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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第8章

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6

「「……」」


 美緑母が去っていくのを見送り、俺たちの間に沈黙が流れた。


「ちょっ、ちょっと待っていてください」

「わかった」


 美緑は部屋の扉を少しだけ開け、その隙間から中を覗き込んだ。


「よかった。本当に隠してくれてる……」


 そんなに見られたくないものがあるのか? 逆に気になるんだが。


「ど、どうぞ。陰浦さん。入ってください」


 案内されるまま部屋に入った。

 部屋は白やベージュで統一され、整然としていた。

 本棚には、大小さまざまなペンギンのぬいぐるみが所狭しと並んでいる。


 よっぽどペンギンが好きなんだな。

 女子高生らしい部屋だとは思うが、ところどころに明らかに他人の手が加わった跡がある。


「「……」」


 部屋のライトは薄暗く調光され、ベッドには「YES」としか書かれていない枕が二つ。

 その近くにはティッシュ……それに、小さい箱。そこにはメモが挟まれていた。


『一応、一箱用意しておいたけれど、足りるかな? 足りるよね? まぁ、足りなかったら生でヤッてもいいからね。あ、安心して、デキても私たちがサポートするから。

追伸、あんまり激しい行為は遠慮してね。防音とはいえ、声が響くと気になって眠れなくなるから』


 ふざけたメモを、美緑がクシャクシャに丸めてゴミ箱に投げ捨てた。

 そして、乱暴にリモコンを押した。部屋が一気に明るくなり、妙な雰囲気も日常へと引き戻された。

 美緑母が細工していたベッドを、美緑が素早く元の状態に戻す。


 途中、小箱を手に取って少し悩んだ末、机の引き出しの中にしまった。

 いや、しまうのかよ。


「はぁ、はぁ……」


 荒い呼吸を整えた美緑は、頬を赤く染めながらも、必死に冷静さを取り戻そうとしていた。


「き、気にしないでください」


 そう言って視線を逸らしたあと、美緑は無理やり話題を変えるようにタブレットを手に取った。


「そういえば、今日は数学と化学の課題が出ていましたね。さすがにまだやっていませんよね?」

「出てたのか? 寝てたから知らんかったわ」

「私もまだやっていないので、一緒にやりましょう」

「そうだな。どうせコーヒーのせいで眠れないしな」

「母と姉がすみません……」

「あー、うん。別にいいよ」


 美緑がローテーブルを引き寄せると、鉄製の脚が床をかすかにきしませ、俺たちは隣り合って座った。

 美緑がタブレットでメールを開き、課題のPDFを表示した。

 今表示されている教科は化学だ。


「へぇー、ここかぁ。今回の課題は」

「陰浦さん、もしわからない所があればお教えしますよ」


 いつも授業中に寝ている俺を気遣ってくれる。ありがたい申し出だ。


「あぁ、わかんなかったら頼むけど、ひとまず自分でやってみるよ。教科書を貸してくれるか?」

「あ、はい。どうぞ」

「ありがとう」


 受け取った教科書は、まるで新品のようにきれいだった。

 俺たちは静かにペンを走らせた。

 さっきまでの騒がしさが嘘のように、部屋には穏やかな空気が流れていた。


「……なんだ、化学は簡単だな……」

「そうですね。ほとんど穴埋めでしたね」


 それほど時間もかからず、俺たちは化学の課題をほぼ同時に終わらせ、次は数学に取り掛かった。


「なるほど、こういうことか」

「……陰浦さんってやっぱり頭いいですよね。少し教科書を見ただけですぐに理解するなんて」

「頭いいのかわかんないけど、俺的には、数学ってパズル感があるんだよな。数字をはめ込む感じ? だから案外いける」

「……えっ、そのように考えるのですか?」

「まぁな。あ、美緑」


 シャーペンを指先でくるくる回しながら、ふと名前を呼んだ。

 すると、美緑は一拍遅れて返事をした。


「……えっ? あ、はい!」

「どうした? そんなに驚いて」

「す、すみません。まだ陰浦さんに名前を呼ばれることに慣れていなくて……」


 美緑は耳まで赤く染めて、シャーペンのキャップをいじる。


「なに言ってんだよ? そっちが名前で呼べって言ってきたんだろ?」

「そ、そうですけど」

「まぁいいや、それより、そこ、間違ってるぞ」

「え?」


 借りたシャーペンの先で、美緑のルーズリーフを指す。


「そこの問8。x=5じゃなくて3だと思うけど……。あ、ここも……」

「あ、本当ですね。私としたことが」


 よほど疲れていたのか、それとも眠いのか、単純な計算ミスをいくつもしていた。

 美緑はすぐさま間違っている箇所を訂正していく。


「ふぅ、終わったな……」

「そうですね。終わりましたね」


 数学の計算式と答え、それに化学の解答を書いたそれぞれのルーズリーフを写真に撮ってメールで送信した俺たちは、一息をついた。

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