第二十八話
怒ったユウジを探しに校内を探し回るハヤト。
しかしユウジの姿はどこにもなかった。
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おかしいな、教室にもいないなんて。
まさか怒って帰っちゃったとかじゃないよな?
さすがにそこまではしないよな……。
でも、ユウジが怒るなんてよっぽどのことだ。
さっきのことだけじゃない。
ルシアやアカネのことばっかりで、ユウジの気持ちなんて考えたこともなかった。
冗談を言い合える唯一の親友なのに……。
あいつがいなかったら俺は今でも一人ぼっちだったはずだ。
中学の頃の親友は別の高校にいってしまって、次第に誰とも話さなくなってた。
そんなときにユウジが声をかけてきてくれた。
最初はウザったく感じてたが、徐々にそれが心地良いものになっていった。
人と話すことってこんなに楽しいもんなんだって、そう気づかせてくれたのに。
それなのに――。
そうだ、電話だ!
なんで気付かなかったんだろう?
俺は急いでユウジに電話をかける。
そういえば、俺は自分から電話を掛けたことなんてなかったな。
いつも電話もメールも、すべてユウジからだった。
「ユウジ、いまどこにいるんだ? おい?」
「……、なんだよ、もう話もしたくなかったんじゃないのか?」
いつもは元気なユウジの声が、その時は本当にか細く弱々しく感じた。
「そ、それはちょっと俺も言い過ぎた……ちゃんと謝りたいからどこにいるのか教えてくれ!」
「……、屋上、学校の……」
え?
ま、まさか自殺なんてする気じゃないだろうな?
いや、そんなあり得ないだろう。
でも、屋上にいるなんてほかに理由が思いつかない。
俺は急いで屋上へと駆け上がってった。
もう心臓が張り裂けそうだ。
俺のせいでユウジがそこまで思い詰めてたなんて……。
「ユウジ、待て早まるな!」
「……? どうしたんだ、そんな血相を変えて」
屋上に上がると、ユウジは一人屋上の柵を右手でつかみながら驚いた様子でこっちを見ている。
よかった、間に合った。
俺は、その場で土下座をするようにひれ伏した。
「ごめん、ユウジ! さっきは言い過ぎた! 本当にごめん! まさかそこまで思い詰めるとは思ってなくて……」
「は? ぷ、くくく……、あははは! あははははは!」
え?
あれ?
ユウジが思いっきり腹を抱えて笑ってる。
どうなってるの?
「え、だって俺がユウジにひどいこといったから、飛び降りる気だったんじゃ……」
「なんだそりゃ? 俺がそんなことするように見えるかってんだ! ぷ、くくく、あーおかしい! 俺を笑い殺す気かよ!」
ユウジは息を吸うのもつらそうなくらいゲラゲラと笑い転げている。
どうやら飛び降りる気なんてさらさらなかったらしい。
「じゃ、じゃあなんで屋上なんかにいたんだよ!」
「あー、それはだな……」
「あら? ハヤトくんも来てたんだ?」
れ、レイケツ!?
なんでここに?
後ろを振り返るとレイケツが不思議そうな顔をして立っている。
つまりここで密会してたってことなのか?
「あ、あれ? え、えーと……なんだよ、そういうことならそういえよ紛らわしい」
「そういうことってどういうことだよ。もしかしてバレてるのか?」
ああ、思いっきりバレてるよ。
証拠の写メまでばっちり残ってるし。
「ああ、知ってた。でも気付かない振りをしてた」
「なんだよ、言ってくれりゃあ良かったのに。いちいち隠すの面倒なんだよな。俺隠し事とか苦手だし……」
ユウジは頭をボリボリとかきながら、そうつぶやいた。
さすがにそれは聞いてはいけないことだと思うだろ。
「言えるかよ! でもユウジがレイケツのことを好きだったなんて意外だなあ」
「ん? 好きって何がだ?」
え?
好きじゃないの?
やっぱり無理やり言い寄られてるのか?
「だから、ユウジはレイケツと付き合ってるんだろ? もしかして好きでもないのに付き合ってるのか?」
「は? ぷ、くくく、あはははは! おいおい、やっぱり俺を笑い殺す気だろ? ぶはははは!」
なんでだよ、俺なんかおかしなこといったか?
笑うとこじゃねーだろうがよ。
「なんだよ、なにがおかしいんだよ! 俺は結構心配してたんだぞ。ユウジがレイケツに言い寄られて困ってるんじゃないかってな!」
「はー、ハー、あー苦しい! もうこれ以上笑わすのはやめてくれよ!」
笑わせてなんかいないんだが。
俺は大真面目だぞ。
そして、ユウジはまた苦しそうに笑い続けている。
レイケツも後ろを向いて肩をぶるぶると震わせて笑いをこらえていた。
「笑いごとじゃないだろ! いったいどういうことなんだよ?」
「あー、まあハヤトには言っておいてもいいか。ここだけの話だからな、他の奴らにはいうなよ?」
一通り笑い終えたユウジがようやく真実を語りだした。




