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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第8章

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「……明くん。君が美緑の彼氏ということは本当かい? それに、カップルシートでいちゃつきながら映画を観たとかも……?」


 冷静を装う美緑父の手が震え、その拍子にビールがこぼれた。


「なにやってんのよ、貴方……」


 それを美緑母が呆れながら拭く。


「いや、カップルシートで映画は見ましたけど、それは美緑さんのお姉さんと自分の姉に貰ったチケットが、カップルシートだっただけで……。それに、美緑さんとは付き合っていません」


 きっぱり否定すると、美緑の唇の端が微かに下がり、少し寂しそうな表情になった。


「そうか……」

「あら、でも、今日、電車では『美緑は俺のものだ!!』って言っていたじゃない。かっこよかったわよぉ」

「なぁにぃ?」


 美緑父はほっとしたかと思えば、電車でのことを母が思い出し、父がまた過剰に反応した。

 この人、思いのほか感情豊かだな。


「いや、あれは仕方なくで……美緑さんとは――」


 勘違いで殺されるくらいなら、面倒だがコイツとのことを一から説明する方がましだ。


「なんだ、そういうことだったのかぁ。いやー、早とちりをしてしまって申し訳ない。もし、娘と付き合っているんだったら、うっかり起訴するところだったよぉ。アハハハ……」


 この人、本当に検察官かよ。親バカにもほどがある。


「安心して、明くん。君は私が全力で守るから」

「なにぃ? 三奈、私と裁判で戦おうというのか?」


 急に殺伐とした雰囲気になった。


「そうよ。貴方が明くんを起訴するつもりならそうだけど? 私に一度も勝ったことのない貴方が勝てるとでも? それに、さっきの発言を録音してあるのだけど……これでも、貴方に勝ち目があるとでも思っているの?」

「うぐっ……いつの間に……」


 美緑母が取り出したボイスレコーダーの再生ボタンを押すと、場の空気が一瞬で凍った。

 スピーカーから、さっきの美緑父の脅迫まがいの声が生々しく響いた。


「あ! いいこと思いついた」


 この両親のやり取りには慣れているのか、この状況を気にする様子もなく、美緑姉が突然声を上げた。


「華帆、いきなりどうしたのよ?」

「明くんにお礼がしたいのなら、いっそのこと、美緑を明くんにあげたらいいんじゃない?」

「は?」

「えぇ!?」

「なっ……!!」


 俺、美緑、父の三人はそれぞれ違った驚きをした。


「良いわねぇ。礼儀正しいし、美緑もすっごく懐いているみたいだし、なにより、美緑を守ってくれた……。結婚相手として申し分ないわ」


 「グッジョブ華帆」「お母さんこそナイスアシスト」「余計なことしないでよ。二人とも……」と、美緑母、姉、美緑の三人が目で会話をする。


「わ、私は反対だぞ!!」


 美緑父が身を乗り出した。


「いくら美緑を守れるくらい強くても、勉強ができなきゃ、いい職業にもつけない。結果的に美緑が苦労することになる。せめて学年十位以内じゃないと、私は認めん!!」


 美緑父が条件を出してくるが、その条件はちょっとな……。


「それもそうね。明くん、この前の中間テストでは何位だったの?」

「あー、えーっと……何位だったっけな? 確か……六十位くらいだったかと……。すみません。自分みたいなアホでは美緑さんに釣り合っていませんね」

「フンッ、六十位だと? 話にならんな」


 美緑父は鼻で笑った。


「なに嘘をついているのですか? お父さん、陰浦さんは学年六位だよ」


 美緑が俺のテストの順位をバラす。

 ちょっ、お前なにバラしてんの?


「明くん本当なの?」


 美緑姉が目を丸くする。


「いやー、美緑さんの見間違いじゃないですかね? 自分は、そんなに頭良くないですよ」

「見間違いじゃないです!」


 美緑がスマホを取り出した。

 指先が画面を滑り、ぱっと証拠写真が表示された。

 学校のロータリーに張り出された二年の順位表。

 六位の欄には俺の名前が載っていた。

 美緑母、姉、父が身を寄せて画面を覗き込んだ。


「へぇー。君、頭もいいんだね」

「ぐぬぬ……。いーや、私は信じない」

「それなら、もう一枚証拠があるよ?」


 スワイプさせて次の写真は、各教科の点数と順位が載っている俺の点数表。


「なに勝手に撮ってんだよ」

「すみません。つい……」

「あら、本当」

「……」


 美緑父の眉間の皴が少しだけゆるむ。


「しかも見て、二人とも。全部九十点なの。狙ったようにしか見えないんだけど」

「そうなの! お姉ちゃん。陰浦さんって、毎日授業中に寝ているのに、この点数なんだよ。すごくない?」

「それはすごいけど……」

「授業中に寝るのはねぇ……」

「やっぱりな。生活態度が悪いんじゃないか」

「あ、いや……」


 美緑が小さく眉をひそめた。

 家族の反応が自分の思っていた方向とずれてきたらしい。


「でも、大したことじゃないんじゃない?」


 美緑姉が軽く笑う。


「その程度、普通じゃないの? 私も寝て、よく怒られてたし」

「それもそうね。その程度なら目をつぶっても、お釣りがくるくらい明くんは美緑を幸せにしてくれそうだし……」

「だよね。お姉ちゃん、お母さん」


 今度は俺と美緑父が、三人の反応に戸惑った。


「ちょっと待て! 生活態度が悪いってことは、性格も悪いってことだ。だろ?」

「はい。自分、めっちゃ性格悪いです」


 美緑父に敵対視されていた俺は、いつの間にか父の味方になり、自ら欠点を話す。


「それに、どこの馬の骨とも知れない性格の悪いやつに美緑はやらん!!」

「うんうん」


 美緑父の言葉に俺が頷く。


「私がどれだけ娘たちを大切に育ててきた――」

「お父さんと明くんは黙ってて」「貴方と明くんは黙ってて」

「「あ、はい……」」


 美緑姉と母に叱られてしまった。

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