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第四十九話

 ルシアに好きでないと告げられたハヤトは、透明化したまま茫然としていた。


---


「ちょっとぉ、そんな嘘ついていいんですかぁ? もっと素直になりましょうよぉ」

「嘘じゃないです、あんな女たらし大嫌いです!」


 レグシーがいつものほんわかした口調で言う中、ルシアは怒ったようにそう繰り返す。

 お、女たらし……?

 そんな風に思ってたのか、ショック。


 というか、もうこれ完全に終わったんじゃね?

 結婚をぶち壊すどころじゃないよ。

 俺、完全に嫌われてるみたいじゃん。


 もう合わす顔がない。

 このまま……、透明のまま、元の世界に逃げ帰りたい……。


「え……? は、ハヤト…………!?」

「ん? あ…………」


 そう思っていた俺が、魔法石の効力が切れたのか透明じゃなくなっていた。

 半泣きで茫然と立ち尽くしているところで、ルシアと目が合ってしまったのだ。


「お、おう……ルシア…………、ごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだが……」


 俺が気まずい空気の中、そういった。

 もう俺の心は、完全に折れている。

 結婚をぶち壊そうなんて気持ちはなくなっていた。


 まさかルシアが俺のことを嫌いだったなんて……。

 あの時、好きだといってくれたのは俺に気を使って嘘を言っただけだったのだろうか。


 ルシアは俺の目を見ようともしないでうつむいていた。


 せっかく、会えたのに。

 もう二度と会えないと思ってたのに。


 それなのに、こんなことを言われるなんて夢にも思わなかった。

 そんな悲しい顔をされるなんて思っていなかった。


「ご、ごめん……俺、元の世界に帰るよ…………」


 そんな悲しい表情をしているルシアを見たくなかった。

 いや、俺のことを嫌いだったという事実を受け入れたくなかった。


 俺は、ルシアの部屋を飛び出していた。

 また、逃げ出したのだ。


 魔法使いラグールのところに行けば、異世界に帰れるはずだ。

 異世界に初めて召喚されたあの部屋に行こう。


 もう何も見なかったことにして帰ろう。

 レグシーには悪いけど、俺、もう、もう無理だ。


 ルシアにあんなこと言われたら立ち直れないよ。


「ラグール、いるか!?」

「…………なんだ騒々しい、いつぞやの小僧じゃないか。こっちに来ておったのか」


 ラグールの部屋へ入ると、すぐさまラグールの名を叫んだ。

 奥のほうから魔法書を片手に出てきた。

 無口なラグールにしては、割と好意的に感じた。


「俺を、元の、元の世界に帰してくれ! 今すぐ!」

「…………どうしたんだ急に。この世界に何か用があってきたんじゃないのか?」


 ラグールは、落ち着いた様子で淡々とそう言ってくる。

 早く逃げ帰りたい俺は、気持ちばかりが焦っていた。


「フフ、相変わらず騒々しいね君は」


 奥のほうからゆっくりと顔を出したのは、魔界の王子ロギだった。


「ろ、ロギ……? ああもうこの際お前でもいいや、元の世界に俺を帰してくれ!」


 もういいんだ、何もかも終わりだ。

 結婚をぶち壊すなんて、俺には無理だったんだ。


「理由も聞かずにそれはできないなぁ、どうして君がここにいるんだい?」

「え、えっと……そ、それはその……」


 本当のことを言えるはずがない。

 俺は口ごもってしまった。


「ふー、やれやれ、自分の口から言いたくない、か。僕の結婚を壊しにきたんだろう? 違うのかい?」

「え……、どうしてそれを…………?」


 ロギは心でも読めるのだろうか。

 俺がどうしてここにいるかを知っている様子だった。


「これでも魔界の王子だからね。情報収集は欠かさないようにしてるんだよ。それで、帰るってことは、ルシアのことを諦めると解釈してもいいのかな?」

「あ、ああ、そうだ。というか俺はルシアに嫌われてたみたいだしな。……ルシアのことをよろしく頼む」


 ロギは、落ち着いた様子でそう語る。

 ルシアは、ロギと結婚して幸せになってくれればそれでいい。

 最初から、俺なんて必要なかったんだ。


「残念だなぁ、君との勝負、なかなか面白かったのにな。今日で最終勝負といきたいところだったのに。帰っちゃうんだ?」

「何言ってんだよ、お前と勝負なんてしたことないだろ」


 ロギと会話なんてほとんどしたことがない。

 まして勝負なんてするわけがないのだ。


「ふははは! 僕とルシアさんを賭けて勝負しようじゃないか!」


 ロギが急に将棋部部長のマナブとそっくりの姿へと変身した。

 俺は、突然の出来事に唖然としていた。


「どうだい、僕の魔法。すごいだろう? それで勝負してくれるのかな? 今日こそ決着をつけようじゃないか!」

「い、いや、まてまて、おかしいじゃないか! なんでお前がマナブなんだよ!」


 もうわけがわからない。

 マナブは異世界人だったのか?


「ふははは、姿をソックリに変える魔法があるのさ! 姿を消してるだけじゃ面白くなかったからね。マナブという少年に成り済まし、何度か君と遊んだってわけさ。楽しかったなあ、勝負は毎回負けてしまったけどね。まあ姿を変えると、能力もその少年と同じになってしまうからしょうがない。今度こそ本気で勝負しようじゃないか。な、いいだろう?」


 そういうと再び元のロギの姿へと戻った。

 そんな魔法があってたまるか!

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