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「……明くん。君が美緑の彼氏ということは本当かい? それに、カップルシートでいちゃつきながら映画を観たとかも……?」
冷静を装う美緑父の手が震え、その拍子にビールがこぼれた。
「なにやってんのよ、貴方……」
それを美緑母が呆れながら拭く。
「いや、カップルシートで映画は見ましたけど、それは美緑さんのお姉さんと自分の姉に貰ったチケットが、カップルシートだっただけで……。それに、美緑さんとは付き合っていません」
きっぱり否定すると、美緑の唇の端が微かに下がり、少し寂しそうな表情になった。
「そうか……」
「あら、でも、今日、電車では『美緑は俺のものだ!!』って言っていたじゃない。かっこよかったわよぉ」
「なぁにぃ?」
美緑父はほっとしたかと思えば、電車でのことを母が思い出し、父がまた過剰に反応した。
この人、思いのほか感情豊かだな。
「いや、あれは仕方なくで……美緑さんとは――」
勘違いで殺されるくらいなら、面倒だがコイツとのことを一から説明する方がましだ。
「なんだ、そういうことだったのかぁ。いやー、早とちりをしてしまって申し訳ない。もし、娘と付き合っているんだったら、うっかり起訴するところだったよぉ。アハハハ……」
この人、本当に検察官かよ。親バカにもほどがある。
「安心して、明くん。君は私が全力で守るから」
「なにぃ? 三奈、私と裁判で戦おうというのか?」
急に殺伐とした雰囲気になった。
「そうよ。貴方が明くんを起訴するつもりならそうだけど? 私に一度も勝ったことのない貴方が勝てるとでも? それに、さっきの発言を録音してあるのだけど……これでも、貴方に勝ち目があるとでも思っているの?」
「うぐっ……いつの間に……」
美緑母が取り出したボイスレコーダーの再生ボタンを押すと、場の空気が一瞬で凍った。
スピーカーから、さっきの美緑父の脅迫まがいの声が生々しく響いた。
「あ! いいこと思いついた」
この両親のやり取りには慣れているのか、この状況を気にする様子もなく、美緑姉が突然声を上げた。
「華帆、いきなりどうしたのよ?」
「明くんにお礼がしたいのなら、いっそのこと、美緑を明くんにあげたらいいんじゃない?」
「は?」
「えぇ!?」
「なっ……!!」
俺、美緑、父の三人はそれぞれ違った驚きをした。
「良いわねぇ。礼儀正しいし、美緑もすっごく懐いているみたいだし、なにより、美緑を守ってくれた……。結婚相手として申し分ないわ」
「グッジョブ華帆」「お母さんこそナイスアシスト」「余計なことしないでよ。二人とも……」と、美緑母、姉、美緑の三人が目で会話をする。
「わ、私は反対だぞ!!」
美緑父が身を乗り出した。
「いくら美緑を守れるくらい強くても、勉強ができなきゃ、いい職業にもつけない。結果的に美緑が苦労することになる。せめて学年十位以内じゃないと、私は認めん!!」
美緑父が条件を出してくるが、その条件はちょっとな……。
「それもそうね。明くん、この前の中間テストでは何位だったの?」
「あー、えーっと……何位だったっけな? 確か……六十位くらいだったかと……。すみません。自分みたいなアホでは美緑さんに釣り合っていませんね」
「フンッ、六十位だと? 話にならんな」
美緑父は鼻で笑った。
「なに嘘をついているのですか? お父さん、陰浦さんは学年六位だよ」
美緑が俺のテストの順位をバラす。
ちょっ、お前なにバラしてんの?
「明くん本当なの?」
美緑姉が目を丸くする。
「いやー、美緑さんの見間違いじゃないですかね? 自分は、そんなに頭良くないですよ」
「見間違いじゃないです!」
美緑がスマホを取り出した。
指先が画面を滑り、ぱっと証拠写真が表示された。
学校のロータリーに張り出された二年の順位表。
六位の欄には俺の名前が載っていた。
美緑母、姉、父が身を寄せて画面を覗き込んだ。
「へぇー。君、頭もいいんだね」
「ぐぬぬ……。いーや、私は信じない」
「それなら、もう一枚証拠があるよ?」
スワイプさせて次の写真は、各教科の点数と順位が載っている俺の点数表。
「なに勝手に撮ってんだよ」
「すみません。つい……」
「あら、本当」
「……」
美緑父の眉間の皴が少しだけゆるむ。
「しかも見て、二人とも。全部九十点なの。狙ったようにしか見えないんだけど」
「そうなの! お姉ちゃん。陰浦さんって、毎日授業中に寝ているのに、この点数なんだよ。すごくない?」
「それはすごいけど……」
「授業中に寝るのはねぇ……」
「やっぱりな。生活態度が悪いんじゃないか」
「あ、いや……」
美緑が小さく眉をひそめた。
家族の反応が自分の思っていた方向とずれてきたらしい。
「でも、大したことじゃないんじゃない?」
美緑姉が軽く笑う。
「その程度、普通じゃないの? 私も寝て、よく怒られてたし」
「それもそうね。その程度なら目をつぶっても、お釣りがくるくらい明くんは美緑を幸せにしてくれそうだし……」
「だよね。お姉ちゃん、お母さん」
今度は俺と美緑父が、三人の反応に戸惑った。
「ちょっと待て! 生活態度が悪いってことは、性格も悪いってことだ。だろ?」
「はい。自分、めっちゃ性格悪いです」
美緑父に敵対視されていた俺は、いつの間にか父の味方になり、自ら欠点を話す。
「それに、どこの馬の骨とも知れない性格の悪いやつに美緑はやらん!!」
「うんうん」
美緑父の言葉に俺が頷く。
「私がどれだけ娘たちを大切に育ててきた――」
「お父さんと明くんは黙ってて」「貴方と明くんは黙ってて」
「「あ、はい……」」
美緑姉と母に叱られてしまった。




