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最終話 卒業文集を抱いて 後編

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。


「それは、はさみとかカッターナイフに決まってるでしょ?」

 ミキティが言う。「あれだけノートを切り刻んでたんだから」

 そっか。だとすれば、古瀬さんか北沢くんのどっちかが犯人ってこと? 北沢くんだったらいいけど古瀬さんだとなぁ……復讐がやりにくいよね。

「そんなこと冗談でも言わないで」

 私とミキティはひそひそと、まるで内緒話でもするかのように声を押し殺しながら、マリちゃんの背中を見ていた。

 なにか確信を得たマリちゃんは、教室のみんなから気配を消すようにしばらく何も行動に移らず、窓際の壁にそっともたれていたけど、やがて予鈴の騒々しさが校舎内を駆け巡ると同時に、あるクラスメイトに近づいた。



「なによ、こんなところに呼び出して」


 お昼休み、マリちゃんから校舎裏に呼び出されたのは、緑川さんだった。

「せっかくのお昼休み、卒業まであと少しなんだから、みんなと遊びたいんだけど」

 緑川さんは全身から嫌気を噴き出していた。

 そりゃそうだよね。私も正直に言えばそう。マリちゃんとお話したり、ミキティにいたずらしたりしたいけどさ。

「バカ! いま余計なこと言わないの」

「そのせっかくを台無しにしたのは緑川さん自身だよ?」

 マリちゃんはくたびれたアイデアノートと、テープのりを見せつけた。さっきここに来る前に買っていたのはテープのりだったんだ。

 緑川さんの瞼が開き、そして視線を自分の足元に降ろした。

 相手が小学生だと、わかりやすいね。

「このノート、確かにひどい目に遭ってる。でも切り刻まれた、というよりは破かれたようになってるでしょ?」

 マリちゃんがぱっと開いたページは、確かに切り口が、刃物できれいに切られた、というよりは手で破った時に近い感じ。

「確かにそうね。でもそれだと別に緑川さんじゃなくても、誰でも当てはまりそうだけど」

 とミキティがもっともらしい意見を言った。

「そう。でもこのページを見て確信したの」

 とマリちゃんが次に開いたのは、真ん中が、まるでドーナツのように穴が開いたページだった。もちろん、ドーナツほどきれいな円状ではないけどね。

「確かに手でも、工夫すれば誰でもできるかもしれないけど、このページに、証拠が残っていた」

 と、次に見せてくれたのは、その隣のページ。

 真ん中あたりに、その穴を綺麗に埋めてくれそうな破片が、貼りついてる……!?

「え? のりってこと?」

 ミキティが言った。

 のり?

「そう」

 マリちゃんがこくりと肯いた。「刃物を使って切り裂いたわけではなくて、2つのページをしっかりと貼り合わせて、それを開けば、自ずと不自然に破れる」

 確かに、紙がささくれたようになっている場所があったね。まるで紙の表面の薄皮をめくったように。

「のりを使って貼り付けてるわけだから、ゴミが散らかることもない」

 ゴミ?

 ミキティが腕を組んでうーんと首を斜めに傾けながら、

「まぁ細かくちぎったりしなければゴミはでないんじゃない?」

「もちろんそれはある。でも勢いよく破ればどうしても破片はできちゃうと思うし、誰かが来るかもしれない緊張感の中、ちまちまと破り続けることは大変だと思うよ」

 うーんなるほど! まだ私はよくわかっていない。

「でっ、でも! 他にのりくらい持ってる人はいるわ!」

 と、ここで緑川さんが反撃してきた。

 でもその通りというか、北沢くんも水のり持ってたよね?

「水ノリだとそんなにすぐ乾かないし、紙がふやけるでしょ?」

 そうそう! ノートとかぽこぽこしちゃって嫌なんだよねぇ。だから私はスティックタイプののり派だよ。

「もちろん、スティックタイプののりだと乾くのは早いけど、今日、真田くんより先に登校していたという3人の中には持っている人はいなかった。一方でテープのりを持っていたのは緑川さんだけ。そして刃物を持っていなかったのも緑川さんだけ」

「……」

 緑川さんは、すっかり黙ってしまった。

「でも……」

 ミキティがさらにうなった。「なんでそんな面倒くさい事するわけ? あんたも言ってたけど、手で破けばよかったんじゃないの?」

 そうだね。さっきのマリちゃんの説明が、それを示してるのかもだけど、手間だとは思うね。

「……ここからは私の想像。いや、妄想になるけど……」

 マリちゃんは傷ついたノートを優しく開いて、改めて穴の開いたページを見せた。

「他のページはもしかしたら手で裂いたのかもしれない。でもこのページだけはノリでくっつけたんだと思う。そして、このページを裂いてしまったのは、緑川さんではなくて、真田くんになるんじゃないかな?」

 緑川さんがキッと睨みながら顔を上げた。

 でも、マリちゃんは今まで大人の悪い人たちと立ち向かってきている。経験が違うというのかな?

小学生の女の子に睨まれたくらいで、語ることをやめたりはしなかった。

「このノートはサキちゃんと真田くんが二人力を合わせて作ったノート。そんな二人のノートを、自分たちで引き裂かせようとした。引き裂かせたかった……」

「え?」

 それって……。

「やめて!」

 緑川さんの涙声の向こうに、単純ではない怒りが見えてくる。

「悪かったわね! 私がやったのよ! もうそれでいいでしょ!?」

「はぁ? ちょっとなに――」

 ミキティが反射的に言い返そうとするのを、マリちゃんが手で制した。

「ごめん。私が悪かった。妄想話を無責任にするべきじゃなかったね」

「うるさい! どうせあなた本人に言ったんでしょ!? もうおしまいだわ……」

 緑川さんの感情が揺れている。顔を手で覆い、涙を隠していた。

「言わないよ。言って私が得することもないし」

 私からすれば、このマリちゃんの言い方は、私の好きなマリちゃんらしくはない。でも、それが返って緑川さんには効果的だったのかもしれない。

 緑川さんは冷たい砂利の上に、構わず膝をついた。

「私は……」

 マリちゃんが、今度はゆっくりと、そっと緑川さんの肩に手でも添えるように言う。

「よくわからないし、自分じゃない誰かの心の中なんて永遠にわからない。でも、今までの経験上、誰かを傷つける選択肢はきっと間違っていて、相手が喜ぶ選択肢がきっとふさわしいんだと思うよ」



 緑川さんは、私たちが立ち去った後もしばらくは教室に戻ってくることはなかった。戻ってきたのは授業が始まる直前だった。

 その日は何か話しかけてくることはなかったけど、もうノートを破るようなことはしてこなかったので、私は水に流すことにした。


 私ってば粋だねっ!

 まぁ卒業文集の作成もなんとか始められることになったしね。いつまでもうじうじしてても意味ないもん。

 ノートが破かれた件に関しては、クラスメイトみんなが知っているだけにどうしようかと思ったけど、放課後真田くんがみんなの前でこう言った。


「ごめん、あのノート、実は破ったのは僕なんだ」


 突然の告白に、クラスメイトの目が点になったことは言うまでもない。

「実はさ、資料をスクラップして貼り付けるために使ってたのりがノートごとくっつけちゃったみたいで……勢いあまって開いちゃったものだから破れたんだ……。はっとひらめいた時にはもう、被害者みたいな言い方で騒いじゃった後で……ホントごめん!」


 その言葉に、最初は「おいおーい!」とか男子が数名煽るように騒いでもいたけど、次第に笑い話というか、卒業前のちょっとした思い出となっていった。

 真田くんがその時緑川さんのことを見ていたのかどうかは、私にはわからなかった。


 私たちは、あくまで、破った人がわかったことと、どうやって破ったかだけ、真田くんに伝えていた。犯人が誰かは、少なくとも私とミキティは言ってない。


 ――結局さ、緑川さんって真田くんのことが好きだったってこと?

「え? ま、まぁそうなるわね」

 マリちゃんとミキティとの帰り道。私がそう尋ねると、ミキティが変にソワソワし始めた。

 なにミキティ? トイレなら途中のコンビニかスーパーまで待って……

「違うわよ! あーもう! なんでわかってないのよ……その緑川さんがどうしてあんなことをしたのかって――」

「ミキティ、」

 マリちゃんが鋭くミキティを再び止めた。「緑川さんとの約束だよ。この話はもう推測でお話することじゃない」

 えぇ!? 私も気になる……。

 でもマリちゃんを怒らせたら怖そう……だし、あ、想像したらぞっとする……。もういいや。この話はおしまい。


 でも、私もいつか、誰かを好きになることがあるのかな……。もうじき中学生だしねぇ。まぁお友達の中には好きな男子がいるこの方が多いし、付き合ってる子もいるから。私も自然とそうなるのかなって思ってるけど。

 ていうか、マリちゃんはどうなんだろ? 私がこんな考えだから、恋バナとかしたことないけど、マリちゃんに好きな男子とかいるのかな?

 うーんでもなあ、マリちゃん大人だから、同級生の男子とかはねぇ……。高校生とか? 大人すぎる!

 ていうか、マリちゃんに好きな男子がいて、付き合ってってことになったら、ちょっぴり寂しい……。いや応援しなきゃなんだけどね?


 まぁ、その時はその時だね。今想像したら寂しさで泣きそうになるからやめておこう。

 それよりもミキティ、文集の中に将来の夢を書くところあったでしょ? 何にしたの?

「言わないわよ! っていうか、あんた係なんだから知ってるでしょ!」

 寒さのせいだけではない、ミキティの耳が赤いのは。一体どんな夢を書いたんだろ?

 でもほんとに知らないの。真田くんが、「男子は菱島さんが、女子は僕がまとめるよ。友達同士で知ってる知らないってなると気まずくなるかもでしょ?」って言うから……。完成までのお楽しみなの。

「へぇ~。真田くんって紳士なのね」

 マリちゃんも書いた?

「え? あんた探偵じゃないの?」

 ミキティがいたずらっぽく笑って言う。

「なんでよ……」

 わ、マリちゃんがツッコミをぉぉ!? アハハ。

「確かに珍しいわね! あははは」

「……もう言わないよ」

 マリちゃんがぷっとほほを膨らませて、ランドセルのベルト部分を固く握ると、つたつたと歩き出した。

 私とミキティは、顔を見合わせると、お互い自然と笑いながらも、慌ててマリちゃんを追いかけるのだった。




 さぁ、来週は、いよいよ卒業式だ……。

 ホント、色々あった6年生。こんなに濃密な6年生を過ごした人、なかなかいないんじゃない!?

 そんな私たちの卒業式って、一体どんな卒業式になるのかな……。

マリちゃんたちが一体どんな卒業式を迎えるのか……。


きっと、色んな不思議な出来事が起きるのだと思います。

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