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「ふぅ……。疲れたぁー」
他人の家の風呂とはいえ、ようやく一人になれて気が休まる。
美緑母から、シャンプーやボディソープなど好きに使っていいと許可を得ている。
まず体を洗おうとしたところで、脱衣所に誰かが入ってきた気配がする。
「ちょっと、お姉ちゃん……」
「いい……。はいり……。ほ……ぬ………」
扉越しに、なにを言っているのか聞き取れないが、美緑と姉が揉めているらしい。
構わず体を洗おうとしたところ――。
「ちょっと待って、お姉ちゃん!!」
ガラッ!
浴室の扉が勢いよく開いた。
そこには、無理やり服を脱がされた美緑が立っていた。
瑞々しい肌と豊満な肢体を露わにした美緑は、手や腕で自分の大事な部分を必死に隠そうとしている。
だが、全然隠れていない。むしろ、はみ出しまくっている。
スタイルがいいことは、制服の上からでもわかっていたが、胸や尻は豊満で、それでいて腹や手足は細く、美緑の体つきはグラビアアイドル並だ。
コイツ本当にスタイルがいいな。
「きゃぁーーーっ!!」
悲鳴を上げてしゃがみ込む美緑。
その背後で腕を組んでいる姉が、俺の方を見てニヤリと笑った。
「へぇ……なかなか立派ね」
「……なにしてるんですか?」
俺の体を見て感心している姉に、冷静に質問する。
「なにって、そりゃあ、明くんを喜ばせようと思ってね」
「そんなことより、陰浦さんも隠してください!!」
「ん? あ、あぁ」
俺は壁に掛けてあったタオルを腰に巻いた。
「ほら、美緑。明くんの体を洗ってあげなさい」
「えっ?」
「いや、自分で洗います」
姉のとんでもない提案に、美緑が凍り付き、俺がきっぱり断った。
「遠慮しなくていいのよ、お礼なんだから。それより、美緑。いつまでしゃがんでいるの? いいじゃない、別に減るもんじゃないし……」
「減るよ! 私の大切ななにかが減るよ!!」
「あのぉ、風呂くらいゆっくり入りた――」
「美緑」
俺の話を遮って、呆れた姉が口を開く。
あぁ、そうだった。この家族は人の話を聞かないんだった。
「そんなに駄々をこねるなら、美緑の代わりに私が『お礼』するわよ」
姉は着ていたブラウスの裾を捲し上げ、美しいくびれから覗くへそや、美緑ほどではないが大きい物を包み込んでいる下着まで露わにする。
「それはダメェ!!」
美緑は勢いよく立ち上がり、半分まで服を脱いでいた姉の手を止めた。
「……キャーー」
だが、今自分が裸であることを思い出した美緑は、悲鳴を上げてすぐにしゃがみこんだ。
もうどうでもいいから、風呂に入らせてくれないかな? 寒くなってきた。
「なら、あなたがお礼しなさいよ」
「でもぉ……」
しゃがんでいる顔を伏せたまま渋る美緑に、姉がさらに深いため息を吐く。
「はぁ……あんたねぇ。明くんを見なさい」
「えぇ!? 無理だよぉ……」
とは言うものの、美緑がチラッとこちらを見る。
「誰が股間を見ろと言ったのよ!」
俺のタオル越しの股間に視線を送った美緑の頭を、姉がペシッと叩く。
「イタイッ!!」
「このむっつり。そうじゃなくて腕よ、腕!」
「あっ……」
服と一緒に包帯を解いたことによって、今は、左腕の傷が露わになっていた。
腕には、十五センチほどの赤黒い傷が一本、くっきりと刻まれていた。
傷口はまだ完全にはふさがっておらず、少し血がにじんでいた。
「いい? 美緑。明くんは、あなたを守ってあんな怪我をしたのよ?」
「あぅ……」
「それに、髪や体を洗う時にシャンプーやボディソープがあの傷にしみちゃうでしょ? だからあなたが洗ってあげなさい!」
「……わ、わかったよぉ」
美緑は近くのバスタオルを引っ掴み、ギュッと胸の前で握る。
震える手でそれを体に巻きつけると、小さく息を飲み込んだ。
そして、意を決したように浴室へと足を踏み入れてきた。
バスタオルを身にまとっている美緑は、そこらの男子高校生なら魅惑的に映るだろう。
「陰浦さん。私に洗わせてください」
「あ、そうそう」
美緑姉がニヤニヤしながら追い打ちをかける。
「今日から泡タイプのボディソープに変えたから、手で洗ってあげるのよ」
「えっ……?」
美緑が固まった。
「それとね。…………」
「えぇぇ!! ムリムリムリ!」
姉が美緑に耳打ちすると、美緑が大声を出して首を全力で振った。
「お風呂が二人の初体験になるのね。フフフッ……。じゃっ、後はお楽しみに♪」
楽しそうな姉は浴室の扉を閉め、脱衣所から出ていった。
「「……」」
俺たちは立ったまましばらくお互いの顔を見合わせた。
「はぁ……立っていても風邪ひくだけだし、体をさっさと洗って湯に浸かろう」
「あ、わ、私に洗わせてください!」
「いや、無理すんなよ。顔が真っ赤だぞ」
「だ、大丈夫です。す、座ってください」
「……わかったよ」
あまり長引かせないほうがいいと思い、美緑の指示に従った。
「それじゃあ、シャンプーからしますね」
「頼む」
美緑は膝をつき、泡立てた手で丁寧に俺の髪を洗い始めた。
ふわりとシャンプーの甘い香りが立ち上り、指の腹が頭皮を優しく押す。
シャワシャワと泡のはじける音が耳に心地よかった。
「かゆいところはありませんか?」
美容師のように聞いてきた。
「あぁ、むしろ気持ちいいんだが……」
「気になることがありましたら遠慮なく言ってくださいね」
「……いや、大丈夫。なんでもない」
そう。洗われる頭は心地いい。だが、その一方で背中に柔らかい物が当たっている。
いや、気のせいだ。めっちゃ柔らかいタオルかなにかだろう。
だいぶ恥ずかしさが消えたのか、美緑は小さく鼻歌を歌いながら俺の頭を洗ってくれている。
この様子だと、気づいていないらしい。
それにしてもマジでデカいな。なにがとは言わないが……。
「よしっ。じゃあ流しますねー」
「あぁ、頼む」
美緑が俺の頭を念入りに洗い流す。
続いて美緑がボディソープのボトルを手に取ったが、急に我に返って緊張し始め、手が止まった。
「なぁ、やっぱり自分でするぞ?」
「だ、大丈夫です! やります、やらせてください!」
意地になっている美緑が、ボディソープを手に出す。
俺は背中だけを洗ってもらおうとじっとしていると、背中に明らかに手ではない感触が伝わってきた。
背中に当たっているのは、おそらく、さっき頭を洗われたときに押し付けられていたものと同じだ。
「なぁ?」
「……は、はい」
「なにをしているんだ?」
後ろを振り向かずに問いかける。
「か、体を……洗っているだけ、ですよ?」
「手で洗っているにしては柔らかすぎるような気がするんだが?」
「た、たたた、ただのスポンジですっ! う、ウチのは、その……特別製、ですから……」
言いながら声が尻すぼみになっていく。
鏡越しの美緑の顔が、耳まで真っ赤なのはごまかせていない。
「へぇ、そうなのかぁ。その特別製スポンジってどんなのか気になるな」
そう言って俺は後ろを振り返る。
「えっ? ちょっ、待っ――」
「……」
振り返った先の俺の目に映ったのは、泡まみれの美緑だった。
「ち、違うんですっ!」
「ヘェー、コレハタシカニ、トクベツセイダナ」
肌は泡で白く、対照的に首から上は、茹蛸のように真っ赤になっていた。
間違いなく、あの姉の入れ知恵だな。
「…………」
「あのなぁ、姉になにを言われたか知らねぇけど、こんなことはしなくていい」
「で、でも、私のせいで、こんな怪我を負わせてしまいましたし……」
美緑が俺の左腕の傷に恐る恐る触れた。
「私も、助けてもらったお礼をしたかったんで――ウッ……」
お礼の仕方を間違いすぎている美緑のデコを指ではじいた。
「お礼ならもう十分だよ。手当てしてもらったし、豪華な飯をご馳走にもなったし、頭も洗ってもらった」
「でも、それだけだと私の気が……」
「それなら、今度、なんか奢ってくれ」
どうしても礼をしたい美緑に、無理のない範囲のものを言う。
「そんなことでいいのですか?」
「そんなことで十分だよ。むしろ、無理して体を張られても引くだけだ。それとも、お前は自分の体でどうしても礼をしたいのか?」
「……か、陰浦さんが望むな――イタッ」
もう一度デコを指ではじく。
「俺が本当にそんなことを望んでいると思うのか?」
「うぅ……。わかりました……」
俺の正直な感想に、美緑が素直に体を離す。
「わかったなら、さっさと体を洗って湯に浸かろうぜ。寒くなってきた……」
「はい……」
ひと騒動あったものの、それぞれ自分の体を洗った俺たちは、背中合わせで湯船に入った。
しばらくの間、お互いの肌と体温、そして心臓の鼓動だけを感じながら、無言の時間が流れた。




