第九話
ハヤトはルシアと一緒に教室に入る。
するとそこには昨日ハヤトを振ったアカネの姿があった。
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「あ……」
チラリとアカネの姿が目に入る。
こちらには気づいていないようだったが、ふと昨日の出来事が脳裏に浮かぶ。
そういえば昨日、俺はアカネに告白して振られたんだったぁあああ!
それどころじゃなかったからすっかり忘れてた。
人生初の告白そして失恋を忘れてたってのもどうなの俺。
いやでもどうせなら忘れてたほうが良かったかもしれないな。
振られた後はものすごくショックだったはずなのに、今はそうでもない。
意外と俺打たれ強いのかな?
「どうしました勇者様? ここがそのキョウシツなのでしょうか」
「ああ、そうだよ……って勇者って呼んだらダメだってば!」
あー、さっそくやっちまった。
でもまだこっちには誰も気づいてないみたいだ。あぶないあぶない。
いきなり変な汗かいたわ、大丈夫なのかこれ。
「よー、ハヤト。また彼女とラブラブか? うらやましいなあ!」
「か、彼女じゃねえよ! てか大きい声だすな」
ユウジがまた声をかけてきた。
大きい声だしやがってアカネに聞かれたらどうするんだ。
まるで俺が手当たり次第に告白して彼女をゲットしたみたいじゃないか。
そもそも彼女じゃないし。異世界の王女様だし。
幸いアカネは他の女子と会話しててこちらには気づいてない。
それにしてもアカネは普段と変わった様子もないな。
俺のほうを見向きもしないし、告白されたことなんて覚えてもいないのか?
一世一代の告白だったんだが、それはそれで寂しいな。
まあ俺もすっかり忘れてたから人の事は言えないが。
「んー? ハヤトの彼女、さっきも制服着てたっけ? にしてもすげえ可愛い子だなあ、どこで知り合ったんだよ」
「だから彼女じゃないっていってるだろ。まあいろいろあったんだよ」
ったく、こいつもネッケツ同様話を聞かない節があるな。
俺は、とりあえずネッケツに話したようにあたりさわりのないようにルシアを紹介する。
「ほえー、記憶喪失かー。そんなの実際にあるんだな。あ、自己紹介遅れたわ。俺ユウジ、ハヤトの親友だ。よろしくな!」
「は、はぁ……こちらこそよろしくお願いします」
ユウジが親しげにルシアに話しかける。
『親友』であることを否定はしないが普通自分で言うかねえ。
一応、記憶喪失ってことは信じてもらえたのだろうか。
んー、ユウジくらいには話しておくべきか、いややめておこう。
余計な心配をかけたくないしな。先月のことでかなり心配かけちゃってるし。
「……おい、ルシアのことを好きになったりするなよ?」
「はは、わかったわかった。彼女はとったりしないって」
ユウジに小声で釘を刺しておく。
なんとなくユウジがルシアを好きになりそうな気がしたのだ。
特にコイツはかわいい子に目がないからな。
突然いなくなるかもしれないルシアに恋してもユウジがかわいそうだ。
決してルシアを取られたくないとかそんなつもりはない……と思う。
実際、ルシアみたいな子が彼女になってくれれば最高だろう。
だが、俺にとってルシアは高嶺の花、いやもう月という感じか。
異世界の王女様だから俺みたいな平凡な高校生には手の届かない存在なわけで。
あ、あれ? いつのまにか俺ルシアのこと好きになってる?




