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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第8章

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5

 一足先に俺だけ風呂から上がると、美緑母と姉がニヤニヤした表情でソファにくつろいでいた。

 美緑父は俺たちがさっき食事したダイニングテーブルで、俺を睨みながら焼酎をあおっていた。


「どうだった? 明くん」

「あぁ、『お風呂』のことですね? ありがとうございます。気持ちよかったです。おかげでさっぱりしました」

「違うでしょ。『気持ちよかったです。すっきりしました』でしょ?」

「……」


 なに言ってんだ、この姉は。


「はい、明くん。コーヒーどうぞ」


 美緑母にホットコーヒーの入ったマグカップを手渡された。


「あ、いや、もう眠たいので、せっかく淹れてもらってなんですが、大丈夫です。ありがとうございます」

「あらそう? せっかく旦那が、明くんへの感謝のしるしに淹れてくれたのに……」

「……」


 無言の美緑父が、少しだけ悲しそうな表情で焼酎を飲む。

 こ、断りづれぇ。


「私と華帆、美緑は飲めないし、旦那はヤケ酒の最中だし。もったいないけど、捨てるしかないわね……」

「あ、いや、やっぱりもらいます。香りをかいでいたら飲みたくなってきました」


 コーヒーを受け取ると、美緑父の口角が少し上がる。

 淹れてもらったコーヒーを飲むと、なぜか美緑母と姉がこっそりハイタッチをした。

 それより……、このコーヒーすごくうまい。

 深い苦みの奥に、ほのかな甘みと香ばしさが広がる。


「香りもいいし、自分好みの苦みで、すごくおいしいです」

「おぉ、わかるかね明くん! このコーヒーは私が豆選びから淹れ方までこだわって――」


 スイッチが入ったように、美緑父の早口が止まらない。

 ……めっちゃコーヒーに情熱的だな。


 そこに、髪を乾かし終えた美緑が戻ってきた。

 ゆったりとしたシャツにショートパンツ姿、ほのかにシャンプーの甘い香りがふわりと漂う。

 風呂上がり補正で、より美少女に見えた。


「あら美緑。なんだか肌がつやつやしているわね」

「お母さん、あれよ。絶対『そういうこと』をした顔よ」

「あぁ、なるほどね。若いわねぇ」


 なるほどじゃねぇ。してねぇよ。


「でもその香り……あぁ! 美緑あんた、私の高い化粧水使ったでしょ!?」

「な、なんのこと?」


 姉に詰め寄られる美緑はそっぽを向く。


「まぁまぁ、それより、二人は朝早いんだから。さっさと寝ないとね。明くん。案内するわ」

「あ、ありがとうございます」


 いまだコーヒーの説明を続けている美緑父をよそに、俺と美緑は母について行く。


「じゃあ、陰浦さん。お母さん。おやすみなさい。また明日……」


 美緑が自分の部屋の前で俺と母に挨拶をする。


「あぁ、おやすみ」

「ええ、二人ともおやすみ、後は頑張ってね」


 挨拶を返した俺は、自分が眠る部屋に案内してもらおうとするが、美緑母は美緑の部屋の前で案内を終わらせた。

 「ここよ」と微笑んだ。


「えぇ!? なんで私の部屋? 他に部屋は余っているのに」

「今ちょうど埋まっちゃってるのよ。この前、荷物が増えてしまってね」


 嘘くせぇ。


「安心して美緑。見られたくないものは、クローゼットの中に押し込んでおいたから」

「あ、ありがとう。……じゃなくて!!」

「明くん……」


 美緑の抗議を一切聞かない母は、俺へと向き直って真剣な表情をする。

 美緑父同様、「娘には手を出すなよ?」ということなのだろうか? だったら、別の部屋にすればいいのに……。


「やっちゃっていいからね」


 は? なに言ってんの?

 あるキャンディのキャラクターのように、舌を少し出し、握りこぶしを作って人差し指と中指の間から親指を出す。


「……」

「お母さんなに言ってるの!?」


 本当だよ。なに言ってんだよ……。


「君ならちゃんと責任を取ってくれそうだからいいわ。ウチはそれなりに裕福だから、赤ちゃんの一人や二人できても支えられるし……」


 いや、そういうことじゃねぇんだけど……。


「あ、赤ちゃん!? まだ早いよ。結婚もまだしてないのに……」


 だから、そういうことでもねぇよ……。

 結婚もなにも、まず付き合ってもねぇし、親が自分の娘とやってもいいって言うんじゃねぇよ。


「もうどっちでもいいです。こんな時間ですから、眠……く……ない?」


 ……あ!


「ふっふっふっ。気づいたようね。さっきのコーヒー、普通のものじゃないわ。眠気を一気に吹き飛ばす、夫特製のハイパーブレンドよ! どんなに眠りたくても眠れないわ」


 ……それ、絶対人間が飲んじゃいけないやつだろ。


「だから、この子とひと運動でもしなさいな。ふふっ、孫の顔が見れるのも近いわね……」

「ちょっ、待って! お母さん!!」

「その前に普通に寝かせてくれよ……」


 美緑母は、娘が伸ばした手をひらりと躱し、口元に手を当て「ふふふふ……」と笑いながら去っていった。

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