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一足先に俺だけ風呂から上がると、美緑母と姉がニヤニヤした表情でソファにくつろいでいた。
美緑父は俺たちがさっき食事したダイニングテーブルで、俺を睨みながら焼酎をあおっていた。
「どうだった? 明くん」
「あぁ、『お風呂』のことですね? ありがとうございます。気持ちよかったです。おかげでさっぱりしました」
「違うでしょ。『気持ちよかったです。すっきりしました』でしょ?」
「……」
なに言ってんだ、この姉は。
「はい、明くん。コーヒーどうぞ」
美緑母にホットコーヒーの入ったマグカップを手渡された。
「あ、いや、もう眠たいので、せっかく淹れてもらってなんですが、大丈夫です。ありがとうございます」
「あらそう? せっかく旦那が、明くんへの感謝のしるしに淹れてくれたのに……」
「……」
無言の美緑父が、少しだけ悲しそうな表情で焼酎を飲む。
こ、断りづれぇ。
「私と華帆、美緑は飲めないし、旦那はヤケ酒の最中だし。もったいないけど、捨てるしかないわね……」
「あ、いや、やっぱりもらいます。香りをかいでいたら飲みたくなってきました」
コーヒーを受け取ると、美緑父の口角が少し上がる。
淹れてもらったコーヒーを飲むと、なぜか美緑母と姉がこっそりハイタッチをした。
それより……、このコーヒーすごくうまい。
深い苦みの奥に、ほのかな甘みと香ばしさが広がる。
「香りもいいし、自分好みの苦みで、すごくおいしいです」
「おぉ、わかるかね明くん! このコーヒーは私が豆選びから淹れ方までこだわって――」
スイッチが入ったように、美緑父の早口が止まらない。
……めっちゃコーヒーに情熱的だな。
そこに、髪を乾かし終えた美緑が戻ってきた。
ゆったりとしたシャツにショートパンツ姿、ほのかにシャンプーの甘い香りがふわりと漂う。
風呂上がり補正で、より美少女に見えた。
「あら美緑。なんだか肌がつやつやしているわね」
「お母さん、あれよ。絶対『そういうこと』をした顔よ」
「あぁ、なるほどね。若いわねぇ」
なるほどじゃねぇ。してねぇよ。
「でもその香り……あぁ! 美緑あんた、私の高い化粧水使ったでしょ!?」
「な、なんのこと?」
姉に詰め寄られる美緑はそっぽを向く。
「まぁまぁ、それより、二人は朝早いんだから。さっさと寝ないとね。明くん。案内するわ」
「あ、ありがとうございます」
いまだコーヒーの説明を続けている美緑父をよそに、俺と美緑は母について行く。
「じゃあ、陰浦さん。お母さん。おやすみなさい。また明日……」
美緑が自分の部屋の前で俺と母に挨拶をする。
「あぁ、おやすみ」
「ええ、二人ともおやすみ、後は頑張ってね」
挨拶を返した俺は、自分が眠る部屋に案内してもらおうとするが、美緑母は美緑の部屋の前で案内を終わらせた。
「ここよ」と微笑んだ。
「えぇ!? なんで私の部屋? 他に部屋は余っているのに」
「今ちょうど埋まっちゃってるのよ。この前、荷物が増えてしまってね」
嘘くせぇ。
「安心して美緑。見られたくないものは、クローゼットの中に押し込んでおいたから」
「あ、ありがとう。……じゃなくて!!」
「明くん……」
美緑の抗議を一切聞かない母は、俺へと向き直って真剣な表情をする。
美緑父同様、「娘には手を出すなよ?」ということなのだろうか? だったら、別の部屋にすればいいのに……。
「やっちゃっていいからね」
は? なに言ってんの?
あるキャンディのキャラクターのように、舌を少し出し、握りこぶしを作って人差し指と中指の間から親指を出す。
「……」
「お母さんなに言ってるの!?」
本当だよ。なに言ってんだよ……。
「君ならちゃんと責任を取ってくれそうだからいいわ。ウチはそれなりに裕福だから、赤ちゃんの一人や二人できても支えられるし……」
いや、そういうことじゃねぇんだけど……。
「あ、赤ちゃん!? まだ早いよ。結婚もまだしてないのに……」
だから、そういうことでもねぇよ……。
結婚もなにも、まず付き合ってもねぇし、親が自分の娘とやってもいいって言うんじゃねぇよ。
「もうどっちでもいいです。こんな時間ですから、眠……く……ない?」
……あ!
「ふっふっふっ。気づいたようね。さっきのコーヒー、普通のものじゃないわ。眠気を一気に吹き飛ばす、夫特製のハイパーブレンドよ! どんなに眠りたくても眠れないわ」
……それ、絶対人間が飲んじゃいけないやつだろ。
「だから、この子とひと運動でもしなさいな。ふふっ、孫の顔が見れるのも近いわね……」
「ちょっ、待って! お母さん!!」
「その前に普通に寝かせてくれよ……」
美緑母は、娘が伸ばした手をひらりと躱し、口元に手を当て「ふふふふ……」と笑いながら去っていった。




