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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第7章

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 放課後。帰り支度をしていると、優等生に話しかけられた。


「陰浦さん」

「んー?」

「今日は瑞希ちゃんと一緒に帰ります。あ、電車も一緒の方向ですので……安心してください」

「俺も今日は弁当の材料を買いたかったからちょうどいい。でも、気を付けて帰れよ。危なかったら助けを呼べよ」


 ここ数日、俺は優等生と登下校を共にしていた。


「? どういうこと?」


 俺たちの変なやり取りに優等生の友達が首をかしげる。

 どうやら、誰にもあのことは言っていないらしい。


「なんでもないよ。わかりました、気を付けます。それではまた明日」

「また明日」


 二人は楽しく談笑しながら帰って行った。


「陰浦、ちょっといいか?」


 俺もバッグを持って帰ろうとしたところで、ホワイトボードを掃除し終えた担任が俺を呼び止めた。


「なんですか? えーっと……先生?」


 やはり、この担任の名前を思い出せない。


「お前、今日はなにをしたんだ?」


 担任にため息交じりに問いかけられる。


「? なんのことですか? 俺はいつも通り、まじめに授業を受けていただけですけど?」

「誰が『いつもまじめに授業を受けている』だ? 毎時間寝ているやつが……」


 担任が呆れながら言う。


「まぁいい。今日、化学の渡辺先生が、お前がどうのって言って泣いていたぞ。お前まさか、渡辺先生を怖がらせたんじゃないだろうな?」


 化学って言ったら四限目か。

 ……あー、あれか。


「違いますよ。今日、三限目で起こされて、そのまま四限目も起きてたんです。そしたら、俺が起きている姿を見た瞬間、先生が泣き出したんですよ」


 もっと言えば、先生はその場で泣き崩れ、授業が十分ほど始まらなかった。

 ……いや、泣くほどのことなのか?


「そういうことか。渡辺先生はいつも悩んでるんだぞ。お前が寝ているのは授業がつまらないせいだって」

「なんすかそれ? 結局、寝てていいんすか? ダメなんすか? いいなら、遠慮なく寝ますけど」


 寝てても泣かれて、起きても泣かれるなんて、もう、どうしようもないだろ……。

 まぁ、そんなの関係なく寝るんだがな。


「お前なぁ……。ダメに決まっているだろ」

「話はそれだけですか? そろそろ買い物に行かないといけないんで」

「はぁ……もういいぞ。気を付けて帰れよ。それと、明日の授業も寝るんじゃねーぞ」

「……さよなら」


 担任の最後の言葉を聞かなかったことにして、俺は荷物を回収して教室を出た。



 ◇ ◇ ◇



 明はバッグを肩にかけ、下駄箱に向かっていた。


「あれ? 陰浦くん、今帰り?」

「あぁ、そうだが、一人か? 優等生と一緒に帰ったんじゃないのか?」


 美緑と一緒に帰ったはずの仲村 瑞希が、なぜか学校に戻り、下駄箱でスリッパに履き替えようとしていた。


「うん、途中まで帰っていたんだけど、私が忘れ物をしちゃって……。美緑ちゃんには一人で帰ってもらったよ。ついてきてもらうのも申し訳ないし……」

「はぁ? マジか!?」

「ひっ」


 明が突然声を上げ、瑞希に詰め寄った。

 その剣幕に瑞希は思わず一歩下がった。


「あ、悪い……」


 明は、猛烈に嫌な予感を覚えた。


「う、うん、大丈夫。なにかあったの?」

「それはあとだ。優等生と別れたのはいつだ?」


 普段、飄々(ひょうひょう)としている明の焦った様子に、瑞希は驚きながらも答える。


「えーっと……確か、七分くらい前かな?」

「マジか……。次の電車が来るまで、あと五分もない。ギリ、間に合うか……?」


 明は息をのみ、即座に判断した。


「悪い、これ俺の机に置いといてくれ! じゃあな」

「え? う、うん……」


 瑞希が返事を終えるより早く、明はバッグとブレザーを瑞希へ押し付け、風のように駆け出して行った。



 ◇ ◇ ◇



 シワひとつのないパンツスーツを身に纏い、低めに結んだポニーテールの女性が、電車のつり革を握っていた。


(はぁ……疲れた。早く帰ってお酒飲もっと。明日は休みだし……)


 時刻は十六時。

 いつもより早く仕事を終えたその女性は、揺れる電車の中でぼんやりとそんなことを考えていた。

 ふと、近くで話す女子高生たちの声が耳に入る。


「ねぇ」

「なぁーにぃ?」

「あれ、やばくない?」


 一人が指差した先をもう一人が覗き込む。

 パンツスーツの女性もつられてその方向を見る。

 座席の隅。

 女子高生の隣に座っている男が、明らかに、その女子高生との距離を詰め過ぎていた。

 男の体で女子高生の表情は見えないが、女子高生が身を引こうとしている様子から、嫌がっているのは明らかだった。

 そして男は、その女子高生の肩に触れようと手を伸ばしている。


「ねぇ、助けた方がよくない?」

「えー、やだよ。関わりたくないし……」


 近くにいた女子高生たちは、言い寄っている男の様子を見ながら話を続ける。


「まぁ、確かにね。それに、今度はアタシらに言い寄って来られても気持ち悪いしね」

「あ、それならさぁ、動画を撮って、後で警察に見せよ」

「いいね、それ。なんなら、ネットにアップしよっかぁ」

「それだわ!」


 女子高生たちは持っていたスマホを構え、撮影を始めた。

 女子高生たちが動画を撮っている中、職業柄、そして一人の女性としても、このようなことを見逃すことのできない彼女は、その男へ注意しに行こうとした。


「ちょっ――」


 距離がまだ少しある中、パンツスーツの女性が声を張った瞬間――。


ガンッ!!


 突然、女性の後方――車両同士の連結部分の貫通扉が乱暴に開かれる音が響いた。


「!?」


 金属がぶつかる鋭い音に、乗客たちは一斉に肩を跳ねさせ、そちらを振り返った。

 開いた扉から現れたのは、ネクタイを緩め、シャツのボタンを外し、袖を雑にまくった目つきの悪い男子高校生だった。


(なんだ……。ただのイキった高校生か)


 と乗客の誰もがそう思った。

 注目を浴びても、その男子高校生は周囲の視線など一切気にせず、一直線に歩き始めた。

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