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隣の女子は、一言で言えば美少女だった。
艶のある長い髪。
たぶんちゃんと名前のある髪型なんだろうが、俺にはわからない。
ただ、「お嬢様 髪型」と検索したら出てきそうな髪型だ。
大きな瞳と、すっと通った鼻筋。
身長はたぶん平均くらい。
冬服によってわかりにくいが、服の上からでも凹凸が見て取れるくらいスタイルが良い。
そして、仕草や口調からして、どう見ても育ちがいい感じがする。
たぶん、一般的に見れば美人系というより、可愛い系の部類になると思う。
「……あぁ、よろしく。……えーっと、悪い、誰だっけ?」
さっき自己紹介を聞いたばかりだが、やっぱり覚えられなかったか……。
「え!? お前知らねーのか!?」
前の席のやつと話していた陸斗が、信じられないという風に急に振り向いてきた。
「うっせーな、でけー声出すなよ。悪いが知らん」
それほどの有名人なのか? 全く知らねー。
「入学してからずっと学年一位をキープしている、あの夏葉 美緑さんを知らないのか?」
「知らん」
「この一年で二百人近くの男子に告白されて、その全員をフッたというあの夏葉 美緑さんを知らないのか?」
「知らん」
「うぅ……。恥ずかしいからやめてください」
「しかも、入学してすぐにファンクラブができた、あの夏葉 美緑さんを知らないのか?」
「だから知らねぇって」
「ファンクラブ⁉︎ そのようなものがあるのですね?」
学校のアイドルに祭り上げられている本人ですら気づかなかったのか。
でも、確かに勉強もできて、顔も良くて、性格まで良かったら、ファンクラブが出来て当然なのかもな。知らんけど。
「え、なに? まさかモデルとか、アイドルとか、……あ、もしかしてインフルエンザーとかってやつ? 最近流行っているもんな。見たことないけど……」
「い、いや、確かにインフルエンザも季節外れで流行っていますけど、インフルエンサーですよ、インフルエンサー」
ほう、学校のアイドルで優等生な上に、ツッコみもできるとは、さすがだな。
「あぁ、それそれ」
「いえ、そのようなことはしていません」
「はぁ……。お前ってやつは、どんだけ他人に興味ないんだよ。人の名前も覚えないしな」
陸斗に呆れられたが、これだけ名前を連発されたらさすがの俺でも覚える。
「悪いな、相葉さん全然知らなかった」
「あ、いえ、夏葉です……。別に構いませんよ」
「あぁ、悪い。俺、人の顔と名前と存在を覚えるの苦手なんだ。たぶん、また間違えると思うが、その時は申し訳ない」
ああ、ダメだ。
やっぱり上手く認識できない。
俺の目には輪郭だけは捉えられても、顔が他の人と判別できなくなり、目や鼻、口の代わりにその人物の特徴を捉えた文字が浮かぶ。
例えば、今話しかけてきたこの学校のアイドルは、顔の輪郭の内側に「優等生」という文字が浮かんでいる。コイツの印象が変われば文字も変わる。
本当に顔の判別ができないわけじゃない。
単に他人に興味がなさすぎて、顔より先に印象の方を覚えてしまう。
家族や陸斗の顔は普通にわかるし、付き合いが長くなれば自然と認識できる。
「うふふ。どうやらそのようですね。では、しっかり覚えていただけるまで、アピールし続けますね」
落葉さんは口元を上品に押さえ、かわいらしく微笑む。
ファンのやつらはこの笑顔で落ちていったのか? それに、純粋そうに見えて意外とあざといな。
「怖いこと言うなよ。勘弁してくれ……」
「ふふふ。お二人とも、これからよろしくお願いしますね」
「よろしくな!」
「ヨロシクー」
生徒たちが仲良く話をしている姿を見ていた担任は、頃合いを見計らって再度話を始めた。
「あとはいくつかお知らせなー。まず、始業式で校長が言っていたと思うが、今年からこの学校は部活に力を入れるらしいから、部活に入っていないやつらは、どこかに強制入部だそうだ」
「……は!? マジかよ、いつの間に?」
「お前、寝てたからな」
このご時世に部活強制とかありえねぇだろ。
「今、部活に入っていないやつ、手を挙げろー」
しぶしぶ手を挙げると、他にも数人の生徒が手を挙げる。
……俺を含めて四人か。意外と少ないな。
「お前ら四人、面倒くさいと思うが後で俺のところに来てくれ。後は……そうだ、明日は体力測定と健康診断があるから、体操服忘れるなよー。よし、じゃあ解散」
担任の解散の一言で、クラスメイトたちが席を立ち、各々教室を出ていく。
「なぁ、明。もういっそバスケ部に入らね?」
「嫌だ」
「アハハ、即答だな。まぁいいや。俺はこれから部活だから、どこに入るか決まったら明日教えてくれよ」
「あぁ、わかった」
俺は陸斗と別れ、担任のもとへ向かった。




