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もみじに降る雪

 そこらじゅうにある木々が、そろって赤や黄色に色づく場所、秋色軍の領土。紅葉は、単なる領土の持ち主を示すだけの無意味な記号に過ぎない。だから綺麗じゃない。

 だけどこの風景こそが、秋色軍隊長の彼女に一番よく似合う。春の暖かさより、夏の眩しさ、冬の美しさより。秋の静かで鮮やかな色彩がふさわしい。

 

「光季。えと、作戦会議の時間ですよ」

 

 名を呼んでくるのは、控えめで優しげな声。廃墟の陰から顔を覗かせるのは、秋色軍隊長のいろはだ。

 

「おう」

 

 光季が歩き出すと、小さく笑ってちょこちょこした大きくない歩幅で先を行く。隊長なのに偉そうなところがまったくない彼女だからこそ、光季をはじめ隊員たちに慕われているのだ。

 

 今回の作戦会議は、秋色軍の能力者だけが集まる予定だ。

 各季節軍には何人か能力者がいる。ここ秋色軍は三人。所属人数が多くない上、さして領土も広くない秋色軍では、それなりに続けていける。

 

「今日の議題? は、次の交戦についてです。今、春芽軍と冬白軍が衝突寸前ですよね。そこを攻めたいと思います」

「特攻部隊の編成か?」

「はい。それです」

 

 答えて、いろはが穏やかに微笑む。

 たいてい同じくらいの歳の相手にも敬語を使う奴は、光季の言葉遣いにさえ怯えたりする。それに物怖じしないいろはという相手は、光季には好ましく思えるのだ。

 

「はいはーい。舞は二人の意見に賛成するよー」

 

 会議室代わりのあまり広くないこの部屋の、丸いテーブルにぐでっと突っ伏した少女がそう言う。

 長い茶髪を高い位置でツインテールにしている、秋色軍のもう一人の能力者、秋色 舞だ。

 

「まだその意見が出てねぇんだろうが」

「そうですね……。きっと両軍とも不意打ちには警戒しているでしょうから、手薄なところを狙うのがベストですよね」

 

 舞と違って、いろはの案にはそこそこの具体性がある。もっとも、頭脳労働担当が少ない秋色軍の作戦立案は、いつもざっくりしている上に結局ほとんどをいろはが決める。

 

「今回の狙いは領土を奪うことじゃないんです。動揺させて、両軍の衝突後の隙を叩くことです」

「そだねー。じゃあ、みんなで行こうよ」

「え?」

 

 へにゃりと笑った顔で、舞は不思議そうないろはの目を見つめ続ける。

 

「舞と、はーちゃんとみーくんで。うまくいったら、領土もれるかもよ?」

 

 光季はそこまで楽天的にはなれないが、舞の案は悪くなかった。考えるのが苦手な光季は、いつだって作戦に従い、必要とあらば臨機応変に対応するだけだ。

 全ては秋色軍――つまりはいろはのためだ。

 

「おれは賛成だ」

「ホント? めずらしーい、みーくん」

「うっせ。いろは……じゃなくて秋色軍のためだろ」

 

 目を逸らして、光季は二人から赤くなった顔を隠す。いろはは何もわかっていないきょとんとした表情になり、舞は楽しそうににやにやと笑った。

 

 一時間後、三人が向かったのは冬白の領土だ。秋色と接しているこの場所は、枯れたもののまだ紅葉の色が残っている葉に、うっすら雪が積もっている。

 それを横目に、光季たち三人は舞の能力『金木犀』で姿を消しつつ進む。隠密行動は秋色の特色で、他の軍にはない強みだ。

 

 そして三人の視線の先、巡回中らしい女性が歩いている。迷い込んだ人々を戦わせるために存在する流巡では動きにくい格好、名前はよく耳にするが実際見ることはないメイド服だ。

 彼女の名は冬白 夜半よわ。冬白軍の能力者であり、隊長冬白 霜月の右腕。その戦闘力は冬白軍最強を誇っている。

 

 目配せするいろはにうなずき返す。相手にとって不足なしだ。

 武器を構え臨戦体勢になると、いろはが左手首にあるコスモスの花に触れる。瞬間、光季たちの姿はその場から消え去り、夜半のすぐ近くにいた。

 

「たあっ!」

「……!」

 

 気配に気づいた夜半が振り返る。取り出す時間の短縮のためか、最初から手に持っていた斧の刃と柄で光季といろはの攻撃を防いだ。次いで襲ってくる舞の矢も素早く躱し、体勢を立て直して光季たちに向き直る。

 

「秋色軍の方々ですね。ご無沙汰しております」

「相変わらず余裕だな、メイド女」

「光季様、メイドという時点で女性なのですが。いつまでも直して下さいませんね」

 

 光季たちの三人がかりの攻撃を、夜半はものともせずに避けた上で会話をする。能力なしでの戦闘力は、夜半は流巡でも最高峰だ。

 それでもまだ、数で勝っている分光季たちが有利だ。

 

 光季の剣が描いた軌跡の隙間を縫い、いろはの銃が火を吹く。夜半が大きく後方に下がるのを逃さず、舞の放った矢が狙う。それを夜半は斧で弾き返す。

 

「軌道がわかりやす過ぎますよ、舞様。もっと読まれぬようにしなくては」

「もう! だから夜半の相手ってやだ!」

 

 そんな舞の後ろから、戦闘に割り込む影一つ。

 

「避けろ舞!」

「わぁっ!?」

 

 一瞬前まで舞がいた場所に、レイピアによる鋭い突きが繰り出された。咄嗟に光季が襟首を引っ掴んでいなければ、舞の花は落とされていただろう。

 

「助太刀が必要ですか? 働き者のメイドさん」

「結構です。……と言いたいところですが、感謝いたします。フィエルード様」

 

 現れたのは、フィエルードだった。

 こちらは部隊こそ持っているが、彼のやる気次第でしか活動しないという一風変わった部隊である。そのため、夜半はともかくフィエルードが一人でいることに意外性はない。

 

「いろは、どうする?」

「戦闘続行です。まだ、負けてません……から」

「そうこなくっちゃな」

 

 いろはの『コスモス』で瞬間移動をした光季が、夜半とフィエルードの背後をとる。振りかぶった剣が、銀の光を反射した。

 一閃した剣はしかし、彼らの花に傷をつけることはなかった。

 

「そろそろ、お嬢様の元へ戻らなくては。……秋色軍の皆様、お覚悟くださいね?」

「……! 光季、舞、撤退しますよ!」

 

 夜半の手首にあるポインセチアが炎を纏った途端、いろはがそう判断した。

 夜半の能力は強力だ。しかも、相手方にフィエルードという援軍もいる今、それは間違っていない。

 

 いろはの『コスモス』で離れた距離に移動すると、先程まで戦闘をしていた辺りに、炎が現れた。夜半の能力、『ポインセチア』だ。

 

 冬白軍は戦闘の方針上、相手をしつこく追うことはない。しかし今回は領土こそ奪われなかったものの、当初の目的からすれば秋色軍の負けだった。

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