第五十話
ロギにルシアを賭けて勝負するように言われるハヤト。
しかし、ハヤトは元の世界に帰ろうと必死だった。
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「お、おい、俺はまだ受けるなんて一言もいってないぞ?」
「ふふふ、今更、言い逃れることなんてできないよ。僕のルシアと散々イチャついてたくせに。今日こそ決着をつけようじゃないか」
俺は、ロギと勝負をする気はない。
というより、勝負するまでもない。
ルシアは俺のことが嫌いだったのだから。
「ちょっとぉ、勇者さん、一人で勝手に行かないでくださいよぉ、ってロギ様!? なんでこんなところにぃ……」
俺が勝負を渋っていると、レグシーがルシアと共に部屋に入ってきた。
俺は、ルシアから目をそらしてしまう。
ルシアのことが、あんなに好きだったのに――。
嫌い、と、そう言われただけで、こんなにも胸が苦しいなんて――。
「お、俺……もういいんだ、元の世界に帰るよ、それが一番良いんだ、俺は、俺は――」
「ノリが悪いなあ、勝負を受けてくれなきゃ、君を元の世界へは帰さないよ! さあ、僕とルシアを賭けて勝負しようじゃないか!」
俺が弱気に言っても聞く耳を持たないロギ。
やはりあの時のマナブは、ロギだったのだろうか、俺のことはお構いなしだ。
「な、なんですかぁこれ。何がどうなってるんですかぁ?」
「ふふ、勇者をここまで案内ご苦労。君が勇者の世界へ行ったことはラグールから聞いて知っていたよ。こうなることも予想通りさ。まあ、対魔ネックレスまでつけていたことは少し予定外だったけどね」
何がどうなってるのかわからないレグシーは困惑気味だ。
その横で、ロギが淡々と語る。
く、全てはコイツの手のひらの上か。
だとしたらなぜ――?
「だったら、何故妨害することもなく勝負なんだ? 知ってたなら、俺を泳がせておく必要もないだろ!」
「そうだね、僕は君に嫉妬していた。だから、ルシアに帰ってきてもらうように結婚の話も一人で勝手に進めた。君が他の女の子と仲良くしている、と嘘までついてね。けど、気付いたんだ。こんなことじゃルシアを幸せになんてできない。君と真剣勝負をして勝ち取らないと意味がないんだよ!」
ルシアが急に帰ると言い出した理由は、ロギだったのか。
良かった――。
俺のせいじゃ、なかったんだ――。
俺は、不安だった。
俺のせいで、ルシアが帰ったんじゃないかって、そう思ったからだ。
ルシアが今、俺のことをどう思っているかはわからない。
さっきの言葉通り、もう嫌いになってしまったかもしれない。
けど、もしそうだったとしても――。
俺は、もう逃げないッ!
ルシアがまた俺のことを好きだと言ってくれるまで、俺はもう決して逃げたりしないッ!
「わかった、勝負をしよう。俺が勝ったら結婚の話はナシ、それでいいんだろう?」
「ふははは! やっとその気になってくれたようだね。それでいい。だが僕は負けないよ!」
おっと、勢いで勝負を受けてしまったが、何の勝負をするのだろう。
まさか魔法勝負とか言わないよな?
「じゃあ、僕からいくよ。闇の光に照らされて、我が力を持って滅ぼさん! ≪闇太陽光!≫」
……ッ!
俺の周りが一瞬で暗闇に包まれた直後に眩しいくらいに光り輝いた。
死んだかと思ったが、なんともない。
なんだ今のは? そもそも闇なのか光なのかはっきりしてほしい。
「ふむ、僕の究極魔法すら効かない、か。ラグールの話は本当だったようだね。今のは、冗談だよ、冗談。魔法が使えない君と魔法勝負をしても意味がないからね」
「じょ、冗談で済まされるかッ! もし俺が死んだらどうするんだよ!」
確かに俺は、攻撃魔法がなぜか効かない。
それでも、万が一ということもある。ヒヤヒヤさせないでほしい。
「むしろ殺すつもりで打ったんだけどね、君がいなくなればルシアは僕のものだしさ。まあ君に魔法は通じないようだし、別の方法でケリをつけよう。そうだな、ルシアを先に笑わせたほうが勝ち、というのはどうだい? もちろん魔法を使ったりはしないよ、言葉だけで笑わせるんだ」
冗談なのか本気なのか恐ろしいことをさらっといった。
それにしても、肝心の勝負がルシアを笑わせる……?
見るからに不機嫌な顔をして黙ってるルシアを笑わせるなんてできるのだろうか?
「まずは僕の番だ! 太陽の日差しが強い、肌がいたいよう! なんちゃって!」
冷たい風が吹き抜けた。
ロギはアホか、アホなのか!
ここにきて、そんなダジャレでいいのか魔界の王子!
と思いつつも、不安になってルシアのほうを見る。
呆れた表情のまま固まっている。
「ふむ、僕のとっておきのダジャレだったんだが笑わなかったようだね、次は君の番だ」
ちょ、もう俺の番かよ。
てかロギよ、お前は本当にあんなんでルシアが笑うとでも思っていたのか?
あんなんで笑うのはユウジくらいだ。
と、思ったら空気の読めないレグシーが笑い転げているのが見えた。
そんなことより、どうしよう。
「もう、いい加減にしてください! なんなんですか、意味が分からないですよ! やめてください、私は、こんな勝負を望んでいません!」
俺が考え込んでいると、ルシアがついに口を開いた。
なんか怒ってる?
「……ルシア、ごめん。俺、俺――、ルシアのことが忘れられなくて、どうしてもまた会いたくて、結婚するなんて聞いて、いてもたってもいられなくなって、それで、それでここまでやってきた。そんな悲しい顔をされるなんて思ってなかった。だから、笑ってなんて言えないし、笑わせることなんてできやしない。でも、これだけは伝えておきたい。俺は、ルシアと過ごした時間が最高に幸せだった! 俺、俺……優柔不断だし、ムッツリだし、ヘタレだし、女たらしで最低な男だけど、ルシアのことが好きだから――だから――ロギとの結婚は考え直してくれないか!?」
咄嗟に俺は、ルシアに言いたいことを言っていた。
俺はルシアと一緒に居れただけで、それだけで本当に幸せだったのだから――。
自分を偽らずに、自分の気持ちを吐き出していた。
こんなことを言う資格なんてない、そんなことはわかってる。
でも、今言わないと、後悔する――、そう思った。
考えるよりも先に言葉がでていたのだ。
「……、全く、いきなり現れたと思ったら、走って部屋から出て行って……ロギと勝負なんてアホなことしだして、何を言うのかと思ったら……。バカね……ハヤトは、本当バカですね……。ふふ、私も……幸せだった。嫌いだなんて嘘です、ハヤトのことを今でも好きだなんていったら、決心が鈍るから、そう自分に言い聞かせた。でも……私はハヤトのことが好きです。大好きです! 異世界に行ったのだって本当は、ハヤトに会いたかったら、それだけだったんです。でも、でも、私は自分に自信がなかった、だから――」
ルシアは、泣きながらも口元は笑っていた。
良かった、俺のことを嫌いになったわけじゃなかったんだ――。
「ふー、僕の負けだよ、ハヤトくん。まあ、こうなることもわかっていたけどね。僕が何をしようともルシアの心は掴めなかった。ルシアが君のことを好きなのもわかっていたよ。それなのに、二人は互いに気を使うばかりで、ちっとも前に進もうとしない。そんなんじゃ僕も、諦めがつかないからね。これでハッキリした。ルシアを幸せにできるのは君しかいないよ!」
ロギがあっさりとそう言った。
もしかして、俺がグズグズしてたから、わざと勝負をけしかけたのか?
こうなることも全部わかっていて――。
「ありゃぁ、なんだかよくわかりませんが、レグシーちゃんの作戦大成功ってことですかねぇ?」
さっきまで笑い転げてたレグシーが、きょとんとしながらそう言った。
「ふふ、そうだな、レグシーには敵わないよ。よし、今夜は宴だ、今までの詫びも兼ねて盛大にやらせてもらおう」
ロギがあっけらかんとしてそう言った。




