 大事に使ってるってことじゃないの?

「その割には数字を落書きしたり、カッターナイフで無駄にブランド名部分だけ削ったりして遊んでるからそうとは言えないかもね」

 四面が黒くなった消しゴムはカバーがどこかに消えてしまって久しい感じを語ってくるね。固められた消しゴムのカスに、小さいカッターナイフ、それにやたらとキャップが入っている。色のあるものは赤色のボールペンだけ。水ノリは机の中にねじ込まれていた。

 きれいにノートを書いてる気配はないね。

「なるほどね」

 とマリちゃんは満足したのか筆箱のふたを閉じた。

 そして腕を組み歩き出した。

「何かわかったの?」

 ミキティがそう背中に問いかける。


 マリちゃんは、さっと前髪を払った。



「見つけたいものがあったからね」


 マリちゃんが見つけたかったものは一体なんだろ?


隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。


次回最終回!

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