総集編(第12話~第16話)
引き続きルシア視点での総集編です。
「おーい、ルシアー、いい加減起きろー、次は美術だから移動だぞー」
「ふぁ!?」
いつの間にか寝ていたらしい。
昨日の夜あまり眠れなかったからかな?
「美術、ですか。私、芸術系は苦手で……」
「まー、見てるだけでもいいんじゃないか? ただあんまり寝てばかりだと怒られるぞ?」
「す、すみません……昨日よく眠れなかったのでつい」
私は美術は苦手だ。以前一度絵を描いたときはみんなから笑われたことがある。
それにしても寝るのはやっぱりまずかったかな?
ハヤトが少し怒ってるようだった。
「ハヤトだって寝てたじゃないか、二人並んで寝るなんてほんと仲がいいんだな!」
「あ、あのユウジ様は、その、ハ、ハヤ……ハヤトの親友なんですよね?」
「あー、そうだぞー! 高校入ってきてぼっちだったハヤトを俺がだな」
親友かあ。ちょっとうらやましいな。
私はずっと独りだったから親友はおろか友達さえいなかった。
「あー、もうチャイム鳴るぞユウジ。早く移動したほうがいいんじゃないか?」
「あ、しまった! ルシアちゃん、また後でな!」
いいなあ。こういう風になんでも言い合える仲なんて。
「面白い人ですね、ユウジ様」
「いや、だから名前は様付じゃなくていいぞ? ユウジなんて呼び捨てでいいから」
私は咄嗟にそういっていった。
特に深い意味はなかった。
「なあ、ルシア、もしかして……」
「なんでしょうか?」
「あ、いや、なんでもない」
ハヤトが何かを言おうとしてやめてしまった。
私がハヤトのことを好きだということに気付かれてしまったのだろうか。
そうだとすると、ハヤトを混乱させてしまうことになるだろう。
「なぁ、ルシア。本当に帰る方法はわからないのか?」
「え? えっと……その…………」
帰る方法はわからない。
けど、ロギがそのうち迎えに来てくれることはわかっている。
なんといえばいいんだろう?
「んー、まあ帰る方法がわかってたら帰ってるよなぁ」
「あ、いや私はユウ…………」
勇者様と一緒にいたい――。
そんなことを言いそうになったが慌てて押し黙る。
これ以上、迷惑をかけるわけにはいかないのだから。
「あー、言いたいことはなんとなくわかる。でもなあ……」
「…………」
やっぱり私の気持ちに気付いてるらしい。
でも他に好きな人がいる、それで困っているようだ。
こんなつもりじゃなかったのに――。
ハヤトを困らせるつもりなんてなかったのに――。
私はどうすればいいか見出せないままお昼休みとなった。
学食に連れて行かれると、そこには見たことのない料理のサンプルが並んでいた。
「わー、すごいいろいろな食べ物がありますね」
「おごるから好きなの食べていいぞ」
ちょっと落ち込んでたけど異世界の食事ということで私は少し嬉しくなっていた。
「ここ空いてます?」
「ああ、どうぞー……あ」
そういって座ってきたのは、今朝ハヤトと話をしていた女の子。
ハヤトの彼女――?
「ルシアさん、だっけ。初めまして、私アカネです」
「は、初めまして。ルシアです」
アカネっていうんだ。
でもなぜ私に挨拶を?
「ルシアさんはハヤトくんとどういう関係なんですか?」
「どういうって……ハヤトは私の命の恩人です」
ハヤトは私の世界を救ってくれた勇者様です、と言いたかったが異世界の話はしてはいけないということなので言葉を少し変えた。
「ふーん、恋人ってわけじゃないんですよね?」
「え? あ、違います、そ、そんなんじゃないです」
あ、やっぱりアカネはハヤトの恋人のようだ。
私に取られると思って警戒してるのかな?
そんなつもりはないのに――。
「おーい、お昼くらい楽しく食べようぜ。ハヤトの取り合いで熱くなるなって!」
「…………」
「そうね、今はお昼だし楽しく食べましょうか」
「すみません、私、何か気に障ることでもしましたか?」
ユウジが仲裁してくれてるようだった。
でもアカネはどこか攻撃的に私に言ってくる。
カチンときて私もつい言い返してしまった。
別に私ハヤトを取る気なんてないのにそんな言い方しなくてもいいじゃない。
「はいはい、やめやめー! どうしたのお二人さん、可愛い顔が台無しだぜ?」
「ハヤトくん今朝の話なんだけど」
「あ、えっと、その……」
「今日の放課後、あの場所で待ってるから」
私のせいで誤解されてる?
私とハヤトはそんなんじゃないのに――。
私が一方的に好きなだけなのに――。
「ごめん、なんか気分悪くしちゃったか? なんなんだろうな、アカネのやつ。そうだ食べ終わったみたいだし中庭でも行こうぜ、外の空気でも吸って気分転換しよう」
そういわれて、私は何も言えずにただ中庭へとついていくのだった。
「ちょっとハヤト、話があるんだけど?」
また見知らぬ女の子がハヤトに話しかけ、そしてハヤトを連れてどこかへ行ってしまった。
私がいることでハヤトに迷惑をかけている――。
そう感じた。
やっぱり、もう帰ろうかな。
ふと隣を見るとハヤトの親友であるユウジがいた。
「あのユウジさん。ハヤトはいつもあんな感じなのでしょうか?」
「え? えっと、いや今日は特別だ。いつもは女子なんかには全く相手にされないようなやつで……」
普段のハヤトのことが気になり聞いてみた。
いつもは違うらしい。
私がいるせいでハヤトが迷惑してる?
「そうですか……ハヤトはアカネさんと付き合ってるんですか?」
「え? いや、そんなことはないぞ。てかルシアちゃんが彼女じゃないの?」
確認しておきたかった。
でもその反応は私の思っていたこととは違っていた。
二人の関係は秘密なのだろうか?
「いえ、私は彼女じゃありません……。私は……」
「んー、でもハヤトはルシアちゃんのことが好きだと思うぜ? もっと自信持ちなって」
私はただの異世界の王女。
ハヤトにとってはただそれだけの存在なのだろう。
ハヤトは私が好きなことを知っていて困っているのだから、私のことを好きなはずがない。
そう思うとまた少し涙が込み上げてきていた。
「ふふ、ありがとうございます。でもハヤトは私なんかよりアカネさんのほうがお似合いですよね」
「どうだろうなあ。俺も今日いきなりハヤトがモテモテになって正直わけわかんねーや」
私は悲しみを押し隠すかのように必死に笑って見せた。
そう私なんかよりアカネのほうがずっとお似合いなのだ。
私はハヤトにこれ以上迷惑をかけられない。
「……私、用事思い出したんで失礼しますね」
「ん、そうか。まあハヤトのことで何か相談したいことあったらいつでも俺が乗ってやるからよ!」
そういって私はその場を立ち去った。
元の世界へ帰るために――。
「ロギさん、いますか?」
「ああ、いるよ」
そういうとロギが姿を現した。
「私、もう帰りたくなっちゃった」
「……勇者のことはもういいのか?」
もういい――。
私はこれ以上ここにいたくない――。
いつの間にか雨が降り始めていた。
「ええ、帰りましょう」
「……ちょっと待て」
なんだろう?
「勇者はお前のことを探してるみたいだぞ?」
「え?」
そんなわけない。
私のことなんて気にもしてないはず。
いなくなったほうがいいと思ってるはず――。
「もう一度、会いたいって、そう叫んでるぞ」
なんで――?
どうして――?
「いかないのか?」
「で、でも……」
私がいたら迷惑なんじゃ――。
「いってやれよ、帰りたくなったらいつでも帰れる。けどな、このまま帰っても後悔するんじゃないか?」
「……そう、かもしれない。ごめんなさい、ロギさん、帰るのはまた今度で」
そういって私はハヤトの元へと走っていった。
雨に濡れるのも構わず、無我夢中で走っていた――。
中庭で倒れこむハヤトを見つけてすぐに駆け寄った。
「ハヤト……、ごめんなさい、私……」
「え……?」
ごめんなさい、ハヤトがこんなに心配してくれてるなんて思わなかった。
私のわがままのせいで――。
「良かった、ルシアにまた会えて……良かった…………」
そんな私の不安を払拭するかのようにハヤトが優しくそうつぶやいたのだった。




