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美緑父は肩を落として黙ってビールを飲んでいる一方、母が口を開く。
「夫が言った通り、私たちが大切に育ててきた娘……どうかしら? 明くん」
どうもこうも、いきなりそんなこと言われてもな……。
「え、えーっと……。いやー、どうって言われても…………」
「あら、なにか不満でもあるの? あ、運動音痴なところ?」
「それとも料理ができないところ?」
美緑母と姉が交互に尋問してくる。
「い、いえ、別にそういうのは気にしませんけど……」
「じゃあなに? もしかして、もう付き合っている子がいるの?」
「それとも、同性が好み?」
「いや、付き合っている人もいないですし、同性は恋愛対象ではないです」
「「じゃあなに?」」
二人は少し机に乗り出して追及してきた。
圧がすごい、圧が……。
「い、今は彼女が欲しいと思わないだけです」
「なんだ、そういうこと。じゃあ美緑のことはどう『想って』いるの?」
美緑姉に詰め寄られた。
「どう、おもうもなにも……」
「あ、異性としてね。同級生とか、クラスメイトなんて、つまらない答えは却下ね」
「……」
美緑母に逃げ道を塞がれた。
これはマズい……。
美緑母と姉からの尋問。美緑は期待の眼差し。そして、父からは殺意満載の目。
逃げ道ゼロ。
なぜか額にじわりと汗がにじみ、喉がカラカラになる。
これは、答えを間違えたら死ぬやつだ。
だけど、俺の語彙力では正解なんて引き当てられそうにない。仕方なく、無難な回答をする。
「……えーっと……、か、可愛いと思います……」
「「「「……」」」」
一瞬、時計の秒針の音だけが響いた。
美緑家族全員が無言で俺を見つめ、続きを催促してくる。
……なに、この尋問室みたいな空気。
「……好きか嫌いかと言われたら好きですけど、まだ知り合ってそんなに経っていないんで……今、言えるのはこのくらいです」
「んー、六十点」
「え?」
割と高い点数だな。俺的には三十点もいっていないと思ったんだけど。
「そうね、『愛しています!!』って言えば……」
「結婚できる年齢になれば、すぐに結婚させてあげてもよかったけれど、その答えじゃ二十歳までお預けね」
美緑姉と母から揃ってダメ出しを食らった。
いや、結婚は確定なのかよ……。
「あ、安心してね。美緑と結婚したからって、弁護士か検察官になれって言うつもりはないからね。なんなら、美緑を幸せにしてくれるのならフリーターでも構わないわよ」
美緑母が親指を立てるが、話が飛躍しすぎだ。
「あ、いや――」
「フリーターは駄目だ! どこかに就職してもらわないと……。せめて公務員にでもなってもらわないと、美緑はやらん!」
美緑父も父で、なんだかんだ結婚は承諾したような言い草だ。
「だから、まだ付き合ってもいな――」
「あ、もしくは、私専属のパラリーガルになる?」
ダメだ。全く人の話を聞かないな、この家族。
「ちょっと、お父さんもお母さんもやめて!! 陰浦さんが困ってるでしょ!」
そうだ言ってやれ、美緑。
「陰浦さんの就きたい職業に就かせてあげて!!」
……いや、うん。それはそうなんだが……。
論点は、就職先云々じゃないんだよなぁ。
せっかくの御馳走なのに、まったく味がしない。
「あの、ご馳走様でした。美味しかったです」
皿に盛り付けてもらった料理を完食した俺は、席を立った。
「あら、もういいの?」
もういいもなにも、美緑母が次から次へと料理を俺の皿に盛るから、マジで腹いっぱいだ。
それでもテーブルの上にはまだまだ豪勢な食事が残っている。
「はい、結構お腹いっぱいですし、もうこんな時間なので失礼します」
美緑家の壁掛け時計を見る。
時刻は八時半。
明日も学校だし、早く帰って風呂入って寝たい。てか本来なら今頃寝ているのに……。
さすがに今日は疲れた。
「なにを言ってるの? 明くん、あなたは今日ウチに泊まるのよ?」
「……は?」
「えぇ!? そうなの、お母さん?」
俺が泊まることがいつの間にか決定していたことに、俺より美緑のほうが驚き、目を丸くした。
「そうよ。さっき明くんがお母さんに電話をかけたとき、代わってもらったでしょ? そのときにお話ししたの」
あー、あのときか。
「それに、二人とも明日は警察署で今日のことを話さないといけないし、明くんの腕の傷を病院で診てもらわないと」
大した傷じゃないから、別に病院なんかに行かなくてもいいんだがな。
「でも、着替えが……」
「あぁ、それは安心して。帰ってくる前に、私が色々と買ってきておいたの」
美緑母から紙袋を渡された。
「夫のものを貸してもよかったのだけれど、さすがに加齢臭がするのは嫌だと思って……」
美緑父が自分の体のあちこちを嗅ぎ出す。
「いや、そんなことより……」
おっもっ……。
手渡された紙袋を受け取ると、結構な重量があった。
中身を確認すると、下着やパジャマだけでなく、普段着でも使えそうなパンツやシャツにジャケットなどがたくさん入っていた。
「あぁ、ごめんねぇ。安物ばかりで悪いけど、我慢してね」
「いや、そこじゃなくて、下着やパジャマはまだわかるんですが、この洋服はどういうことですか?」
「あぁ、それのことね。君はこれから私たちの『義息子』になるのだから、いつでもここに泊まっていいからね。いっそのこと住んじゃってもいいのだけど……それは追々ね。さっ、お風呂に入っておいで」
紙袋を抱えた俺の背中を美緑母が押してきた。
脱衣所に案内された俺は、着ていた制服を脱いで浴室に入った。




